俳句(2009ー)

    長谷川 冬虹(とうこう)

「古志」入会(2009年9月)から2014年までの俳句から、毎年20句づつを掲載いたしました。2015年の作品LinkIcon, 2016年の作品LinkIcon, 2017年LinkIcon, 2018年, 2019年LinkIcon, 2020年LinkIcon,2021年LinkIconの作品もご覧ください。

故山田みづえ主宰の「木語」時代の句はこちらをご覧ください。LinkIcon

2014年

1 御降りの大雪となり面白き
2 けさの霜ひそやかに苔もちあぐる  
3 熱燗で招き戻さん鬼やらひ
4 茂吉忌はいつも試験日開始ベル 
5 まど・みちおぞうさんのうたひなあられ
6 春ならん白き乳房の月の山
7 上京す白河以南花の中
8 金の花粉まみれて眠き花虻よ
9 百花ある中にも宵の白牡丹
    隠岐海士町三句
10 不自由と自由の間蟹歩む
11 父と子と漂ふ海月海士の海
12 隠岐にゐて天津雨なる夕立かな
    悼二句 舩橋晴俊先生
13 相模湾秋空高くあるばかり
14 棺の中千草八千草溢るほど
15 語り継ぎ書き継ぐわれら鰯雲
16 邯鄲の夢のごとくに夏果つる
17 もつきりの冷やし酒こそ秋の水
18 還暦や連夜の旅寝菊の酒
19 ひとり酌む生老病死菊の酒
20 踏切の遠くしづかに雪の朝

2013年

1 蔵王嶺は茂吉の山河初御空
2 餅花や八十路半ばの母の掌に
3 雪をもて遠来囃す初句会
4 初句会雪の深さを言ひ合へり
5 ぶつ切りを風邪のをのこに根深汁
6 闘牛の牛のかたちの斑雪
7 軽やかに南ドイツに花吹雪
8 もてなしは山桜又山桜
9 山雀も馳せ参じたる句会かな
10 一人静二人静のかそけさよ
11 初蛙汝も津波の語り部ぞ
    イスタンブール
12 バザールのランプ擦れば虹の橋
    悼 みづえ先生 
13 石楠花やむすんでひらいて逝きたまふ
14 老楠や大緑陰を賜りぬ
15 捩花や恥入るごとくねぢれたり
16 バンコクの甍に赤き稲光
17 湯の宿の鈴虫いつか真夜の雨
18 台風来雲湧き立ちて龍のごと
19 塩むすび勝るものなし今年米
    南インド
20 マサーラの匂ひの中の年忘れ

2012年

1 餅自慢雑煮自慢の年の酒
    岩波新書広告
2 初刷に脱原発のわが一書
3 ふきのたう失くせしものと得しものと
4 存へしこの一年や雛飾る
5 蕗味噌やけふが最後のランドセル
6 吾子らみなただ生き延びよ卒業歌
7 まどろめば隠岐よ眼下に春の涛
    映画「マーガレット・サッチャー」
8 老い深き「鉄の女」や花の雨
    齋藤茂吉生誕一三〇年
9 同郷の茂吉先生栗の花
10 亡父が微笑みゐたる昼寝覚

11 安達太良の憤怒のごとく雷鳴す
12 色褪めし家族写真の水着かな
13 辻々に那智勝浦の迎へ火よ
14 千有余年熊野を守る蜥蜴かな
15 夏果の北京の夜はジャズトリオ
16 曼珠沙華ワルツのごとく華やげり
17 曼珠沙華長谷川ゆかり長谷の寺
18 母は大きく妻は小さく梨を切る
19 冬霧や更地ひろがる津波跡
20 上海の熱く蒸されし海鼠かな

2011年

1 焼鯊を小太刀のごとく伊達雑煮
2 四世代十有五人雑煮椀
3 雪晴や歯磨きできる倖せよ
4 山向かうの向かうは雪の山形よ
5 春暁の夢路や亡父に見舞はるる
6 二分けす三月十一日前と後
7 三月の蝋燭の灯よ吾子を抱く
8 ロシア語で啄木の歌春の月
9 福島の林檎の花よいたはしき
10 えごの花は波郷の花よ今年また
11 嬲るごと放射能雨のさみだるる
12 汝も吾も生き延びたりし螢かな
13 螢火や天の川より降りたるか
14 余震なほまどろみゐたる梅雨の闇
15 炎昼や十三億の人いきれ
16 鈴虫を真似ゐていつか丸寝の子
17 湯気立ちて今年米てふ佳き言葉
18 謹みて新米を研ぐきゅっと研ぐ
19 朝市に売る馬鈴薯の名はゴッホ
20 藤原三代農は百代大根干す

2010年

    コペンハーゲン二句
1 初凪や口笛で吹くサンタルチア
2 冬浪の寄せ来るごとく外国語
3 朧夜の鯛素麺で祝ひけり
4 雲間より乳首のごとく夏嶺かな
    岩手・葛巻二句
5 夏山の分校はいまエコスクール
6 万緑の声のごとくにぶなの森
7 大海の一魚となりし大暑かな
8 酔覚めの朝湯にゐるや蟬時雨
9 西瓜畑赤子の尻の並ぶごと
10 「序の舞」の図録に見入る菊の酒
11 慈雨のごとにはか雨あり刈田道
12 峡の村一つ越しては蕎麦の花
13 蕎麦咲くや次年子てふ峡の村
14 ゆきむすび名もうるはしき今年米
15 ハングルの屋台のおでん釜山駅
16 時雨るるや釜山にありて昼の酒
17 伊達藩の御裏林に初時雨
18 小籠包チャイナタウンのクリスマス
19 金色のサンフランシスコ石蕗の花
20 寄鍋で日本の文化解説す

2009年 

1 炎昼や黄河支流の橋渡る
2 胡同のこなたかなたに蟬時雨
3 包子食む王府井の夕立あと
4 始皇帝陵墓にあまた石榴かな
5 瞳黒し古都西安の西瓜売
6 肉太の隷書の文字や杜鵑草
    詩仙堂
7 李白杜甫孟浩然や草紅葉
8 醍醐寺の桜紅葉ぞ散りゆけり
9 駅ビルに台北の二字冬の月
10 小春日を賜る妻の誕生日

2016年8月22日