2015年度日本思想史研究会月例会報告要旨（予告）

開催日	報告者	題目
6月20日	柴田朗氏	「竹内敏晴の思想林竹二・野口三千三の思想との連関」
	白崎信良氏	「大伴家持と万葉集」
	森本輝嗣氏	「横井小楠の文武観」
7月18日	青柳弘樹氏	「浄土教の神祇観　―法然と親鸞について―」
	丁濟ヨン氏	「道元の只管打坐　―悟りの世界での修行について―」
	キョウ潤奕氏	「奈良時代における宮廷音楽と礼楽思想　―女の舞を中心に―」
8月8日	松本学氏	「平田篤胤の易学に見る道教的思想との関係」
	森本輝嗣氏	「『天地始之事』にみられるキリスト教受容の諸相について」
	小泉礼子氏	「平安浄土思想と「孝」―輪廻思想との関わりから―」
11月20日	青野誠氏	「菅野八郎から考える幕末期民衆思想」
	森川多聞氏	「元良勇次郎の宗教観念―「科学」と「宗教」の間」
12月12日	西田彰一氏	「筧克彦の皇族論について」
1月30日	宣芝秀氏	「伊藤仁斎における「血脈」の意味について」
	高橋恭寛氏	「藤樹没後の「藤樹学」の展開」
	吉川裕氏	「徂徠学派の擬古楽府について―「烏生八九子」を中心として―」
2月6・7日	卒論修論発表会

6月例会

「竹内敏晴の思想林竹二・野口三千三の思想との関係」

戦後の演劇人であり、演劇的手法を用いて一般人の「からだ」の解放や新たな発見を目指した「竹内敏晴」。彼の思想形成にはどのような人物が、どのように介在し影響をもたらしたのか考察する。今回の発表では主に、宮城教育大学学長も勤めた教育哲学者であった「林竹二」と、竹内が一般人と演劇的手法を用いる場を共有しようとした契機である「野口体操」の創始者、「野口三千三」の二人に射程を定めた発表を行いたい。（東北大学大学院）

白崎信良氏「大伴家持と万葉集」

家持は歌人としてだけでなく、奈良朝の波乱に満ちた歴史を生きた貴族政治家、伴造としての強固の意識を持ち続けた官人である。家持の主体性とは何であるか、万葉集の歌を通じてその内面性を追求する。本発表では、家持十六歳から二九歳までの、青春時代の恋と内舎人として貴族社会でどのように生きようとしたのかを、『万葉集』の作品の内実に触れて家持の思想的及び内面的形成を観るとともに、その時代の様々な・j的事実を掘り起こして、家持の本質を捉えることを目標とする。（東北大学大学院）

森本輝嗣氏「横井小楠の文武観」

横井小楠(1808-1869)は嘉永六年、『文武一途の説』を著し、文武は本来同源であり、共に備わっていなければならないと提言した。その主張は、後の『国是三論』「士道論」に連なっていった。文武の兼備については熊沢蕃山や貝原益軒、中江藤樹らも類似した趣旨の事柄を述べているが、それでは小楠の思想のなかで、それはどのように唱えられたのかを明らかに・ｵ、その後の文武観、ひいてはそれが彼の実・w思想や教育思想とつながっていくのかを検討する。

7月例会

青柳弘樹氏「浄土教の神祇観　―法然と親鸞について―」

神祇不拝という浄土教の伝統は、法然と親鸞という中世日本における二人の仏教者によって築き上げられたといってよい。両者の明らかにした浄土教が、日本仏教史上初めて〈神祇を拝まない仏教〉を確立したのである。なぜ法然と親鸞は神祇を拝むことを否定したのか。本発表では、法然と親鸞の神祇不拝の思想を当時の仏教界の状況を視野に入れながら考察すると同時に、それらが人間の真の救いにどう関わるのかを検討する。（東北大学大学院）

丁濟ヨン氏「道元の只管打坐　―悟りの世界での修行について―」

道元は日本曹洞宗の始祖として、日本における禅宗の土着化に決定的な役割を果たした。道元は只管打坐（座禅）による修行こそが、世尊から師匠如淨にまで続いてきた仏祖の正傳佛法であると語った。即ち道元が説く座禅とは、菩提樹の下で「さとり」を得た世尊の姿そのものである。本発表の目的は、この「さとり」を成した後の座禅と仏教的世界が、道元の著作の中でどのような形態で現われているかを考察することにある。（東北大学大学院）

