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『エスペラント』(La Revuo Orienta) 第77巻(2009)7月号, pp.6-7. 掲載

de vorto al vorto (2) adiaŭとĝis revido

後藤 斉


別れの挨拶としては、専用の間投詞 adiaŭ があります。ただ、これは、主として、旅立ち、帰国、離職、脱退などといった長期の別れに当たって使われるものです。さらに極端には、死者に対しての永遠の別れの場合です。ですから、日常的に使うというものでもなく、実際に使用する機会はそれほど多くはないかもしれません。『エスペラント日本語辞典』では、ランクBという位置づけになりました。

なお、別れを告げる相手は、最も普通には人ですが、場所や職、組織などでもありえます。さらに広げて「思想や制度に決別する」場合も含まれます。

気軽に使いづらいとはいえ、この単語をもとにして、名詞 adiaŭo「別れのあいさつ; 別れ」、形容詞 adiaŭa「別れの」、動詞 adiaŭi「さよならを言う; 別れを告げる」などの派生語を作ることができます。ここから分かるように、adiaŭ がそれなりに使いでのある単語であることは間違いありません。

名詞の adiaŭo は、diri adiaŭon al iu「<人に>別れを告げる」、ĉe la adiaŭo「別れに当たって」などの表現で活用することができます。死者への最後の別れであることをはっきり示すには、la lasta adiaŭo とすることもできます。

形容詞 adiaŭa からは、adiaŭa festeno「送別会[パーティー]」、adiaŭa donaco「餞別」のような結びつきができます。「別れの言葉、送別の辞」は adiaŭa saluto, mesaĝo, parolo, vorto などです。また、gluti adiaŭan pokalon kun iu 「<人と>別れの杯を飲む」といったしゃれた表現も作れます。なお、一般規則により、副詞 adiaŭe ができることは言うまでもありません。mansvingi adiaŭe「別れに手を振る」などです。

動詞adiaŭiは、人を目的語として他動詞で使うのが普通ですが、adiaŭi la mondon, vivon「この世に別れを告げる」こともあります。別れが本意ではないときには、Nun mi devas adiaŭi vin.「別れを告げねばなりません」と言うでしょう。最近では、「コンピュータシステムからログアウト(ログオフ)する」の意味でも使われるようになっています。

Ĝisは「〜まで」の意味の前置詞あるいは従属接続詞として、基本単語の一つに数えられます。『エス日』では、当然、ランクAの550語に含まれます。「駅まで」や「死ぬまで」、「彼女が来るまで」のような表現は日常よく使うものであり、この語の重要性は明らかです。

しかし、多くのエスペランティストにとって、この単語に初めて出合ったのは、また、日常的に最もよく使うのは、別れの挨拶 Ĝis revido. の中でしょう。辞書の中では、見出し語 ĝis の特定の語義区分のなかの例文の一つという、小さな扱いになってしまいますが、明らかにこの語の代表的な使い方です。

日常的な別れでの挨拶「さようなら」としては Ĝis revido. が最も普通の表現ですが、revido に定冠詞をつけて Ĝis la revido. と言うこともあります。定冠詞の一般的な用法からすれば、再会の予定が決まっていれば revido に定冠詞をつける、予定がなければつけない、となるところでしょうか。ただ、定型的で省略的な挨拶表現ですから、一般規則を厳密に当てはめて考えなくともいいでしょう。実際の用例を見ても、予定が決まっていても定冠詞なしで Ĝis revido. と言う例がごく普通に見受けられます。

具体的な再会の予定(あるいは希望)があれば、revidoに時や場所を限定する表現をつけることができます。例えば:Ĝis (la) revido morgaŭ. Ĝis (la) revido en Havano. Ĝis (la) revido en la venonta kongreso. あまり多くはないようですが、revidoに形容詞をつけることも可能です。Ĝis baldaŭa revido. の例が見られます。

これから分かるように、定型的な挨拶表現と言っても、状況に応じたバリエーションはあるものです。いつでも Ĝis revido. だけですませるのではなく、場面に応じた表現が使い分けられると、エスペラントが生きた言葉であることを実感できるようになります。

revido「再会」は vidi「見る,会う」からの派生語ですから、ラジオ放送のような声だけの場面では文字通りの意味からはそぐわないことになります。そこで、ラジオのアナウンサーはよく Ĝis reaŭdo. と言って番組を締めくくります。また、手紙や雑誌連載記事、ネット掲示板の書き込みなど文字主体のやりとりの場面では、Ĝis relego. が見られることもあります。

revidoの代わりに、時を表す別の単語を使うこともできます。なかでも、Ĝis poste.「またあとで」、Ĝis morgaŭ.「明日またね」は比較的定着していてよく使われるので、『エス日』の付録「あいさつ」にも挙げてあります。この他にも、一時的に別行動するがすぐにまた合流するつもりのときなどに、Ĝis baldaŭ. もよく聞かれます。再会の時を具体的に打ち合わせたあとでは、Ĝis tiam. だけでも十分でしょう。

具体的に決まった再会の予定(希望)があれば、その時間を表す語句を使って Ĝis sabato. Ĝis la venonta semajno. Ĝis la somero.などと言うことができます。また、不特定の時間を表す語句も使えます:Ĝis iam en Esperantio.「いつかまた、エスペラント界で」。一方、否定の相関詞を使うと、かなり強烈な言い方になるでしょう:Adiaŭ! Ĝis neniam!「さらば、二度と会うことはあるまい」。

Ĝis (la) revido. 自体がすでに省略表現ですが、文体的には中立であり、堅苦しい場面であってもくだけた場面であっても、使うことができます。これをさらに省略して、ただ Ĝis. あるいは Ĝis la. だけにしてしまうこともあります。こちらは明らかに口語的な軽い挨拶であって、親しい間で特に使いやすいでしょう。

一語の名詞 ĝisrevido も可能ですが、これは adiaŭo ほどには使われていないようです。ただ、「さようならを言う」は本来は diri "ĝis revido" ですが、直接話法では構文的に使いづらいので、diri ĝisrevidon とすることがあります。こうすると、diri dankon kaj ĝisrevidon「感謝と別れを告げる」などと無理なく言えるようになります。ここから表現を工夫して、ĝisrevidi という一語の動詞にすることもあり、それをさらに ĝisi という動詞にしてしまうこともあります。これもかなり口語的な単語です。


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