2008年度日本思想史研究会月例会報告要旨


開催日報告者題目
2月27日 Mark Teeuwen氏 「比較神道(ジンドウ)論への誘い」
2月14・15日 修論卒論発表会
1月17日 小関康平氏 「再考・八月革命説とノモス主権論」
12月6日 渡辺和靖氏 「吉本隆明1949――小林秀雄の影響からの脱出」
11月8日 大久保健晴氏 「小野梓におけるローマ法学と功利主義」
7月12日 徐興慶氏 「朱舜水研究の再発展」
6月21日 吉川裕氏 「服部南郭再考―服部南郭の詩と礼楽観を中心に―」
6月6日
(講演会)
リチャード・レイタン氏 「明治中期におけるガイスト(GEIST)と精神」
5月10日 梶沼彩子氏「「科学者」松森胤保に関する研究」
  菊池宏一郎氏「中世前期における地蔵の救済機能―生身の意味―」
4月26日 高橋恭寛氏「中江藤樹の論語郷党篇解釈」

特別講演会

Mark Teeuwen氏「比較神道(ジンドウ)論への誘い」

《主催者からの講演者紹介》オスロ大学教授。ヨーロッパにおける日本宗教・神道の代表的研究者。編著書に、Sinto in History: Ways of the Kami (Curzon, 2000)、Buddhas and Kami in Japan: Honji Suijaku as a combinatory paradigm (Routledge Curzon, 2003)など多数。

2月例会

2月14日(土)修士論文発表会

時間発表者題目
10:00-11:00高橋 恭寛中江藤樹の思想
11:10-12:10梶沼 彩子松森胤保の思想
13:00-14:00菊池宏一郎中世前期の地蔵信仰
14:10-15:10原田 麻衣只野真葛研究
15:20-16:20吉川  裕服部南郭の思想

2月15日(日)卒業論文発表会

時間発表者題目
11:00-11:30高橋 正浩大原幽学の教導の性格
11:30-12:00田村 直洋記紀神話の思想
13:00-13:30油座 圭祐柳田学における山人・サンカ・常民
13:30-14:00荒川 真子清沢満之の思想
14:10-14:40及川 泰子内村鑑三の思想
14:40-15:10鈴木  純石田梅岩の道徳観
15:20-15:50松山 和裕『神皇正統記』における皇統論
15:50-16:20蜩焉@美和宮沢賢治の思想―大正生命主義を中心に

1月例会

小関康平氏「再考・八月革命説とノモス主権論」

帝国憲法と日本国憲法との間の法的断絶性を明らかにする為に唱えられた八月革命説は、当時の学界で多くの支持を集めた。一方、伝統的な主権概念に疑義を唱えんとする尾高朝雄博士によるノモス主権論は、基本的には宮沢俊義教授の批判の下に葬り去られた。しかしながら、八月革命説は多くの理論的矛盾を含むものであるし、他方、ノモス主権論から学び得ることも少なくない。これら両理論に内在する諸問題を紹介し、再考を試みる。(獨協大学)

12月例会

渡辺和靖氏「吉本隆明1949――小林秀雄の影響からの脱出」

吉本隆明が戦後、本格的に評論活動を開始するのは、敗戦より3年あまりを経た、1949年に入ってからである。この年、吉本は詩誌『詩文化』に「詩と科学の問題」、「ラムボオ若くはカール・マルクスの方法に就ての諸註」、そして「方法的思想の一思想――反ヴァレリイ論――」という三本の評論を連続して掲載している。これはまさしく、戦後も深い影響を受け続けていた小林秀雄の思想に対する最終的な告別の辞であった。(愛知教育大学)

11月例会

大久保健晴氏「小野梓におけるローマ法学と功利主義」

本報告の目的は、明治初期を代表する政治学者・自由民権運動家である小野梓の『羅瑪律要』を中心に、彼による西洋法学並びに日本の法的伝統との格闘が、近代日本の形成過程において有した政治思想史的意義を解明することにある。明治7年より オランダ・ライデン大学教授 J. E. ハウドスミットのローマ法研究を「纂訳」した 『羅瑪律要』は、 近代日本におけるローマ法との先駆的取り組みであり、徳川期以来の西洋法学受容史を考察する上でも貴重な意義を有している。その民法論の特質、法制官僚としての実践、民法論と国憲論・憲法構想との連関性を分析することによって、近代国家建設に向けた「法典編纂」が緊急の政治課題として浮上する明治初年に、小野がいかにして新たな思想的地平を切り開いたのか、明らかにしたい。(明治大学)