キョウ潤奕氏「奈良時代における宮廷音楽と礼楽思想　―女の舞を中心に―」

礼楽思想は、古代アジアの儒教文化圏における国家統治と人心調和の思想的基盤をなし、古代日本の音楽観ないし政治観を重要な影響に与えたものである。今回の発表では『続日本紀』を中心的な史料として、女の舞が古代中国において大堂正殿、特に礼儀的な場合に行われるのは禁じられたのに対して、古代日本において宮廷正殿において奏され、礼的儀式に伴う楽としての役割を果たしてきたことに留意・ｵ・ﾂつ、礼楽という視点で奈良時代の宮廷に奏された女楽などを考察する。これによって、当時の人々が「雅」・「淫」をどのように認識していたか、古代日本における礼楽思想の性格がどのように現れていたかなどの問題を明らかにし、宮廷音楽を通して、礼楽思想のあり方を追求する。（東北大学大学院）

8月例会

松本学氏「平田篤胤の易学に見る道教的思想との関係」

平田篤胤が道教的思想に強い関心を抱いていたことは、既に先学の指摘する所・ﾅある。しかし彼の学問の中で、道・ｳ研究が他の諸分野といかに結びついていたかについては、まだ考察の余地が残されている。その一端を明らかにするため、本発表では篤胤の易学に注目する。『三易由・・L』『太昊古易伝』といった彼の易学書には、それまでの道教研究がどのように反映されたのか。この点について、篤胤個人に留まらず、広く近世日本の易学事情も参照しながら論じたい。

森本輝嗣氏「『天地始之事』にみられるキリスト教受容の諸相について」

長崎における潜伏キリシタンが伝承させてきた聖典『天地始之事』は、外来思想であるキリスト教、とりわけカトリシズムを彼らが日常化させた書物であり、キリシタンの日本化が鮮明にあらわれている資料である。これまで、その独特なキリスト教摂取のかたちを通じた再評価がなされてきたが、そこにおける個々の思想については、まだ十分に語り尽くされた状況とは言えない。これを明らかにすることで、日本キリスト教受容史の一助としたい。

小泉礼子氏「平安浄土思想と「孝」―輪廻思想との関わりから―」

奈良～平安初期にかけて日本に流入した中国大乗仏教は、儒教的「孝」の思想を内包し発展を遂げたものであった。日本においてもまた、ある面では仏教は「孝」思想を土台として根付いたと言える。ところで、平安中期以降の浄土思想の隆盛において「孝」思想がいかなる形で扱われ、組み込まれていったかという点は、仏教史研究の中でもいまだ十分に検討されていないように思われる。当時の浄土思想家達は「孝」思想をどのように受け止め、論じたか。この点を、本発表では主に輪廻思想との関わりなどから考えてみたい。（東北大学大学院）

11月例会

青野誠氏「菅野八郎から考える幕末期民衆思想」

これまでの幕末・坙ｯ衆の思想を扱った研究は、封建制度における中間層の役割を担った豪農、または一揆などの民衆運動を階級闘争と捉えてその頭取を対象にしたものが大多数であった。このように「民衆」を二つの類型に大別した結果、その多様性を見落としてきたことも多かったように思われる。本発表においては幕末期に活動した「中農」身分であった菅野八郎という人物の思想を通して、この時期の豪農でも変革主体でもない「民衆」の抱いていた世界観を考察したい。

森川多聞氏「元良勇次郎の宗教観念―「科学」と「宗教」の間」

これまで元・ﾇ勇次郎（1858―1912）は、その心理学者として業績を中心に研究され、歴史叙述においては、帝大学教授という立場から当時の国家的要請に同調する「ジェネラリスト」として論じられてき・ｽ。しかし、不合理的側面が本来的な人間の特性であるとする元良を、単に「合理主義的科学者」や「御用学者」と理解することには疑問が残る。本発表は、東京帝大宗教学講座設置に至る「宗教」概念の形成過程での元良の役割を再検討することが目的である。

