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『エスペラント』(La Revuo Orienta) 第80巻(2012)1月号, pp.12-13. 掲載

de vorto al vorto (25) ŝuldi

後藤 斉


ŝuldiは、『エス日』でランクBという、比較的高い位置づけの単語ですが、使い方として少し分かりにくい点もあるようです。

『エス日』の第1義のうち「<金を><人に>借りている, 借金がある, 負債がある」は分かりやすい方でしょう。Vi ŝuldas al mi cent dolarojn.「あなたは私に100ドルの借金がある」などです。

目的語としては、この例文のように具体的な金額が来ることが多いのですが、monon, grandan sumonなどお金を意味する名詞やmulte, grandege, neniom, kiomなどの数量副詞も可能です。なお、『エス日』では第1義の最後に「<人に><事柄の>債務を負っている」と付け加えてあります。これは、PIVの例文にあるŝuldi unu labortagonなどを念頭に置いたものですが、この種の実例はそれほど多くはありません。

「借金」の場合が最も典型的で、理解しやすいのは確かなのですが、この場合にこだわりすぎると他の語義とのつながりが見えにくくなってしまいます。この語義が当てはまる場合はもう少し広くて、後払いのものの支払いや立て替え払いの清算が済んでいない場合なども含むのです。「債務を負っている、支払い義務がある」あたりに理解しておくのがよいのかもしれません。

ですから、Kiom mi ŝuldas al vi?は、状況によっては、(すでに受け取った物品やサービスに対して)「いくらお払いすればよいのですか」に当たることになります。Kian rekompencon mi ŝuldas al vi?ならば「どんなお礼を差し上げればいいでしょうか」あたりです。

この動詞が使いにくく感じられるのは経済的な支払以外について使われる場合でしょう。ただ、考えてみれば、日本語の「借りがある」も借金の場合とは限らず、恩義を受けたままになっている状況を指すことがあります。それに似て、Mi ŝuldas al li multon.「私は彼に大きな借りがある」も、多額の借金がある場合だけでなく、大いに恩を感じている場合にも使うことができるのです。

『エス日』では第2義として「<精神的な借りが><人に>ある」として、ŝuldi dankon [klarigon] al iu「<人に>感謝[釈明]をしなくてはならない」という例文が挙がっています。何らかの厚意を示されたことに対して感謝という対価の支払いが済んでいない状態と考えると、第1義とのつながりが見えるでしょうか。

ŝuldi dankonは実際によく使われる結びつきで、ŝuldi grandan [multan/apartan/senfinan] dankonなどと強めることもよくあり、ŝuldi multe da danko, multajn dankojnと言うこともあります。否定の強めであれば、ŝuldi nenian dankonです。

ほかには、ŝuldi pardonpeton [honorigon/kontentigon]「謝罪し[顕彰し/満足させ]なければならない」などの実例も見えます。ただし、目的語になる名詞のバラエティはあまり広いものではありません。

ここからさらに転じたのが『エス日』の第3義「≪ion(A)+al io(B)≫ 負っている」だと考えられます。Ni ŝuldas la sukceson al ŝia senlaca laborado.「私たちのこの成功は彼女の尽力のおかげである」などの場合です。実例としては、数もバラエティも第2義より目立ちます。

上の例文でもそうですが、Aにあたる目的語は、ŝuldi reputacion, prosperon, trankvilon, bonan situacionなどのように、明らかに好ましい事態を指す語句であることがよくあります。Mi ŝuldas mian vivon al mia iama instruisto.「私の人生はかつての師のおかげだ」、Al SAT ni ŝuldas Plenan Ilustritan Vortaron.「SATのおかげでPlena Ilustrita Vortaroがある」のような例でも、BのためにAがよくなった(得られた)という含みが読み取れます。ただし、Oni ŝuldas la akcidenton al miskonstruado.「事故は工事ミスのせいだ」のような不都合な事態について使っている例も皆無ではありません。

この語義の場合には、かなり広い範囲の語句が目的語として使われています。例えば、Ni ŝuldas al ŝia iniciatemo la eldonadon de la libro.「この本の出版は彼女の創意の賜物だ」やOni ŝuldas la teorion de evoluo al Darwin.「進化論はダーウィンに負うものだ」、Al s-ro Sugawara mi ŝuldas mian nunan esperantistecon.「スガワラさんのおかげで私は今エスペランティストであるのだ」などです。

主語はたいていの場合に人ですが、人以外が主語になっている文も十分に可能です。Ĉio ŝuldas sian kreskon al la suno.「万物が成長するのは太陽のおかげだ」、Matematiko ŝuldas multajn ideojn al antikvaj helenoj.「数学は多くの考え方を古代ギリシャ人に負っている」、La vorto "dizelo" ŝuldas sian nomon al Rudolf Diesel.「dizeloという語はルドルフ・ディーゼルにちなんでそう呼ばれている」などです。

ŝuldiに自動詞化の接尾辞-iĝ-をつけて作った動詞ŝuldiĝiは、ŝuldiの第3義に対応した使い方でかなり頻繁に使われています。『エス日』のもとの例文を改変すると、La sukceso ŝuldiĝas al ŝia senlaca laborado.「成功は彼女の尽力のおかげである」となるでしょう。La rekorda kresko ŝuldiĝas ĉefe al la pasintjara reorganizo.ならば「記録的な成長は主として昨年の組織替えに因っている」です。La rezulto ŝuldiĝas al la fakto, ke ...「その結果は、~という事実に起因している」のような構文でも使いやすいようです。ここでも主語は好ましい事態であることが多いのですが、malkresko, malvenko, krizo, katastrofoなど不都合な事態である例もときに見受けられます。

名詞ŝuldoは多くの例で「借金」の意味で使われていますが、このような場合は難しくないでしょう。なお「借金を返す」は(re)pagi ŝuldonです。ただ、Mi konfesas [rekonas/agnoskas] mian ŝuldon al liaj verkoj.「私は彼の著作に負っていることを認める」、Ni devas ne forgesi nian ŝuldon al la pioniroj.「先駆者から恩恵を受けていることを忘れてはならない」のような使い方もあることに注意しましょう。

合成語もŝuldokrizo, ŝuldatesto, ŝuldoŝarĝoなど借金の意味からのものが多いようですが、dank(o)ŝuldi, havi dank(o)ŝuldon「感謝せねばならないという気持ちを抱いている」もあります。


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