7月例会

徐興慶氏「朱舜水研究の再発展」

本報告では、東アジア文化圏における明末清初と徳川幕府の政治変遷、儒学と仏教界とのインタラクションを視野に入れ、朱舜水の「経世致用」論の展開とその学問、思想主張を述べる。さらに、今までの朱舜水研究史を取り上げて、これから朱舜水研究の再発展と問題点を考えてみたい。(台湾大学)

  1. 朱舜水と「日本乞師」
    1-1. 忠義精神=政治認同(identity)と文化認同の問題
    1-2. 日本側の朝野の反応
  2. 朱舜水の仏教批判
    2-1. 朱舜水の仏教観
    2-2. 朱舜水と徳川光圀の仏教観
  3. 朱舜水「経世致用」の実学の特性
    3-1. 朱舜水「経世致用」論の形成
    3-2. 実際生活の役にたつ学問
    3-3. 政治的実践の学
  4. 朱舜水研究の再発展
    4-1. 朱舜水の研究史
    4-2. 朱舜水研究の新視野を考える

6月例会(修士論文構想発表会)

吉川裕氏「服部南郭再考―服部南郭の詩と礼楽観を中心に―」

服部南郭(1683〜1759)において、従来は「文人」という枠組み外の思想が注目されることは殆ど無かった。しかし『文会雑記』中に南郭の「日本ハ礼楽ナシニ治マルヲ見レバ、華人ヨリハ人柄ヨキナリ」という発言が記載されているように、彼には師である徂徠とも異なる独特の礼楽観、中華観があることが看取され、再考の必要を感じさせる。そこで本発表では、これまで顧みられることが無かった彼の礼楽観を南郭の詩文の思想と絡めて考察していくことで、彼独自の思想を探る手がかりとしたい。(東北大学大学院)

講演会

リチャード・レイタン氏「明治中期におけるガイスト(GEIST)と精神」

《主催者より》リチャード・レイタン氏(フランクリン・マーシャル大学歴史学部助教授)は、ドイツにおける「VOLKSGEIST」(国民精神)論が、明治日本の精神論(日本精神論・国民精神論)とどのような関係を持っていたかという観点から研究を進めています。今回の講演と関連する氏の論文として、“National Morality,the State,and Dangerous Thought:Approaching the Moral Ideal in Late Meiji Japan”(The Japan Studies Review,Vol.9,2005)があります。

5月例会(修士論文構想発表会)

梶沼彩子氏「「科学者」松森胤保の研究」

松森胤保(1825〜1892)は、維新前には庄内藩の支藩である松山藩の付家老、維新後には山形県会議員などの公職を歴任した人物である。従来、その著作のなかでも博物学・物理学に関する分野に焦点があてられ、近世から近代へと至る過渡期の「科学者」として評価されることが多かった。本発表においては、「各専門分野からの密度の濃い研究は数々なされてはきたものの、いまだ彼についての総合的、全体的な究明までには至っていない」とする『松山町史』の問題提起をうけ、松森の思想の全体像を把握することを目的とする。(東北大学大学院)

菊池宏一郎氏「中世前期における地蔵の救済機能―生身の意味―」

中世前期(平安後期から鎌倉期)における地蔵の救済機能を考えるとき、人間を地獄から蘇生させるという先行研究の指摘に加えて、彼岸の極楽浄土へ導く役割に注目したい。『今昔物語集』などによると、人々は此岸世界に遍在する地蔵に結縁を求め、時に地蔵を探す旅に出た。それに応える地蔵は人格を有した〈生身〉(しょうじん)の姿で現れる。生身地蔵は此岸―彼岸という隔絶した両世界の媒介者であり、当時の人々は現実世界で地蔵と交感することを最終的な救済(=往生)への階梯と考えていた。(東北大学大学院)

4月例会(修士論文構想発表会)

高橋恭寛氏「中江藤樹の論語郷党篇解釈」

中江藤樹(1608-48)による『論語』郷党篇の注釈書『論語郷党啓蒙翼伝』に焦点を当て、藤樹の思想を考察する。一般に藤樹は、外的規範たる「格法」を遵守していたが、後に陽明学を信奉して内なる心を重視する「心学」へと傾斜したと言われている。そのような見取り図での「過渡期」に著された本書において、藤樹は聖人の事迹を通して聖人の心を体得すべきことを説き、所謂「心迹差別」論を主張した。本発表では、郷党篇の注釈を試みた藤樹の課題が奈辺にあるのか改めて考えたい。(東北大学大学院)


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