研究室概要

1. 沿革

   宗教学専攻分野は、旧講座名を宗教学宗教史といい、大正7年 (1924年) に旧東北帝国大学法文学部に開設され、 鈴木宗忠が初代教授に就任した。新制大学になった後、本学の宗教学研究の独特の学風形成には、 石津照璽堀 一郎および楠 正弘の各教授の影響力が大きかった。

   石津照璽教授は宗教哲学の研究から出発して、宗教の宗教性および宗教の根拠に関して独自の体系的研究を展開した。 それは、まず宗教の「事実」を実証的な諸研究成果をも加味して「外在性・拒否性」と規定し、 つまり宗教の異質性を指摘し、その上でその存在論的根拠を人間存在の基礎的な構造に求める、というものである。 この過程で、宗教に関する実証的な研究が重要な構成部分として取り入れられ、石津教授自ら調査を実施したりしている。 とりわけ文化人類学および社会学の機能主義的な観点が、解釈上の重要な枠組みをなしている。

   堀 一郎教授は、「民間信仰」という概念を学術専門語にしたことで、わが国の宗教研究に大きな貢献をした。 これによって、宗教を「規範」の立場からではなく「事実」の立場から研究する道が確立された。 とくに日本の宗教および日本人の信仰に関する研究において独自の方向を開拓し、日本学士院恩賜賞を受賞した。

集合写真    楠 正弘教授は、石津・堀両教授の問題領域を止揚・発展させた。 すなわち哲学的研究と実証的研究との統合を図り「信仰動態現象学」という独自の研究視点を提唱した。 それは、信仰現象には規範的側面と経験的側面があり、この両者が儀礼に参与する人々の心意において、時と場面に応じてダイナミックに働き、 宗教的・呪術的に作用するという実態を了解・記述するものである。 これによって宗教現象が、その「構造」において明らかにされた。

   後任の華園聰麿教授は、日本のように複数の宗教が併存し、多くの人がそれに多元的に関わっている実態を把握することを狙い、 西欧の宗教学理論の批判的再検討を通して、「信仰の多元的構造」という独自の枠組みを提唱した。 その綿密な理論構築の過程の一端はルドルフ・オットーに関する二冊の訳書『西と東の神秘主義』(共訳・第30回日本翻訳文化賞受賞)、 『聖なるもの』にうかがうことができる。

   現任の鈴木岩弓教授は宗教民俗学の視点から、人類学・民俗学およびそれと関連する学問分野を相互に関連づけて、 伝統的な宗教文化の変容、とくに死生観、祖先祭祀のそれと社会的変化との関連を研究している。 その対象地域は日本を中心として、韓国、中国およびインドネシアに及んでいる。 木村敏明教授は、インドネシアや日本をフィールドとし、 多様な文化的宗教的背景を担った人々が共存する社会における宗教の動態に注目した研究をおこなっている。 また、山田仁史准教授は、宗教民族学・神話学をキーワードに、台湾のオーストロネシア系諸民族(原住民族)などにおいてフィールドワークを行っている。

2. 現在の研究活動

   本専攻分野の研究特色の一つは、デスクワークとフィールドワークを併用する中から、理論的研究と実証的研究を行うことにある。 理論的研究に関して言えば、宗教学の古典的理論、とりわけ宗教現象学理論の再検討は本専攻分野が伝統的に力を入れてきた研究領域であり、現在も継続されている。 本学図書館の収蔵図書、とりわけ前述の石津教授の蔵書を収めた「石津文庫」にはこのような研究のために貴重な資料が数多く含まれている。

   実証的研究の場合、映像記録を活用した宗教研究に特色をもち、堀、楠、華園歴代教授によって撮影・編集された貴重な映像資料が蓄積されている。 現在もこの面での調査研究と資料の収集は継続され、東北地方のシャマニズムや民間信仰に関する資料はかなり整っている。 これらの資料を基盤にして、新しい研究分野としての「映像宗教学」の構想も練られている。 また、日本国内に加えて、海外、とりわけアジア地域での調査研究が近年活発になされている。 具体的には、韓国・中国・インドネシア・モンゴル・ウズベキスタンなどがフィールドとして研究されている。

3. 教育方針と学生の研究活動

   宗教学という学問分野は、欧米におけると同様に極めて広範囲にわたり、問題領域や方法においても多岐にわたっている。 このような事態に対処するために、一方では共通の理解の場を形成する目的で、学説史や理論を絶えず振り返り、基本的な概念や視点に関する基礎的な研究を行うと共に、 他方では文化人類学、社会学、歴史学などの実証的な研究成果や資料を用いて、宗教現象の具体的な変化や機能などを考察する眼の涵養をはかっている。 とりわけフィールド・ワークのスキル習得を目指す「宗教学実習」を必修として設けている点は、現実に「活きている宗教」に触れることが、 宗教研究のスタートであるとの認識があるからである。

   大学院の学生は日本宗教学会、宗教と社会学会、印度学宗教学会などの会員となっており、毎年の学術大会において研究成果を発表している。

4. 最近の国際交流

   宗教学分野では、昭和46年に楠教授が文学部から派遣されてインドネシア大学文学部日本研究科の客員教授として赴き、 日本人による最初の日本研究の指導を行って以来、同大学との交流が深まり、教官の交流、留学生の来日が続いてきた。 宗教学関係ではこれまで2名の学生が修士の学位を取得し、平成9年度には博士論文を作成中の学生も留学した。 最近では、平成16年に鈴木が客員教授として出向き、講義と論文指導にあたった。

  また、モンゴル国のモンゴル国立大学とは2006年2月6日に研究室間協定を結び、研究者間の学術交流、共同調査、学術刊行物の交換などを行っている。

   教員の活動としては、鈴木が中国、韓国、インドネシア、モンゴルなどで年数回調査をおこなうとともに、それらの国々で数多くの講演や発表をおこなっている。 木村はインドネシアにおいて災害と宗教に関する調査研究をおこなっている。 国際的共同研究は、これまでにインドネシア大学や、韓国の中央大学校、中国の東南大学、モンゴル国立大学などの諸機関や研究者との間で実施されてきた。

   現在、博士後期課程に中国、韓国、インドネシアから、博士前期課程に中国、台湾、ラトビアからの留学生が在籍しているほか、これまでも中国、米国、ブラジル、ハンガリー、フィンランド、インドネシア、モンゴル、タイなどからの学生を受け入れてきた。学生による海外調査も、博士前期・後期課程にフランス、オランダ、インドネシア、ネパール、シンガポールなどでフィールドワーク・資料収集を行っている学生がいる。

参考文献

東北大学文学部自己評価等実施委員会(編)
     『東北大学文学部・文化研究科の現況』東北大学文学部 (1998)

最終更新日:2015/09/01