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『月刊言語』第9巻(1980)4月号, pp.121-122 掲載

言語空間 <読者のページ> エスペラントは印欧語でない

後藤 斉


本誌3月号、星田淳氏による「ユーカラのエスペラント訳出版」中にエスペラントが 印欧語である旨の記述があります。この主張は新しいものでなく、例えば本誌でも、 既に75年8月号24ページで、故原田信一氏がカロチャイを引きつつ、それに肯定的な 書き方をしています。

「エスペラントの文法・語彙は印欧語のそれに九十%以上由来している」 (原田、同所)ことは、大筋で間違いありません。しかし、例えば、基本的な語順が SVO型である、関係詞がある、冠詞がある、形容詞が名詞と数・格の一致をする、 といった事実が言語の系統を決定する証拠として無力であることは言うまでもありません。 数詞・親族名称(但し、男のみ)を含む語彙でエスペラントは印欧語と極めて類似して いますが、そこに肝心の対応があることは証明されていません。

そもそも、計画言語であるエスペラントが、系統論上設定される印欧語に属するか どうか問うこと自体が無理なのです。

トルベツコイが「印欧語族問題の考察」で立てた基準によって、印欧語への帰属を 類型的に定めようとするならば話は別ですが、この場合にもエスペラントは印欧語から 排除されます。エスペラントは語幹の母音交替を文法的手段として有していませんから。 なお、トルベツコイは同論文を、バイイにことよせて、「エスペラントは疑いなく、 印欧語を話す民族の理想に合致するが、印欧語を基礎に構成された純粋に膠着的な 言語である」と書いてしめくくっています。

最後に、エスペラントとは知らずに接触した際に言語学者がどのように判断するだろうか という仮定の問題があります。私はそれでもエスペラントが印欧語であることを証明するのは 不可能であって、語彙的にヨーロッパ諸語の影響を強く受けた系統不明の言語である、 という結論が得られると考えています。

(仙台市・後藤 斉)


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