隠された人から両安定的関係へ          200312

 

                                        行場  次朗

 

  今年も残念ながら、アメリカのイラク侵攻など、二十一世紀の初めなのに暗い出来事が多かったように思います。空港のセキュリティチェックにもやや厳しさを感じた中、プラハで行われた国際意識科学学会に出かけ、K. Pribram博士の講演を聞くことができました。思っていた印象とは違って、Pribram 先生は小柄で実に柔和なお爺さんで、バーベキュー会のときなど、非英語圏の研究者にむしろ積極的に話しかけてきてくれたのがとても印象的でした。

 一昨年、「隠された人」の錯視図形を学友消息に載せていただきましたが、今回はその拡張版をお届けします。図の一番左は「隠された人」で、一人の「人」が上になり、他の「人」を覆い隠しています。ところが真ん中の図になると、上の「人」が透明になり、下の「人」も見えるようになります。これは、よく知られている透明視(同時的前後視)現象です。この図形では、専門的にいうと、二つのパターンが作り出すX型接点において、一方の輪郭だけで明暗の極性が保たれているので、片方のパターンが必ず上に見える単安定的 (unistable) 透明視になります。ところが、B.L. Anderson (1997) によれば、X型接点で両方の輪郭にそって明暗極性が保たれていると、どちらのパターンが上に見えてもよい両安定的 (bistable) 透明視になります。これが一番右の図形にあたるもので、どちらの「人」も上になったり下になったりして見えます。よくいわれる「天は人の上に人を作らず、人の下に----」にあたるわけです。(中間階調を多用しているので、印刷の都合でもしそう見えなかった場合にはお許しください。)

 私が見出した錯視 scotopic phantom は単安定的透明視のような見え方をするのに対し、立命館大学の北岡明佳氏と一緒に見出した photopic phantom は両安定的透明視に近い見え方をすることがわかっています。

隠された「人」→単安定的「人」→両安定的「人」をそれぞれ、男女関係、親子関係、師弟関係、そして国関係などにあてはめて考えてみると意味深長です。21世紀に入り、人々のメンタリティはおおかた両安定的になっているのに、ネオコンとよばれる人々のイラク侵攻は、その流れに逆行するものです。

 今後とも,視覚認知心理学の魅力を探って行きたいと思っておりますので,どうかご支援よろしくお願いいたします.