第一句集『緑雨』(りょくう)
        (1997ー2005)

    長谷川 冬虹(とうこう)

第一句集『緑雨』(ふらんす堂)所収の全句365句です。 
自選30句LinkIconあとがきLinkIcon

 
 わずかですが、残部がございますので、ご希望の方には現物をお頒けいたします。メイルアドレス hasegawa3116##gmail.com(##を@に変える)宛ご連絡ください。

 序・山田みづえ
雪催

冬川霧

白雨

夕霙

雨匂ふ

筍梅雨

夕立あと

ミシシッピ河

星形の街
あとがき

  2006年5月23日 初版発行

雪催  平成九年  



  父 長谷川耿子入院
春睡の御身を癒す術ありや


  四月十日朝
初ざくら永訣(わかれ)と知らず別れたり


  急逝の報受け山形へ
春の夜の湖面や父は逝きたまふ


  通夜
花辛夷目覚むることのかなはざる


  遺句 病院の玻璃窓厚き花便り
花冷えの形見の文字の告げありき


喪主なれば位牌抱けり花の雲
月山の御霊呼ばふか薄霞
花さんしゆゆ父のかたちの骨拾ふ
俳諧の耿子よ現れよ雪解川
春日射しレクイエムめく原生林
花水木黙せし吾に妻の声


  みづえ先生より句集『忘』頂く
枇杷食みて「終身の喪」とつぶやけり


うからみな蔵王青嶺の子どもたり


  上棟式
棟梁の大きく笑みぬ朴若葉


言ひたきをみなまで言はず夏椿
端居して遺影の父を背(そび)らにす
桜桃や十五の頃の恋ごころ
夕焼けていま月山の影大き
泰山木一輪こぼる百日忌
はまなすや日輪朱く海に没る
海胆漁夫誇り顔なる大暑かな
古街道のうぜんかづら溢れをり
新盆に繰りては唱ふ茂吉集
納骨終へ戻りし宵のちちろ虫


  新居
秋澄みてゆるりと廻す鍵の音
わが窓に太平洋あり秋の天


  母校尾花沢中学校にて講演
秋天やこの児らに説く新世紀


木守柿黒板塀の仕込蔵
母と居て眼下にかかる冬の虹

  温暖化防止京都会議
会議場出でて比叡の雪催


わが事の喪中欠礼小夜時雨


  山形へ
冬の虹また一つ見え峠かな

冬川霧  平成十年



やはらかきアリアが聞ゆ初明り
服喪にて山茶花一輪年迎ふ
去年までは対ふ人あり初山河
世紀末『ユリウス・カエサル』読始
雪吊や『父阿部次郎』読みさしぬ
豆打てば遠き闇より父の声
茂吉忌の古里なまりくぢらもち


   有斐閣伊東晋氏
青ぬたや生れを問はば能登の人


花さんしゆゆ寝息しづかに真夜の妻
万愚節翌朝からの大雪来


   遺句集を準備す
亡父(ちち)の句を書抜きをれば雉啼けり


朝湯して蔵王遠望花霞
月山の乳房のごとく春田かな
漱石の生れかはりやこの菫
芝青む客分たるかすべりひゆ
山笑ふ面白山の嶺愉し
チェルノブイリ忌の朝細やかに春の雨
姫神へ青嶺雄々しき南部富士


