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『エスペラント』(La Revuo Orienta) 第77巻(2009)11月号, pp.6-7. 掲載

de vorto al vorto (5) densa

後藤 斉


形容詞densa の語義は、専門用語としてのものを除けば、「濃い, 濃密な, 密集した」と訳した日本語からもおおむね理解できるように思えます。ただ、日本語訳からの類推だけで安心してしまうのは、あまり望ましい学習態度ではありません。

『エス日』では基本義として挙げてはありませんが、densa は、本来、個々の要素が隙間を置かずに詰まっている様子を表すと言えるでしょう。このことを念頭に、実際の使い方をもう少し細かく見てみましょう。

この単語が最も頻繁に使われるのは、densa arbaroというつながりでです。森を構成する木々が密集して生い茂っているさまを表します。同様に、密生している植物やその部分などを表す densa foliaro, ĝangalo, verdaĵo, musko; densaj branĉoj, herboj なども使われます。densa ĝardeno は「植物の生い茂った庭」でしょう。

densa homamaso, loĝantaro, amaso, grupo, svarmo, grego など、人や動物の集団を形容する場合もむずかしくないでしょう。物の集まりについて使うこともあります。densa vico da aŭtomobiloj は自動車が車間距離をあまり置かずに連なっているさまです。densa trafiko は、多くの人や自動車で混雑した交通の様子です。

densa hararo, brovo, barbo; densaj haroj など体毛の形容もそれに近いと言えます。ただ、この場合、色の濃さではなく、生え方の濃さであることに注意しましょう。densaj haroj は「豊かな髪」と理解する方が誤解がないでしょう。色の濃さを言いたいのであれば、malhelaj haroj の方が適当です。

もっとも、要素が密集していると光を通しにくくなりがちですから、densa が暗さの連想を伴うこともある意味で自然です。ここから densa mallumo という表現が出てきます。暗闇は profunda mallumo やplena mallumo と強調することもできますが、densa mallumo も熟してよく使われる表現です。これは "Tra densa mallumo briletas la celo, / Al kiu kuraĝe ni iras." というザメンホフの詩 La Vojo の出だしとして知られていることも一因でしょう。

これに近い表現としては、densa ombro があります。densa krepusko は、まっ暗とはいえないまでも、人の見分けもつけられないほどの晩の暗さを強調したい心理からの表現として成り立ちます。ただし、densa と暗さの連想は必然的といえるほど強いものではありませんので、densa lumo という表現も可能です。

densa nebulo「濃い霧」もごく自然に響きます。densa nubo, fumo, vaporo も同様でしょう。それに比べると densa pluvo は、日本語の感覚からは使いにくいかもしれません。「濃い雨」とはあまり言いません。「降りしきる雨」あたりに相当しますが、時間的に途切れないというよりは、あたり一面に雨粒が落ちてきているさまを表します。densa neĝo は、これと同様に降りしきる雪ですが、場合によって、降り積もって押し固められた雪を指すこともあるようです。

densa gaso は濃度の濃いガス、densa aromo は、目には見えなくとも、芳香が濃くただよっている様子です。

液体について使うと、densa suko, sakeo など、成分が多く解けこんだ濃厚さを表します。densa supo や densa saŭco では「とろっとした」という含みも感じてよいでしょう。

布などについては織り方の緻密さが表されます:densa ŝtofo, tapiŝo, vualo, kurteno など。目の詰まった網は densa reto です。

ここから、抽象的な使い方も出てきます。reto は、漁網やヘアネットなどの物としての網のほかに、人間関係や交通などのネットワークも指します。densa reto de fervojoj は目で見ることもできますが、densa reto de komercaj ligoj ではさらに抽象度が高くなっています。このような、関係の密接さを現すつながりは、densa kunlaborado, unio, intimeco; densaj rilatoj, kontaktoj などがあります。

もう一つの抽象的な使い方は、densa teksto, programo など「中身の濃い」と訳せる場合です。ほかに、densa enhavo, penso, debato. priskribo, bibliografio などとしても使えます。

形容詞 kompakta も文脈によっては「密集した」と訳すことができます。ただ、これはむしろ「小さくまとまった」という含みが強く、kompakta disko 以外では、kompakta libreto「コンパクト版の小冊子」、kompakta listo「手短にまとめた表」などとして使う例が目立ちます。densa と置き換えられる場合はあまり多くないようです。

densa の反対語はもちろんmaldensa「薄い」で、densaの多様な使い方に対応して、maldensa arbaro, maldensaj haroj, maldensa kaĉo, maldensaj ligoj などとして使われます。ただし、同じ「薄い」でも、「厚い」の反対語は maldika であることに注意しましょう。

派生副詞 (mal)dense は密集(希薄)の様態を表します。La arboj dense portis florojn.「木々は花をいっぱいにつけていた」、La neĝo falis dense.「雪は降りしきった」のようにいろいろな動詞を修飾することができますが、ずっと多いのは Ni sidis dense unu apud la alia.「お互いにきちきちに詰めて座っていた」のように位置関係を表す動詞を修飾する場合です。

dense の使い方で特徴的なのは、完了分詞や状態動詞の継続分詞とともに使われている例が多いことです。その意味からして、動作そのものの様態を示すより、状態について様態を示すために使われやすいからでしょう。dense starantaj domoj, maldense loĝata regiono, ĝardeno dense kovrita de herboj, dense amasiĝintaj homoj, dense plenigita programo などです。多くは、人や動植物、物の密集状態を表す例です。

意味的に少しわかりにくいのは、dense skribita poŝtkarto「ぎっしり書かれた葉書」、maldense presita paĝo「ゆったり印刷されたページ」などでしょうか。密集(希薄)の状態にあるのは書かれた(印刷された)文字ですが、それは言葉の上には現れていません。

関係の密接さを表す結びつきで使われることもあります。dense ligita, kunligita, kunigita などです。


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