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小林隆教授

言語科学専攻国語学 小林隆教授教授(Takashi Kobayashi)

1957年、新潟県生まれ。東北大学 文学部卒、文学研究科博士後期課程退学。 国立国語研究所言語変化研究部研究員として日本語の方言文法について全国800地点を調査した『方言文法全 国地図』を作成し、 方言の視点から新たな日本語史の構築を目指す「方言学的日本語史」の研究へ。 1994年に東北大学文学部着任、助教授を経て現職。東北大学方言研究センターを主宰し、 学生と共に東北地方の実地方言調査を行うと同時に、日本全土にわたる方言データベースを作成している。 『方言の現在』(1996年)、『方言が明かす日本語の歴史』(2006年)、『シリーズ方言学1〜4』(2006 〜 08年)などの編・著作がある。 2012年3月には、2005 〜07年度に気仙沼市と、宮城・岩手両県にまたがる三陸地方南部地域で行った方言調査を、 国語学研究室名で『宮城県・岩手県三陸地方南部地域方言の研究』として発表している。

方言で救うために、『支援者のための気仙沼方言入門』の発行

2011年3月11日に東北地方太平洋沿岸地域を襲った地震と津波による大災害から約半年後。
2011年8月27日、小林隆教授の主宰する東北大学方言研究センターでは、『支援者のための気仙沼方言入門』という小冊子を発行しました(以下、『気仙沼方言入門』と略)。

 小林教授と学生たちは、震災前、3年かがりで気仙沼地域に入り、90人くらいの人に聞き取りをするなどして方言調査を進めていました。
震災直後、被災地の状況を見て急遽、その成果を活用して実用ポケット版的なものとしてまとめたのです。

 「このパンフレットをご覧くださる方へ」と題して、発行趣旨を示す次のようなメッセージが記されています。

 このパンフレットは、主に気仙沼地方の外から来られたボランティアや医療・行政関係者といった支援者の方々を対象に作成されています。
現地の方との交流の中で、初めて聞く方言に戸惑ったこともあるのではないでしょうか。
気仙沼の方言をよりよく理解するために、このパンフレットを役立てていただけたらと思います。

 なお、このパンフレットは現地で行った支援者の方々へのインタビュー調査の結果をもとに、気仙沼の方言について簡単に紹介しています。

 そして、以下のような内容で「気仙沼方言って、どんな方言??」なのかが示され、

1.発音
(1)シがスに聞こえる
(2)カ行・タ行がガ行・ダ行に聞こえる
(3)キがチに聞こえる

2.文法
(1)「〜サ」(共通語「〜に・〜へ」)
(2)「〜ベ・〜ッペ」(共通語「〜だろう(推量)」「〜しよう(意志)」)
(3)「〜ッコ」(身近にある小さい物を親しみを込めて呼ぶときに使う)

3.間違えやすい単語
(1)「ナゲル」(共通語「捨てる」)
(2)「ダカラ・ホンダカラ」(共通語「(本当に)そうだね」)
(3)「コワイ」「コエー」(共通語「疲れた」)
(4)「ワガンネ」(共通語「だめだ」)

 「使ってみよう!おススメの気仙沼市方言!」として、
○夕方から晩のあいさつ「オバンデス」
○別れのあいさつ「サイナー」「マタダイン」「オスズガニ」
○そうです「ホデガス」

 そして「気仙沼地方の人体呼称図」も示しながら、「病気や気分を表す語」として、
「アンベア(按配)」(健康状態)
「サブキ」(咳)
「ハラピリ」(急な下痢)
「フケサメ」(病状がよく変わること)
「コザス」(病気をこじらせる)
「スッコグル」(皮膚をすりむく)
「イズイ」(違和感がある様子)
「ハカハカ」(息切れする様子)
「アフラアフラ」(ふらふらして元気がない様子)
「ネダソラネエ」(寝た気持ちになれんい様子)
「セラセラスル(セセラポイ)」(のどがいらいらする様子)
などが紹介されています。

 メッセージにも記されているように、被災地域に入った支援者と地域の人々がうまくコミュニケーションでき、気持ち良く、スムーズに支援ができるようお手伝いする趣旨からまとめられたものです。
ここには、東日本大震災の未曾有の被災によって一歩間違えば地域崩壊にもつながりかねないという状況の中で、被災地域と支援者を「方言で救う」という現実的な視点があります。

 方言研究センターの手がけたものとしてはこの冊子に限られていますが、気仙沼地方で話される方言は、全国から見ると東北地方の方言の特徴を持っており、宮城県の言葉の他に、岩手県南部の沿岸地域の言葉とも共通した面があることから、広い範囲での利用も可能なものとなっています。
気仙沼市からはつい最近にも追加の要望があり、研究室では、残っていたものから提供しています。

 ちなみに、今、NHK総合テレビ朝の連続テレビ小説『あまちゃん』の影響から、東北地方の方言がちょっとした話題になっています。
岩手県北沿岸部・久慈市の海女と三陸鉄道北リアス線が舞台になっているドラマですが、登場人物たちがビックリしたり、感動したり、何かを強調しようとするたびに発する「じぇじぇ」という感動詞などが、新鮮な印象を与えているのです。

 この「じぇじぇ」は岩手県北部〜青森県南部の沿岸地域で使われている方言であり、盛岡など岩手県中央から青森県南部の内陸部では「じゃじゃ」、岩手県の南3分の1くらいから宮城県の牡鹿半島あたりまでの海岸部では「ばば」へと変わります。奥羽山脈をはさんで、秋田県でも「ば」が使われます。「ば」は「もののあはれ」の語源である「あば」から転訛してきたものと考えられています。

 『気仙沼方言入門』は、被災地の日常活動で接する機会の多い方言を中心にまとめているため感動詞やオノマトペは省略されていますが、方言研究では、感動詞やオノマトペは、名詞や動詞・形容詞など他の要素と並んで、方言の違いを表す大きな要素となっていくものです。
特に東北地方の方言は"音の文化、声の文化"というべき性格があり、他の地域よりも、自分の気持ちや、自分が見ているもの、感じているものを感動詞やオノマトペでリアルに表現することに長けており、それらの種類が豊富なものになっているのです。

※詳細は東北大学大学院文学研究科・文学部ブックレット「考えるということ」Vol.7の『文学部の研究紹介』をご参照ください