  田中正造 二句
麦の秋渡良瀬河畔志士往還
青胡桃正造最期の家なりし


わが庭に波郷の愛でしえごの花
紅花(べに)摘みの指の早さよ朝まだき
ラテン顔のモントリオールの西瓜売


  ナイアガラ
光芒に霧たちのぼる大瀑布


  ヴァンクーバー 二句
炎昼やフィヨルドを行くハウ海峡
旅果つ夜スペイン風の大花火


朝顔や書きすすまぬ日も進む日も
りんだうや黒毛の牛の眼の黒き


  青森県六ヶ所村豊原地区
カラフトの豊原てふ地赤のまま


  広島
曼珠沙華原爆ドームへ向かふ朝


白鷺の姫君おはす刈田かな
刈田風出羽三山を衝立(たて)として


  鹿児島
冬川霧西郷大久保生家跡
切子の紅錦江湾は小春凪


  妻の誕生日
裸木の良きこと約す花芽かな


ミネソタの客人来たり漱石忌


  シンガポール
月白く赤道近きクリスマス


千年の大年迫るバッハの曲

白雨  平成十一年



佳き言葉玉虫塗の雑煮椀
干しえびの南洲公の雑煮椀
七草のきりたんぽ鍋東北論
妻の声弾めり今朝の冬の虹
冬萌ゆる青き生命の宿り初む
海鼠噛む告げたきことは届かざる
燗酒や互(かた)みに父を送りたる
鱈鍋や下北佐井村肝啜る


  悼 森博教授 四句
風花や古稀には足らず逝きたまふ
閉ぢし命はじまりし命風花す
帷子に出羽三山図冬田道
パソコンに弔辞残りて日脚伸ぶ


岡鹿之助の油彩画の如き雪景色
春隣ゆるりゆるりと歩む妻
暖かき試験日となる茂吉の忌
妻屈むつはりもなくてクロッカス
雛飾れば女児の予感す緋毛氈
丸寝の妻に物語りせむ宵の雛
親指ほどのみどりごならん涅槃西風
桃の花心の始まりいつなるぞ
父となる覚悟を問はん花辛夷
中華街に善隣門あり春の雨
今日の日は胸高の帯卒業子
終りても根の美しきヒヤシンス
三周忌終へ片栗の森を往く


  五稜郭
星形に緋躑躅燃ゆる戦さあと


啄木の青柳町に藤の花
母の日の胎動ありと妻笑みぬ
緑雨して山刀伐(なたぎり)峠山毛欅峠
夏炉辺のなたぎり談議里訛
枇杷食めば種を惜しめる身重妻
検診の産院への道青田風
夏の雲父親学級受講せり


  長崎原爆忌 二句
浦上の爆心地(ばくしん)今宵大白雨
ひぐらしのまつただ中に祈念像 


西瓜切り妻の産休始まりぬ


  阿部次郎宛漱石書簡 二句
秋の蝶草々頓首金之助
巻紙のはね止め払ひ草雲雀


臨月の吾子の心音ちちろ鳴く


  妻は
産み月の胎動激し葡萄食む


萩の野に赤子抱かん希みかな
産み月のアベマリア聴く良夜かな


  十月六日午後四時二十三分
吾子生まる茜色さす鰯雲


泣く声の一つは吾子か濃竜胆


  命名「公樹(こうき)
秋天の野の木街の樹一樹たれ


賜はりしみどり児睡る竹の春
赤子羅漢をのこのしるし濃りんだう
あたたかき小水受くる小春かな
見えざるや見ゆるや汝に初雪来
腕の児の喉鳴らしをる柚子湯かな
ファウストを繰る千年の年の内

夕霙  平成十二年



ファウストの新訳二つ読初
児の声に母音を数ふ小豆粥


  東海村臨界事故住民調査
調査票の憤怒の文字繰る冬落暉


冬晴れのわくごと太き嬰(こ)のよだれ
節分の小さき鬼の泣きやまず
卒業子雪の別れの新スーツ
大雪に足取らるるな卒業子
上京の小山あたりの花の雨


  父耿子命日
嬰を抱きて墓前に告ぐる花山茱萸


かたくり咲き妻の瞳の母らしき


  教へ子李妍炎さん
留学生魯迅を語り青き踏む
葉ざくらの葱南遺墨拾ひ読む


                 葱南(そうなん)は木下杢太郎の号


ふたむかしの私鉄の小駅花みづき
菖蒲湯の吾子は菖蒲を握りしむ


  デンマーク 二句
コペンハーゲン駅舎にかかる虹太し
万緑に白き風車の林立す


  ストックホルム
日盛りや古都は軍港でもありし


ソプラノの博多訛や夏料理
仮名やさし「あぢさゐ餅」の城下かな
四隅より開きて四葩(よひら)を得心す  
みどり児のはひはひ始む夏の雲
大西日光芒さしたる出羽盆地
三重唱オペラのごとく燕の子
吾子抱きたちまち大き入道雲


