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『エスペラント』(La Revuo Orienta) 第76巻(2008)1月号, pp. 22-23 掲載

『エスペラント日本語辞典』の使い方(1) 語根配列

後藤 斉


今回から数度にわたって、『エスペラント日本語辞典』を効果的に使って学力を アップさせるという観点から、この辞典の方針や記述内容を解説してみようと思います。

この辞典は、見出し語を、単語としてのアルファベット順ではなく、語根の アルファベット順で並べています。巻頭の「この辞書の引き方」で語根配列として 詳しく説明してある通りです。

この引き方にはとまどう人もいるようです。単語を引くときに、そのままの形での アルファベット順ではなく、要素に分けてからでないと引けない(例えば、malamiを 引くには、辞書のMの部ではなく、Aの部を見なければならない)のは、確かに直感的では ありません。実際、辞書編集委員会内部でも、初期の編集方針確定の過程で この点について議論が白熱しました。

語根配列にとまどう理由としては、日本でこれまで広く使われてきた三宅史平 『エスペラント小辞典』での配列と異なるということもあるでしょう。しかし、 世界的には、エスペラントの辞書は語根配列を採用しているものが大部分です。

ただ、編集委員会が最終的に語根配列を選択したのは、従来のエスペラント辞典の 大勢に従ったというだけの理由ではありません。その長所と短所を十分に検討した 上でのことです。つまり、語根配列には、直感的でないという短所を補って 余りある長所があると判断したからです。

それはこの辞典の全体的な編集方針と関係しています。この辞典の最も 根本的な編集方針は「高度な学習辞典」を目指すということでした。特に、 読む、聞くという受動的な言語使用だけでなく、書く、話すという能動的な 言語使用にも助けになることを意図しました。いわゆる発信型の辞書としての 性格を強くもっていることになります。

ですから、この辞典にとって、知らない単語の意味を調べることは使い方の 一つにすぎません。むしろ、エスペラントの単語全体のなかでのその単語の 位置づけを知ることにつなげてほしいのです。

例えば、malamiを調べたいとしても、その意味「憎んでいる」を知るだけで 満足しないでください。これは動詞amiに接頭辞mal-がついてできた派生語で あることを確認してください。malamiの理解はそこから始まることを強く 意識してほしいのです。

言葉を変えると、これはami=「愛している」、malami=「憎んでいる」……の ように単に単語のリストとして覚えるのではなく、amiを基点とする単語の ネットワークを頭の中に作り上げてほしい、ということです。そのためには、 まずはmalamiを調べたい場合、amiの意味と用法を再確認してほしいのです。

学習のレベルによって、品詞語尾の取り替えによる形容詞amaや名詞amo, malamoにも気づいてほしい。接頭辞や接尾辞によって amant(in)o, aminda, enamiĝi, malamindaなどの派生語が作られることも知ってほしい。また、 合成語gastamaやhomamo, samseksamoなどの可能性もおさえてほしい。主見出し語 amiの項目にこれらの語を挙げているのは、このような編集者の願いによるのです。

さらに、amiがplaĉiやŝatiなどとつながっているように、語根を基点とする ネットワークは相互につながっていて、全体としてエスペラントの単語の総体の ネットワークが成り立っています。エスペラントの単語のしくみを理解する ためには、語根という単位が非常に重要なのです。

言語としてのエスペラントのエスペラントらしさの特徴の一つはその 造語法にあります。エスペラントでは、語根そのものは大部分ヨーロッパの 言語から取られていますが、その組み合わせはエスペラント独自のしくみによって 行われます。例えば、oniやdiriはフランス語が語源ですが、これらを組み合わせて onidiroという合成語を作り、さらにそれをonidireと副詞にするのは、 エスペラントならではのことです。

エスペラントにヨーロッパ的な性質があることは否定できませんが、 ヨーロッパ語の敷き写しではありません。エスペラントを習得するとは、 このようなエスペラントのしくみを身につけることで、語根を基本とする語の 構成はこれに含まれます。この辞典が語根配列を採用したことは、このような エスペラントのしくみになるべく早い時期に慣れることがエスペラントの習得に 必要だという編集委員会の判断に基づいているのです。

なお、語根配列の場合、合成語をどの主見出し語の下に置くかについての ルールが必要ですが、そのルールが必ずしも一貫していず、分かりにくい 辞典もあるようです。この辞典では、最終語根の主見出し語の下に挙げるという 簡潔なルールに従いました。

また、malamiのような基本的な単語については、この辞典は空見出し語としても 掲載して語根配列の短所を補い、初期の学習者の便宜を図っています。


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