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『エスペラント』(La Revuo Orienta) 第79巻(2011)2月号, pp.11-12. 掲載

de vorto al vorto (18) forta

後藤 斉


『エス日』でfortaの第1義は「力がある」ですが、例文での訳語として「強い」も挙げてあります。第2義の「強固な, 頑丈な, 丈夫な」、第3義の「激しい, 強度の」、第4義の「強力な」と、日本語としても類義とみてよさそうな訳語が並んでいます。これらの訳語からもほぼ見当をつけることはできますが、おおむね、他に大きな影響を与える、ないしは、他から影響を受けないという性質が含まれています。

細かくみれば、物理的な力のほか、心理的あるいは抽象的な力、程度の大きさ、それらが実際に現れている場合と潜在的な場合など、さまざまな場合がありそうです。この単語は実際の使われ方の一端を観察してみましょう。ただし、実際の用例はその場の表現意図に応じて多種多様ですので、ここで取り上げることができるのはほんの一部に過ぎません。

身体的な力強さを表すforta korpo, homo, viro, virino, soldato, mano, brako, muskolo, dentoはあまり説明の必要がないでしょう。

物理的な力の強さを表しているforta puŝo, bato, frapo, vangofrapo, skuo, streĉo, premoの場合も分かりやすいでしょう。風雨などの気象現象forta vent(eg)o, blov(ad)o, pluvo, ŝtormo, uragano, tajfunoでも物理的な力が伴っています。forta tertremoも同様です。これらの表現では、たいていの場合に他者に大きな影響を与えていることが感じ取れます。

premo「圧力、プレッシャー」は、日本語でもそうですが、物理的な押しつける力のほかに、人を従わせようとする心理的、政治的な力を意味することがあって、その場合もforta premoと言うことができます。このように、名詞の語義が抽象的に転じるのに応じて、形容詞fortaの方も意味が抽象化するのです。

forta reĝoは自身の体が壮健というより、政治的軍事的な権力を掌握しているのでしょう。forta lando, ŝtatoとなると、必ずしも軍事力とは限らず、政治力、経済力などの点で他に優っていることが表されているようです。他に優る競争力という点では、スポーツでのforta teamo、選挙でのforta kandidatoなどもこれに近いと言えます。

forta armilo「強力な武器」は、実際の武器を指すだけでなく、Statistiko estas forta armilo en esplorado.「統計学は調査のうえで強力な武器だ」のように比喩的に使うこともできます。有効な手段を表すこの使い方は、rimedo「方策」solvo「解決策」などにも応用できます。atuto「切り札」もトランプの場面から離れて使うことは少なくありません。切り札自体が強いので、forta atutoは重複表現になりかねませんが、強調として可能でしょう。

forta atakoは軍事力や暴力の行使から言論による批判まで含みます。ここから、もっぱら言論による他者への働きかけであるforta kritiko, protestoにつながっていきます。forta argumento, pruvo, atestoでは説得力の強さが示されます。他への働きかけは、益をもたらす関係であることもあります。forta subteno, apogo, aprobo, kunlaboroなどです。

なお、forta kritikanto「強力な批判者」やforta subtenanto「強力な支持者」でのfortaは、意味的にはkritiki-, subten-の部分と関係していることに注意しましょう。

このほか、他へのなんらかの影響を表すforta influo, impulso, faktoro, impreso, ordonoのような表現も多く見られます。飲料や薬品などの刺激的な作用を指すforta teo, kafo, vino, brando, vinagro, laksigilo, venenoなどもこれに近いでしょう。

力は他に向かうことが多いでしょうが、自身の中での力のこもった動きもありえます。forta paŝo, korbato, spiradoなどです。

forta bazoは、もっとも具体的には、建物のしっかりした、揺るぎない土台を意味します。forta ŝnuroはしっかりとつなぎとめるロープです。ここから、fortaは他から影響を受けない、揺るぎないさまを表すことになります。forta ligo「強固なつながり」などですが、ここでligoは、文字通りのひもで結びつける意味から転じて、人間関係や連想の関係を指して使われるのが普通です。組織としてしっかりしているさまを表すforta asocio, registaro, organiz(aĵ)o, movadoなどもあります。

fortaが感情や意志の激しさを表す表現もよく見られます。forta deziro, volo, sento, emocio, emo, inklino, amo, malamo, sopiro, indigno, abomeno, timo, mankosento, motiviĝo, intereso, opinio, ambicio, atento, embarasoなどです。forta doloro, ebrio, ŝokoもこれに近いでしょう。感情や意志には人の心の中にとどまるものもあれば、攻撃的に他者に向かうものもあるようです。ただ、forta (mal)ĝojo, plezuroなどはあまり慣用的な表現ではありません。

forta voĉo, bruo, sono, odoro, aromo, parfumo, lumo, (ek)brilo, koloro, varmo, malvarmo, frostoといった五感で捉えられる刺激の場合、それを発する立場よりも受け取る立場から言われていることの方が多いようです。

顕著に見てとれるという点でforta personeco, karakteroはこれに近いのでしょう。さらにforta arteco「強い芸術性」、forta kresko「目立った成長(増加)」、forta tendenco「強い傾向」などと言うこともできます。

副詞forteは、形容詞fortaとかなり対応しています。物理的な力を表すforte premi, bati, skui,frapi, streĉiや他への影響を表すforte ataki, influi, kritiki, protesti, rekomendi, subteni、感情や意志を表すforte dubi, deziri, esperi, (ek)timi, senti, bedaŭri, interesiĝi, indigni, insisti, suspektiなどは類推できるでしょう。

それでも、いくつか挙げておきたい表現もあります。名詞化することがなくはないものの、動詞で使うことの方がずっと多いものも少なくないのです。forte teni, brakumi, enspiri; forte kontraŭi, konstraŭstari, kondamni, ĝeni, turmenti; forte kredi, (ek)koleri, ploriなどです。異同や変化を表すforte simili, diferenci, ŝanĝiĝiも特徴的です。

反対語malfortaでは、malforta korpo, bato, biero, voĉoなどfortaと対応した使い方はもちろん見られますが、必ずしも対応しません。malforta infanoが多いことは予想できますが、ほかにmalforta lumo, ridetoなどもかなり目立つのです。


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