  阿部次郎記念館
次郎宛の茂吉書簡の紙魚双つ


友二先生の色紙の文字や百合の花
木馬の児にトロイを語る星月夜
朝顔や八行記す育児日記
コスモスの中父母若き古写真 
重陽のアジアの児なり蒙古斑
新涼の積み木に残る歯形かな
鶏頭に迎へられたる朝かな


  みづえ師
父君に肖たるまなかひ赤のまま


秋の夜の力尽きたる丸寝の子  
笑む如く母の荷物の通草かな
児の如く団栗噛みたるをかしさよ
柿熟るる三戸九戸(さんのへこのへ)南部みち
ななかまど三個積みたる嬰の積木
鱈鍋や学会はねて大音声


  温暖化防止国際会議
霙ふるハーグの街の国連旗


  オランダ・デルフト
夕霙フェルメールここに眠りしと


夜の雪『わが父波郷』読継ぎぬ
子が囓り苦き顔する柚子湯かな

雨匂ふ  平成十三年   



嬰の寝息しづかに聞けり玉子酒
節分のロボット歩きの鬼の面
児の脱ぎしセーター畳みて小ささよ
三寒四温抱く嬰児(みどりご)温かき
足音の八分音符や春隣
まんさくやふしぎ堂てふ古本屋
泣き止めば母似が多し入園児
南部津軽境辺りの芝桜
学会へ南部方富士五月晴れ
葉ざくらや青葉集繙く連ね歌
池の鯉ちやうど跳ねたる端午の日
鳴き真似て吾子に教ふるほととぎす
裸子のぐうしか出せぬじやんけんぽん
えご咲いてたどたどしくもぱあとちよき
枇杷食むる妻と息子の耳同じ
太宰忌の読みさし置けば雨匂ふ
歳時記の巴里祭を繙く空港ロビー


  ダイアナ妃遭難地
花束の薔薇繚乱現場跡


甚平の子繰り返しくりかへし「こんばんは」
蔵王嶺の墨絵の如し夕立過ぐ
じんべの子髪切つていよよ吾に肖し
祭笛父似が多し法被の児等
児の風邪を貰ひて伏せり百日紅
小玉西瓜ひしと抱けり離すなよ
カフェオレの朝の芝生に小鳥来る
台風の外れて朝顔咲き充てり
秋天をつく鋭角の朝の富士
萩こぼる仙台に住み十七年
愚図る子もやがて微笑得る良夜かな
阿部次郎忌の大平女史の掌よ


  京都国際会議
栗甘き雲水弁当英訳す


  山田俊雄・みづえ先生ご兄妹
菊日和母似父似の兄妹


  山田孝雄・みづえ先生親子句碑建立 二句
月まどか孝雄発句の文字拾ふ
かざはなを呼ぶ風花の句碑なれば


那須連山湧き上りたる冬の雲
舌先の雪ひとひらの甘さかな
初雪をよろこぶ吾子を肯へり

筍梅雨  平成十四年  



オザワ振るウィンナワルツの淑気かな
読初は夜の紅茶で秀野論
亡父と母を九人が囲む初写真


  ヨーロッパ調査行
街ごとに絵葉書記す花便り


  コペンハーゲン上空より
春の海風車群の白き羽根


筍の皮を兜に端午の児
山の湯や筍梅雨の雨を聴く
去年よりは小さく遠きくわくこうよ
桜桃を子と頒け太宰を呟けり
母と往く狐越街道青田風
幼な子に青栗教ふ原爆忌   
じんべの児はじめて歌ふドレミファソ
茂吉碑の万葉仮名読む百日紅
往還の山寺街道桃実る
後三年の安倍の館跡栗拾ふ
はじめての稲妻吾子よしかと見よ
稲妻に帰去来の辞の浮かびけり
與一多麻回想録繰る良夜かな


