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『エスペラント』(La Revuo Orienta) 第76巻(2008)2月号, pp.24-25 掲載

『エスペラント日本語辞典』の使い方(2) 主見出し語とそのランク

後藤 斉


『エスペラント日本語辞典』の本体は語根配列を取っているので、 語根に対応する主見出し語が基本的な単位になっています。本体の 1ページ目から巻末に向かって、AからZの順で配列されているのが 主見出し語ということになります。

主見出し語にはいくつかの種類がありますが、主なものは、 (1)一つの語根からなる名詞(tablo)や動詞(ami)など、(2)語根だけで 単語として使える前置詞(en)や数詞(du)など、(3)接頭辞(mal-)、 接尾辞(-ist-)、文法語尾(-as)です。

(1)の場合は多少の注意がいります。語根はtablやamなどですが、 語根単独で使われることはなく、また発音もしにくいので、代表的な 品詞語尾をつけて、主見出し語としています。このことが分かりやすくなる ようにtabl|o, am|iと表示しています。ここで重要なのは、配列の単位は あくまでtablやamだということです。主見出し語amiはamaraより前に ありますが、amとamarの部分だけで順序が決まるからです。この点も 最初のうちはとまどいの元になるかもしれませんが、語根配列であることの 帰結です。

「代表的な品詞語尾」というのは、当たり前のように思えるかも しれませんが、人によって見解の分かれる場合もあります。例えば、 アカデミーが選定したBaza Radikaro Oficiala(BRO)でdaŭroと名詞で 挙げている語根を、この辞書ではdaŭriと動詞として挙げています。なお、 副詞語尾をつけて主見出し語としたのは、 frue, ofte, nepre, parkere, precipe, spite, supre, volonteなどごく少数です。

エスペラントの造語法の特徴として、前置詞や接頭辞、接尾辞を語根のように 使えることがあります。例えば、前置詞en「…の中で」からena「中の」、 ene「内部に」などが作られます。また、「成員」を意味する語を作る 接尾辞-an-からは、ano「メンバー」という名詞が作られます。ですから、 理論的には(1)、(2)、(3)の間の区別を重視しない立場もありえます。しかし、 この辞書はあまり極端な見解は取らずに、語根と接辞は区別しました。

前置詞far「…によって」は動詞fari「作る、する」から品詞語尾を 取って作るという、普通とは逆の派生でできた語です。fuŝ- 「へまな」、 ŝtel-「こっそり」は接頭辞のように他の語につけて使われることがありますが、 fuŝi「やり損なう」、ŝteli「盗む」が元になっています。これらは 主見出し語fari, fuŝi, ŝteliの下で扱われます。

etulo「小男、ちびちゃん」のような語の場合、-et-も-ul-も本来は 接尾辞ですが、この単語の中では-et-の方が語根同様の働きをしていると 考えられます。ですから、この語は主見出し語-et-の中で記述されています。

この辞典の特徴の一つとして、重要語2400を3ランク(ランクA 550語、 ランクB 650語、ランクC 1200語)にわけ、見出し語の大きさと星印の数で 表示していることが挙げられます。このようなランク分けと表示の工夫は 現在では多くの外国語辞典で行われていますが、エスペラントの辞書では これまであまり例がないと思われます。

この辞典の編集作業の当初では、見出し語の等級として、入門講座終了 時点までに習得されるべき500語、中級の学習読み物を読むためにさらに 700語、国際的な定期刊行物を読むためにさらに1200語が考えられていました。 この表現は読むという活動にかたよっているため、出来上がった辞典では あまり表に出していませんが、いずれにせよ、ある程度の段階まで習得したと 言えるランクA、多少易しめの文章を読み書きするためのランクB、実用的には あまり困らない段階のランクCというくらいになるでしょう。

重要語を目立たせる扱いは当たり前のように思えますが、外国語の辞書でも それほど古いことではありません。例えば英語の辞書でも、1920年代から 30年代にかけて日本で英語教育に携わったH.E.パーマーの研究に拠るところが 大きいのです(パーマーは元エスペランティストで、日本滞在中には日本の エスペラント界とも交流をもちました)。

重要語の選定にはいくつかの基準が考えられます。この辞書では、 アカデミーの選定したBaza Radikaro Oficiala(BRO)を基に、いくつかの 単語リストも参考にしました。実際に使うときに活用できる度合いという いささか主観的な判断も交えて、編集委員会で決めたものです。BROは 約2500語を9ランクに分けていますが、9ランクもあると、下位の方では ランクごとの違いは紙一重で、あまり意味がありません。語彙を段階的に 制限した教科書を作るためには参考になるでしょうが。この辞書の重要語 3ランクは、学習・教育の目的には適当でしょう。

一般的には、ランクが上のものほど、解説の分量が多くなり、それだけでなく 質的にも細かくなっています。ランクAの語は、基本的であるだけに使い方が 多様で、語義を細かく分ける必要があったり、多くの派生語や合成語を 挙げることになるのが普通だからです。ただ、それだけでなく、辞書編集上の 工夫として、ランクの高い語ほど、基本義や動詞型の記述などの面で綿密な 解説になるよう配慮しています。

実際のところ、ランクAのうちの30%ほどは、文法語尾、機能語(前置詞、 接続詞、代名詞など)、接頭辞・接尾辞の類で、学習の初期に暗記すべきものです。 名詞、形容詞、動詞などにしても、日常的によく使うものが大部分です。 ですから、この辞書のランクAの語だけを集中的に読むことも、学習法の 一つとして勧めることができます。

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