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『エスペラント』(La Revuo Orienta) 第80巻(2012)3月号, pp.. 掲載

de vorto al vorto (27) ĝui

後藤 斉


ĝuiは『エス日』では、基本義として「精神的あるいは物質的に望むものをわがものとして, 快適な気分を味わう」とした上で、第1義として「楽しむ」を挙げています。

類語としてĝojiが挙がっていますが、自動詞のĝojiはそれだけでも完結した意味を伝えることができて、感情そのものを表します。一方、ĝuiは他動詞で、普通の使い方では、楽しむ対象を表す目的語が伴います。感情がなんらかの知覚や体験、活動に伴ってひきおこされたものとして表されている点でも違います。

また、amuziĝiは娯楽や気晴らしとしての楽しみ方を表しますが、ĝuiが表す楽しみ方はもう少し広く、真剣な作業から達成感が得られたような場合も含みます。

もう一つの類語frandiは、「おいしく味わう」という飲食に関わる意味が中心で、他の楽しみ方に使われる場合は、臨時的な比喩としての使い方と考えてよいでしょう。また、『エス日』のランクCで、重要度が少し低くなります。

ĝuiの第1義では、言うまでもないことでしょうが、主語になるのは楽しみを感じることのできる主体です。つまり、実際上はほとんど人に限られることになります。

目的語としては、楽しみの対象となりうることやものであればよいので、状況に応じてさまざまな名詞が可能です。『エス日』では代表的なものとして「ĝui muzikon [pejzaĝon / junecon] 音楽[景色/青春]を楽しむ」が例文として挙げてあります。

景色を楽しむのは見て楽しむことにほぼ限られるのに対して、青春を楽しむやり方は何通りもあります。ĝui muzikonでは、大抵の場合に聴いて楽しむ場合を表して使われているようですが、演奏して楽しむ場合に使えないわけではありません。ĝui sportonは、プレーする場合も観戦する場合も、どちらもありそうです。多くの例では文脈から判断できるのですが。

目的語となるものを網羅することは不可能ですが、使う機会のありそうな表現を意味の区分ごとにいくつか追加しておきましょう。飲食関係(ĝui manĝajon, tagmanĝon, bieron, pladon, lokan frandaĵon)やさまざまな活動(ĝui promenon, ripozon, babiladon, diskutadon, dormadon, legadon, viziton al muzeo)、芸術作品など(ĝui poemon, pentraĵon, verkon, dramon, filmon, kanton)、場所(ĝui monton, urbon, vidindaĵon)、時(ĝui nokton, vivon)、環境(ĝui sunbrilon, amikan etoson)などです。

さまざまな行事も楽しみの対象になりますから、ĝui kongreson, programon, prelegon, ekskursonなどもあります。エスペラントでは、エスペラント行事を話題にすることはよくあるため、実際に使う機会も多いでしょう。なお、ĝui Esperanton, Esperantujonなども見受けられます。

また、ĝui la belecon de la naturo, la ĉarmon de la regionoのように、ある物がもつ性質を特に取り上げて表現することもできます。

目的語になる名詞に良好さを表す形容詞を添えることがあります。ĝui manĝaĵonだけでも、その食べ物を楽しむのですから、それがおいしいことは十分に推測できるはずですが、ĝui bongustan manĝaĵonと形容詞をつけて念を押すことで、食べることから来る楽しさをより豊かに表現することになるのです。ĝui bonan veteron, belan pejzaĝon, feliĉan vivon, gajan tempon, agrablan noktonなどでも同様です。

上述のようにĝuiは他動詞で、たいていの場合に名詞または代名詞の目的語を伴うのですが、動詞の不定形を伴って使われた例もたまに見られます。なかでも、ĝui legiというつながりは比較的目立ちます。Mi multe ĝuis legi la libron.など。Vi ĝuos esti gasto ĉe ni.という文も伝えたいことを適切に表現しているようです。

ĝuiを強めるには、副詞としてmulte, treを添えるのが普通です。ほかにplene, vereもよく使われます。頻度はそれほど高くはないものの、sate, ĝissate, ĝinfundeもĝuiと相性がいいようです。

ĝui vojaĝonはこの第1義から理解できます。観光や保養によって旅行を楽しむことです。ĝui senpagan vojaĝonは似ているようですが、少し違った意味に転じています。無料の旅行ができること自体がĝuiの対象なのです。『エス日』のĝuiの第2義「<利益や恩恵を>受ける, 享受する」になります。La gajninto de la speciala premio ĝuos senpagan vojaĝon en Pekino.ならば、「特別賞の当選者は無料の北京旅行をもらえる」あたりです。

動詞型に対応して「<利益や恩恵を>」と付記してあるように、この語義で目的語になるものは広い意味での楽しみにつながるような、何らかの益を表す語句です。その意味からしてつながりやすい名詞をいくつか挙げてみましょう。好意(ĝui favoron, simpation, amon, amikecon, bonajn rilatojn)、名声(ĝui famon, reputacion, renomon, popularecon)、権利(ĝui rajton, liberon, avantaĝon, previlegion)、尊敬(ĝui respekton, honoron, prestiĝon)、支持(ĝui agnoskon, apogon, subtenon, helpon, zorgon)、利益(ĝui rabaton, stipendion, subvencion)、などです。

ĝui agrablan akcepton「快い歓迎を受ける」, ĝui novan servon「新しいサービスを受ける」, ĝui favoran prezon「優待価格を受ける」、ĝui fruktojn de la moderna civilizacio「現代文明の成果を享受する」などもあります。

おもしろいことに、この語義では人以外のものを主語にして使うことも少なくありません。La biciklo ĝuas renesancon.「自転車は復活を迎えている」、Grupaj abonoj ĝuas rabaton.「グループ購読は割引を受けられる」、Lia vizito ĝuis interesiĝon de la amaskomunikiloj.「彼の訪問はマスコミの関心を集めた」などです。

この語義でも、名詞の意味を強めるために形容詞を添えることがよくあります。ĝui altan memstarecon, apartan atenton, grandan respekton, specialan rabaton, fortan apogonなどです。

名詞ĝuoは動詞に対応して「楽しみ; 享受」の意味で使われます。Mi legis la libron kun (granda) ĝuo.といった表現は応用ができそうです。Mi ĝue legis la libron.やMi deziras al vi ĝuan legadon.も可能ですが、副詞ĝueや形容詞ĝuaの形で使われることは比較的まれです。

ĝuoから作られる合成語には、manĝoĝuo, vivoĝuoなどがありますが、それほど頻度は高くありません。


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