リンクは自由!
『月刊言語』第27巻(1998)5月号, pp.100-101 掲載

インターネット言語学情報 第5回 ― 言語の多様性と言語権

後藤 斉


現在、地球上の言語の多様性が急速に失われつつあることは、宮岡伯人 「消滅の危機に瀕した言語を追って」(1996年6月号)をはじめとして、本誌でもこれまで 何度か取り上げられた。また、英語の使用が世界的に広がる一方で、少数言語擁護の 意識の高まりもみられる。今回はこの問題に関係するウェブサイトを若干ご紹介する。

危機言語については、東京大学文学部東洋諸民族言語文化研究部門に おかれた危機言語クリアリングハウスが情報の世界的な集積地となっており、 WWW上にも「『危機言語』ホームページ」 <http://www.tooyoo.l.u-tokyo.ac.jp/ichel-j.html>を設けている。 現在シンポジウムの記録や地域別に危機言語の状況をまとめた「レッドブック」が 参照できるほか、今後ロシアの少数言語のデータベースも置かれる予定である。 また、関連のウェブサイトへのリンク集もまとまっている。

世界の言語事情を知るためには、 Summer Institute of Linguisticsによる Ethnologue: Languages of the World <http://www.sil.org/ethnologue/>が便利である。これはもともと書籍として 刊行されたものだが、電子化されて検索の便宜が高くなった。

European Minority Languages <http://www.smo.uhi.ac.uk/saoghal/mion-chanain/>にはヨーロッパの50の 少数言語に関するウェブサイトの情報がまとまっているほか、他の地域の少数言語の 情報への手がかりもある(ゲール語版の方が主のようだが、英語版もある )。また、 NativeWeb <http://www.nativeweb.org/>は北米を中心に世界各地の先住民族・少数民族の 言語・歴史・文化などの情報を集めている。言語の多様性と生物の多様性とを 関連付けてユニークなのが、 Terralingua <http://cougar.ucdavis.edu/nas/terralin/home.html>である。

より社会的な側面からこの問題を扱うウェブサイトも多い。Ethnic World Survey <http://www.partal.com/ciemen/ethnic.html>も広く世界中の少数民族の 情報を集めているが、言語・文化だけでなく、社会・政治運動に関わるものも 含んでいる。これに関連して、主としてEU内の言語法制についてのデータベースである Mercator Linguistic Law and Legislation <http://www.troc.es/ciemen/mercator/index-gb.htm>もあり、 また 1996年バルセロナの世界言語権会議に集まったPENセンターなどのNGO組織が 採択した「世界言語権宣言」 Universal Declaration of Linguistic Rights <http://www.troc.es/mercator/dudl-gb.htm>も読める。

言語権という考えは法制度上確立されているとは言いがたいが、検索エンジン gooで "Language Right(s)"ないし"Linguistic Right(s)"を キーワードに海外のサイトを検索すると、数千ものウェブページがヒットする。 例えば、アメリカ言語学会も1996年の Statements on Language Rights <http://www.lsadc.org/langrite.html>において、公私の表現において 自己の選択する言語を使うことや母語を子供に伝えることなどを含む言語の 諸権利が保障されるべきだと声明していることがわかり、さらにいくつかの州で 取られている English Only政策に反対する 1987年の決議 <http://www.lsadc.org/resolution.html>も見つけられた。

さらに、1996年8月プラハの第81回世界エスペラント大会において採択された 「国際語エスペラント運動に関するプラハ宣言」 <http://www.sal.tohoku.ac.jp/~gothit/manifestoprago.html>も言語権を 保障する民主的な国際コミュニケーションという観点からエスペラント運動を 捉え直そうとするものである。

インターネットはアメリカから始まったものであり、国際的な場面では英語の 使用が当然とされることも多いが、容易にそれを受け入れようとしない人々も インターネット利用者の中に含まれているのである。

(ごとうひとし/言語学・ロマンス語学)


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「インターネット言語学情報」

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