                 河野與一・多麻夫妻


  JCO事故三周年集会で講演す
怒る眼も肯へる眼も曼珠沙華


片口の丹塗の古酒や七かまど
団栗投げにはかに小さきテロリスト
ツリー灯す「クリスマス咲いた」と吾子の声


  編集人 二句
やはらかに督促受くる河豚の鍋
鰭酒やすすめ上手の加賀訛


  著書脱稿
言祝ぎの初雪と見る掌の雪を


東京の初雪淡雪漱石忌

夕立あと  平成十五年



伊達ぶりををのこも愛でよ鯊雑煮
吾子なれば勝ち譲らざる初角力
そつと踏む悪女にあらず霜の私語


  講演「阿部次郎と仙台」
茂吉忌に阿部次郎父娘を語り継ぐ


ゆるゆると三月を漕ぐ三輪車
段ごとに吾子に説きたる雛の箱
幼児語のにはかに薄れクロッカス
寺町に忽然と枝垂桜かな
花吹雪まつただ中を駆ける児よ
城裏のかたくり群落講義あと


  耿子句碑山寺風雅の国に建立
円かなり亡父の句碑なる春の月
山寺に新しき句碑山笑ふ
花どきのなつかしき顔句碑開き
三ひら四ひら花の降りたる石の碑


春蟬に追はるるごとく峠行く
空翔けよ緑の羽根を子の胸に


  悼草間時彦先生
大粒の雨こそ好けれ大夕立
伏見の酒草間先生の鱧の皮 


螢火の黄色く蒼く田の闇に
桜桃忌桜桃しやぶる子の瞳


  豊肥本線
炎昼の阿蘇カルデラの車中かな


梅雨寒や安達太良山は雲の中
さみだるる「雲泣いている」と子の見上ぐ  
あぢさゐの小駅で黙す法事あと
代筆の「すき」の文受く甚平の児
膝の児の絵本に寝入る夕立あと  
子の寝息確かむ夏の夜の地震(なゐ)
浴衣着の妻の幼き古アルバム
齢数ふ昭和を数ふ遠花火


  山形・慈恩寺
ありがたき仏ぞをはす蝉時雨


桃の香の生きもののごと階下より
義母(はは)病めば朝顔も憂しその色も
電話受け喪服を包むちちろ虫
なお温き屍の義母や秋の蝉
白桔梗棺の義母は微笑給ふ


  「天国は遠いの」と子の問ふ
秋雲を指さし答ふ在り所


義母在すや一片紅き秋の雲 
納骨す銀杏黄葉の散り止まず
秋空に四肢はねあぐる吾子四歳
風呂吹きや母を失くせし妻の背(せな)
蕪汁行平鍋を形見とす
古里の講演終へて蕎麦湯かな


  祝 東京大学社会学研究室
百周年言祝ぎ給ふ冬の虹


吾子の背大きく見ゆる柚子湯かな

ミシシッピ河  平成十六年  

「風花は雪の友達」と子の応(いら)


  大平千枝子氏宅
脱稿の原稿貰ひて葛湯かな


  悼 理容師の伯父 三句
亡父生(あ)れし長谷川理髪店雪月夜
香炉もて雪の葬列先導す
剃刀の手さばき懐かし雪の窓


寒卵絵本読む妻は母の声
子とあはせ大音声の追儺かな
湯煙に淡雪踊る露天風呂
下北の吹越(ふつこし)てふ地春吹雪
下北の雪解野に舞ふ風車群


  大間崎
啄木の函館山よ春の潮


花さんしゆゆ校正終へし亡父の稿
桜湯やあとがき記す遺稿集
牡丹の芽航空券の届く朝
薔薇の芽や校正終へし英文稿
ビザ用の写真を撮りに若葉風
夏場所や思ひの外の子の力


