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『エスペラント』(La Revuo Orienta) 第80巻(2012)11月号, pp.23-24. 掲載

de vorto al vorto (34) akra

後藤 斉


『エス日』は形容詞akraについて「とがっていて対象にたやすく切り込めるような性質を持った」という基本義を挙げてから、語義を4つに区分して示しています。そのうち、第1義の「〔刃物などが〕鋭い, よく切れる, 鋭利な」が最も具体的で、用例のakra glavo [dento]「鋭い刀[歯]」からその語義はおおむね明らかでしょう。

akra nazo, mentono, mamo, barboやakra montopintoのような、とがった形だけに注目してこの語を使っている実例もありますが、あまり多くはありません。ほとんどの例では、akra tranĉilo, hakilo, sagoなどの刃物や武器を典型として、とがっているだけでなく、硬く、また、切れ味がいいという性質を含めて形容しています。これは刃物として機能が高いことを意味しますが、一面で危険性(攻撃性)も示唆していることに注意しましょう。

類語としてpikaが挙がっていますが、これは先端がとがっていて、刺すような物の場合です。一方、切れ味のいい物の形容としてはtranĉaがあります。akraはその両方を合わせたものです。

体の部分としてはakra dentoのほかに、akra ungoなどとも言えますし、akra korno, beko, dornoなど動植物の部分についても使えます。akra roko, ŝtonoなどの自然物を形容することもあります。akra rando de fendo「裂け目の、鋭いへり」のように、物体の一部分について言うこともあります。akra angulo, fino, pintoなども同様です。

akraが表す性質は、このような物理的な鋭さが基本ですが、そこからもう少し抽象的な鋭さに広がります。目や皮膚に対して刺すように向かってくる強い日差しをakra suno, sunlumo, sunbriloと表現することなどです。主に視覚に関わるakra lumo, briloもあります。akra koloroは目を刺すような「きつい色」でしょうか。耳をつんざくような音、akra bruo, (ek)krio, fajfo, alarmo, sono, voĉoなども同様です。

味覚や嗅覚についても、強烈な刺激があるさまをakra gusto, kareo, kapsiko, pipro, odoroのように表すことになります。brule akra trinkaĵoとさらに強めた例も見受けられます。「身を切るような痛み」と捉えれば、akra doloroと言えることも理解できます。akra malvarmo, frosto, ventoなどもそれに近いでしょう。

「射るような視線」と視線を矢などにたとえることはよくあり、akraj okulojやakra rigardoという表現につながります。ekzameni per (siaj) akraj okulojでは、少しの異状も見逃すまいと厳しく検査するさまが伝わります。また、akra aŭd(ad)o, aŭdokapablo, sento, vidoのように感覚の鋭敏さを表すこともできます。

akraj okulojは、視覚から認識力に転じて、対象の内面を探ろうとするその鋭さを表すこともあり、ほぼ「慧眼」に当たります。akra atento, intereso, esplormaniero, observoもそれに近いでしょう。

akra kontrasto「強烈なコントラスト」は、視覚あるいは認識に対して強く印象づける対比を表します。akra diferenco, ŝanĝoなど、違いを意味する語とつながります。

akra atak(ad)oは「激しい攻撃」は戦闘行為としての攻撃だけでなく、他者に対する攻撃的な言動を広く表わすことがあります。akra protesto, reago「反発」なども同様です。akra cinika ridoでは、cinika rido「冷笑」の厳しさが表されています。

主に言語表現による攻撃をakra kritiko[riproĉo]「厳しい批判[叱責]」のように形容することもあります。akra moko, insulto, mallaŭdo, plendoも同様です。akra esprimo, komento, artikolo, letero, noto, plumo, vorto, tonoでは、名詞自体としては好意的でも攻撃的でもありえますが、akraがつくことで強く攻撃的であることが伝わります。なおakra langoは(状況によっては舌の形を表すこともあるでしょうが)「毒舌」に近い意味で使われます。

akra ĵaluzo, malamoなどでも他者に対する攻撃的な感情が表されています。もっとも、akra ĉagreno, kompato, sopiroでは、単に激しさを表しているようです。

akra krizo「深刻な危機」は強い危険性を形容しています。akra danĝero, problemoなどのつながりもあります。akra statoだけでも「危機的な状態」を表します。

一方から他者への攻撃でなく、争い全体の激しさを表すこともあります。akra bataloが典型例ですが、ほかにakra bombardo, batalkampo, konflikto, konfrontiĝo, konkurado, konkurenco, kontraŭdiro, malakordo, malamikecoなど似た使い方が多くあります。akra historio inter la du naciojでは、激しい対立に満ちた歴史が表されます。

言論による争いについても、akra diskuto, disputo, debato, polemikoなどの表現が見られます。副詞akreは、物理的に鋭い様態を表すことはあまり多くありません。Ŝia vorto akre vundis mian koron.「彼女の言葉は私の心をひどく傷つけた」ではvundi mian koronがすでに心理的な意味に転化しています。

たいていは何がしか抽象化した意味で使われています。akre ataki, frapi, reagi, batali, konkuri, rebatiのように攻撃的な言動、特にakre diri, disputi, kondamni, moki, kritiki, protesti, riproĉiといった言論による攻撃の激しさを表している例が多いようです。

形容詞の場合と似て、視線(akre rigardi)、音(akre krii, fajfi, soni)、感覚(akre senti)などに関して、様態の鋭敏さや強烈さを表します。akre malvarma, frostaなど形容詞を修飾することもあります。

また、akre diferenciのような、違いが際立っていることを表す例も多く見られます。ほかにakre distingi, dividi, kontrastiなどがあります。際立って目立つようなさまを表すakre montri, reliefiĝi, konturiĝi, konturitaもそれに近いでしょう。La domoj akre konturiĝas kontraŭ la vesperĉielo.「家々は夕空にくっきりと輪郭を描いている」などです。

反対語malakraは、多くの場合、malakra tondiloのように物理的な鈍さの形容で使われています。malakra lumo, ventetoなどの例はまれです。

派生語akrigiは、akrigi krajonon「鉛筆を尖らせる」のように具体的な語義で使うこともあり、akrigi koleron, premon, problemon, scivolon, singardemonなど、さまざまな抽象化した語義で使うこともあります。


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