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『エスペラント』(La Revuo Orienta) 第76巻(2008)5月号, pp.16-17 掲載

『エスペラント日本語辞典』の使い方(5) 動詞型

後藤 斉


動詞の下位分類としては、他動詞と自動詞の区別が比較的よく知られています。 対格の直接目的語を伴って使えるかどうかが、その区別の大きな目安になります。 分詞接尾辞-it-, -at-, -ot- による受動分詞が作れることも、他動詞の大きな 特徴です。例えば、trovi「見つける」は他動詞で、trovi monujon「財布を見つける」と 言うことができます。また、-ebl-, -end-, -ind- による形容詞の派生なども、 おおむね他動詞に特徴的な性質です。

他動詞か自動詞か、覚えにくい動詞もあります。finiは他動詞「終える」で あって、自動詞「終わる」にあたるのはfiniĝiです。これは英語などの知識から 推測することができず、エスペラントの単語の性質として覚える必要があります。 なお、日本語の「終える」と「終わる」は一見すると他動詞と自動詞の区別が 明らかのように思えますが、「会議を終わる」と言うこともできますので、 「終わる=finiĝi」のように捉えることはできません。あくまで、日本語は日本語で、 エスペラントはエスペラントで考える必要があります。一般的に言って、 エスペラントでは、日本語や英語より他動詞と自動詞の区別がはっきりしていて、 どちらにも使える動詞は少ないのです。

ただし、エスペラントでも他動詞と自動詞の区別が絶対のものとはいえません。 loĝiは、通常、自動詞で、Mi loĝas en ĉi tiu urbo. とは言いますが、 Mi loĝas ĉi tiun urbon. とは言いません。しかし、dense loĝata urbo 「人口密度の高い都市」と受動分詞を使って言うことはあります。これは、 loĝiの特殊な用法と考えるべきなのでしょう。

エスペラントの他動詞の直接目的語は、日本語に訳したときに「〜を」となる ことが普通です。しかし、いつでもそうではありません。saluti「あいさつする」は 他動詞であって、Li satulis min.「彼は私にあいさつした」のように言うのが 普通です。「私にあいさつする」に対応するように見えるsaluti al miのような 構文の実用例はそれに比べてきわめて少なく、誤用か、意図的な逸脱と考えるべき でしょう。

『エスペラント日本語辞典』では、動詞には必ず他動詞か自動詞かを明示して、 辞書の利用者にそのことを意識してもらおうとしています。ただ、それにとどまらず、 動詞型の表示によっても注意をよびかけています。例えば、salutiの項目には 動詞型として≪iun≫と表示しています。これはsalutiという動詞が対格に置かれた 人を指す直接目的語を取ることを意味しています。この場合には、salutiの目的語が 人であることは「あいさつする」という意味から十分に推測できますから、 新しい情報を付け加えるというより、念を押していることになります。

しかし、動詞型の表示はもっと重要な情報を伝える役目を果たしている場合も あります。例えば、informiとsciigiはどちらも「知らせる」と訳すことが できますが、その使い方を日本語訳から推し量ることはできません。 一方のinformiに表示されている動詞型は≪iun+pri io≫などであるのに対して、 他方のsciigiでは≪ion+al iu, iun+pri io≫などです。この表示の違いが 意味するのは、sciigiでは「悪いニュースをお知らせせねばなりません」の意味で Mi devas sciigi vin pri malbona novaĵo.ともMi devas sciigi al vi malbonan novaj^on. とも言えるのに対して、informiではBonvolu informi min pri la venonta kongreso. 「次の大会についてお知らせください」とは言えても、 Bonvolu informi al mi la venontan kongreson.とは言えないということです。

また、regaliは、「おごる、ふるまう」と訳せる場合もありますが、この訳語から ではやはり直接目的語として何を取るかわかりません。 「 ≪iun+per io≫ <人を> <物でもって> もてなす; <人に> おごる, ふるまう」 のような表示により、さらには、 「regali iun per vespermanĝo <人に> 夕食をおごる」という用例によって、 この単語の使い方をはっきり捉えることができるでしょう。

さらに、senigiも、それだけ取り出せば、「なくす、奪う」のように訳すことが できますが、直接目的語として取るものを日本語の訳語からは推測できません。 「≪iun(A)+je io(B)≫ <Aから> <Bを> なくす, 奪う」のように、 動詞型と訳語への補足に対応をつけることで、そのことをはっきり示しています。

このように、動詞がどのような補足成分をとるかを簡潔な形で明示するのが 動詞型表示の役割です。これは他動詞に限られません。自動詞であって、 他に補足成分を必要としない場合(viviなど)「≪V≫」と表示していますが、 自動詞でも補足成分がないと不自然になる場合(loĝiなど)には≪ie≫のように 表示します。動詞型の個々の表示について、詳しくは、凡例をご覧ください。

辞書に動詞型を表示することは、以前にも名前を挙げた英語教育学者H.E.パーマー (元エスペランティスト)のアイデアで、現在では多くの英和辞典や 学習者向け英英辞典に採用されています。なお、日本の英語教育では、文法は 多くの人によい印象を残していないかもしれませんが、これは文法が悪いのではなく、 文法の学習を英語教育の中でいわば自己目的化していることに原因があります。 文法は、基本的に学習者の役に立つものであり、学習者(特に大人)が役に立たせる ことのできるはずの有用な知識なのです。

また、英語では歴史的に慣用語法が固定していて、正用と誤用の区別が厳密に 規定されていることが多いのに対して、エスペラントではそこまで厳密に 正用と誤用の区別を固定的に捉える必要はありません。残念ながら 『エスペラント日本語辞典』の動詞型の表示で許容されるゆれが網羅されているとは 言えないので、ここに挙がっていない構文が全て間違いだと思うなら、それは 行き過ぎです。

そのような留保をつけはするものの、特に作文をしていて、多くの人に 違和感をもたれない表現で書こうとする際に、特に中級以上の人にとって、 動詞型の表示が大いに助けになることでしょう。

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