  出国前夜
なぞなぞの答を食べる苺かな


  自然エネルギーボン会議
休憩のライン河畔に雷を聞く


ミネソタの旅人として初時雨
初霜やハーバード大に旅立つ朝
九年ぶりのボストン空港初雪来
大草原走り抜きたる冬銀河
凍星の先住民保護区にあまねしや
冬天に白き風車の廻りけり
ミネソタにジャズトリオ聴く漱石忌
日本語で凍星数ふ湖の上
オリオン星眠るがごとき太き河
冬川霧炎立つごとミシシッピ
フランスパン抱へて歩く十二月
聖夜明けオムレツつくる日曜日
零下二十三度告げて電話の母の声


  ミシシッピ源流行 三句
冬木道四百キロを北上す  
裸木のあまたの湖を走り過ぐ  
走りても走りてもただ大枯野


  源流・イタスカ湖 八句
ラテン語の調べをもてる雪の湖  
雪のトレイル足跡かすかにみなもとへ
霧氷林マリアのごとく湖抱く  
一筋の流れぞ生れし霧氷林  
凍つる湖ミシシッピ河は始まれり  
冬の天四千キロもここよりぞ
生まれいづる四千キロの冬の川
冬日受け十二使徒のごと白樺林


雪野行くミシシッピ川は女川 


  ニューオーリンズ 四句
船中にジャズの音溢るニューイヤーイヴ
老夫婦ステップ踏みて年惜しむ
ジャズ調の「螢の光」年送る
ニューイヤーイヴ仮面つければロメオめく

星形の街  平成十七年 



  ニューオーリンズ 六句
バーボンストリートに乳房もあらは年迎ふ
新年を言祝ぐブラッディマリーかな


                    ブラッディマリーはカクテルの名


ミルク色の冬河霧の晴るるまで   
ニューオーリンズに「欲望」という名の牡蠣の店
バーテンダーは名優の顔牡蠣啜る
年明けの朝の空港ジャズ流る


雪の朝目覚めぬ街をメキシコへ


  機上から
朝焼けのつかの間雪の野を染むる


  メキシコ 三句
冬晴れの壁画のごとき日の出かな
ポインセチア・レフォルマ通り疾走す
テキーラ舐めメキシコ・シティの冬休み


  グアダルーペの丘
メヒコの山に夏の陽のごと冬落暉
グアダルーペの奇跡の丘に冬の薔薇


  テオティワカン遺跡 二句
木の葉降るテオティワカンの夢の跡
南中の冬日貫く「死者の道」


冬星の一つとなりて夜間飛行
シカゴ響のミサ・ソレニムスの雪の夜
粉雪をアンコールと聴くミサ・ソレニムス
たちまちにロンドン塔の春みぞれ
春時雨避けて眼下にテムズ河
日のうららウォータールーの橋渡る


  ロンドン漱石記念館あたり
漱石の郵便ポストよ花菫


  ヴィール原発建設予定地跡 二句
ライン河は独仏国境春浅し
足許の向こうはアルザス薄霞


  フライブルク
教会でマタイの曲聴く春の雪


  オランダ・ワーヘニンゲン 三句
オランダにもまんさくありぬまづ咲きぬ
星形の街星形に春の霜
堀跡に白鳥見ゆる二月の窓


春の月はじめて届く吾子の文字
クロッカス吾子の書きたる仙台市国見ヶ丘
はるのゆきひらがなだけで返信す
春耕の真白き鳩の飛び来る
したたかに濡れオランダの春時雨
ゴシックの教会の鐘遅日かな
ゴーダてふチーズの街過ぐ春霞


  ベルギーに入る
花桃や四ヶ国語のアナウンス


  ベルギー・ブルージュ 四句
春暖炉受胎告知のあまたの絵
受難節マルクト広場に昼の月
ルーベンスのごと夕焼けて春めけり
黄水仙咲き満ち帰国近づきぬ


聖金曜白アスパラの輝けり


  アンネ・フランク館 二句
受難日のアンネ姉妹の丈比べ跡
黄水仙アンネは母のひとつ下


  帰国
ふきのたう八ヶ月ぶりの児の重さ
花便り帰国告げたき父在(いま)さず

2015年5月2日