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『エスペラント』(La Revuo Orienta) 第78巻(2010)1月号, pp.14-15. 掲載

de vorto al vorto (7) klara

後藤 斉


形容詞klaraは、『エス日』ではまず基本義として「視覚的に明瞭な」と説明したあとで、専門用語としての語義を除いて、3つの語義を挙げています。第一義「澄んだ, 透き通った, 透明な」が最も具体的な使い方で、用例klara akvo[aero/c^ielo] 澄んだ水[空気/空] に典型的な使い方が示されています。泉から湧き出る水をklara akvoともpura akvoとも呼べますが、前者では視覚的な濁りのなさに、後者では内容に不純物が含まれていないことに注目しています。

澄んだ空気や空から、その使い方はklara vetero「澄み渡った天気」に広がります。klara sunlumoは明るい陽光を表しますが、hela sunlumoが単に明るさを言うのに対して、空が澄んでいるために光が直接届くことを示唆する表現です。

第二義は、いくぶん転義となっており、音や色について、濁りがなく澄んでいることを表します。klara soprano, klara bluo de la ĉieloなどです。klara voĉoは『エス日』で「明るい声」と訳してありますが、もう少し具体的には「よく聞き取れる声、よく通る声」と理解しても構いません。

第三義の「はっきりした, 明らかな, 明瞭な」はまぎれもなく転義ですが、いくつかのタイプがあるようです。もとの意味に比較的近いのは具体的に視覚的な明瞭さを表す使い方でしょう。klara formo「明瞭な形」、klara konturo「明瞭な輪郭」では、目で見てはっきりと識別できるさまを意味しています。

ただ、このような使い方はあまり多くなく、むしろ抽象的な認識の上での明瞭さを表す用法がずっと目立ちます。Tiam ni ne havis klaran bildon de[pri] la situacio.でのklara bildoは具体から抽象への橋渡しの場合です。ここでbildoは視覚で捉える絵ではなく、心象に描くイメージを意味して使われています。

さらに明らかに抽象的なのは、klara ideo「明瞭な考え」など、思考や意思に関わる場合です。klara celo, koncepto, kialo, motivoなどとしてよく使われます。klara kompreno, konscio, distingo, pruvoなどでは、認識や判断が明確であることを示します。また、認識や判断の対象として明確に認められることを示す場合もあります。klara ekzemplo, starpunkto, strategio, plimulto, politiko, influo, tendencoなどですが、ほかに多くの名詞と結びつきます。

言語表現について言うと、言いたいことをはっきり伝える、すなわち「明晰な」の意味になります。klara lingvaĵo, Esperanto, esprimo, traduko, stilo, respondo, frazoなどです。Li ne diris klaran "jes" aŭ "ne."と言うこともできます。また、相手に対して誤解の余地を与えない「はっきりとした」と考えることもできます。klara indiko, informo, instrukcio, instruo, avertoなどの場合です。klara rifuzoならば「きっぱりとした拒絶」でしょう。

klaraを強調したい場合には副詞tute, tre, sufiĉeをつけるのが無難で、あまり多くはありませんがmirinde, neordinare, absoluteが使われることもあります。独特なのは、kristale「水晶のように」という副詞が伴うことです。kristale klaraj fontoj のように文字通りの意味で使うこともありますし、kristale klara stiloと転義でも使えます。これは、さらにkristalklaraと一語にすることもあります。

もう一つ特徴的な点として、どういう訳か、klara kaj komprenebla paroloのように、意味を補うような類義の形容詞を重ねる表現が目立ちます。klara kaj preciza esprimo, klara kaj evidenta respondo, klara kaj firma kredo, klara kaj certa vojo, simpla kaj klara formoといった用例もあります。

反対語は、もちろん、malklaraですが、neklaraと言ってもあまり違いません。ほかにambigua「あいまいな」も反対語として働きます。また、nebul(ec)aも「霧のような」から「ぼんやりした」を意味してよく使われます。nebula homfiguro「ぼんやりとした人影」、nebula penso「ぼんやりとした思い」などです。

文法規則により、Estas klare (al mi), ke li pravas.「彼が正しいことは、(私には)明らかだ」のように、ke節とともにはklareという副詞形を使います。Ne estas klare, kial ŝi malaperis.「なぜ彼女が姿を消したか、明らかでない」のように間接疑問文の場合も同様です。

副詞klareの使い方のうち、形容詞に直接対応する使い方はそれほど難しくないでしょう。klare briliのような第一義に対応するものはあまり目立ちませんが、klare vidi, aŭdiのように視覚聴覚に関する動詞、klare memori, kompreni, scii, konsciiのように認識などを意味する動詞とともによく用いられます。なおvidiには視覚だけでなく、認識についての意味もあることに注意しましょう。また、klare diri, montri, esprimi, indiki, atesti, respondiといった伝達に関わる動詞、klare distingi, pruviなど判断を意味する動詞とも使いやすいのです。なお、動詞から作られる分詞や派生形容詞を修飾することもよくあります。klare difinita termino, klare skribita adreso, klare videbla faktoなどです。

少しわかりにくいのは、文全体にかかっている場合です。La aŭtoro klare estas talenta.「著者は明らかに有能だ」で、klareはesti talentaを修飾しているというより、文全体に対する話し手(書き手)の判断の確かさを表していて、Estas klare, ke la aŭtoro estas talenta.に近いのです。

また、一語で返事あるいはあいづちとして"Klare."と言うこともよくあります。「確かに」「もちろん」あたりに当たります。

『エス日』には見出し語として挙げてありませんが、動詞klariの形を好んで使う人もいます。esti klara[klare]とほぼ同義と考えていいでしょう。Klaras, ke ...という構文でも用いられます。

派生名詞klarecoは、具体的には「透明さ」(la klareco de lago)、抽象的には「明瞭さ」(la klareco de la difino)を意味します。

派生動詞のklariĝiは「澄む」「明瞭になる」、klarigiは「澄ませる」「明瞭にする」ですが、klarigiの方は「説明する」の意味でよく使われます。類義語としてeksplikiもありますが、klarigiの方がずっと日常語的で、頻度も高く、大抵の文脈で安心して使うことができます。


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