12月例会

西田彰一氏「筧克彦の皇族論について」

筧克彦は、東京帝国大学法学部教授でありながら宗教的神道である「神ながらの道」を提唱した人物である。近年山口輝臣や原武史、中道豪一の研究により、筧克彦と皇族の関係に注目が集まっている。だがその一方で、筧がどのような役割を皇族に期待したのかについてはまだ研究がない。本報告では、『貞明皇后実録』や『教学刷新施設に関する私案稿』など、従来用いられてこなかった史料から・Aこれを明らかにしたいと思う。（総合研究大学院大学大学院）

1月例会

宣芝秀氏「伊藤仁斎における「血脈」の意味について」

伊藤仁斎（1627～1705）は、古義学の成立とともに、かつて信従していた朱子学の「道統論」を批判するようになる。その「道統」に代わるものとして、孔子と孟子をつなぐ「血脈」という考え方を提示した。本発表では、仁斎の「血脈」に含まれた思想的な意味を明らかにすることを通して、それを一種の「思想史」の萌芽と捉えたい。その方法として、朱子や陸象山の学問の性格と比較し、また日本最初の思想史とも言われる伊藤東涯の『古今学変』も参考にしたい。(東北大学大学院)

高橋恭寛氏「藤樹没後の「藤樹学」の展開」

江戸時代前期の儒学者・中江藤樹（1608～48）の学問は、弟子の淵岡山（1617～87）によって全国的な広がりを持ち、とりわけ会津喜多方では幕末まで学統が保たれた。近年「日本陽明学派」という見方から、独自の心学「藤樹心学」として捉えられるようになったが、その独自性についてはほとんど考察されていない。「陽明学的」という枠組みを外したとき、藤樹の弟子たちの学問をどのように捉えることが出来るのか。学祖・中江藤樹の学問の「継承と展開」について考察してゆく。（東北大学専門研究員）

吉川裕氏「徂徠学派の擬古楽府について―「烏生八九子」を中心として―」

近世日本において、擬古楽府の登場は徂徠学の登場とほぼ軌を一にしていた。古楽府を擬した作品の制作は、徂徠学の学問的方法論である古文辞学習熟のために必要とされたことは従来指摘されるも、作品そのものを取り上げた研究はほとんど見ることができない。本発表では、日本思想史における「漢詩文リテラシー」の重要性を意識しながら、徂徠学者に広く詠われた楽府題の一つである「烏生八九子」（あるいは「烏生」）に注目し、徂徠学派における擬古楽府の意味を考えていく。（東北大学専門研究員）

2月例会

2月6日（土）卒論修論発表会

時間	発表者	題目
11:30-12:30	キョウ潤奕氏	「古代日本の礼楽思想について」
（休憩60分）
13:30-14:00	岡村拓輝氏	「江渡狄嶺の農業観」
14:00-14:30	鈴木文緒氏	「上田秋成の思想―その女性観を中心に」
14:30-15:00	小林千尋氏	「相馬の伝統と復興」
（休憩10分）
15:10-15:40	古山善貴氏	「日本近代スポーツ文化の黎明―嘉納治五郎と柔道の歩み―」
15:40-16:10	岩原悠氏	「現代における聖徳太子像―人間的太子像の成立―」
16:10-16:40	山野下すみれ氏	「古代王権と山野河海―古代地域社会との関わりから―」
16:40-17:10	皆川弘二郎氏	「中近世仏教とジェンダーについて」

2月7日（日）卒論修論発表会

時間	発表者	題目
9:30-10:00	安東美香氏	「十返舎一九による化物草子の考察」
10:00-10:30	小原早織氏	「津田真道の思想―「富国」に関して、その社会認識と対外意識の変容―」
（休憩10分）
10:40-11:40	白崎信良氏	「万葉集における思想史的考察―大伴家持と万葉集―」
（休憩80分）
13:00-14:00	柴田朗氏	「竹内敏晴研究―その生涯と思想―」
14:00-15:00	松本学氏	「平田篤胤における道教的思想の受容―医学・易学との関係から―」
（休憩10分）
15:10-16:10	森本輝嗣氏	「横井小楠の武と心法」

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