研究テーマ

David Cone, "Cinema", 1988, acrylic on canvas

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関係ありません。

   は、「しごと(書かれたもの)」の中で特に関係のある論文

(1)文学の理論

 ここで言う文学の理論とは、作品解釈の方法論としてのいわゆる「文学理論」ではなく、「文学的なもの」の本質について原理的視点から考えようとする試みを意味します。具体的には、(a)「文学的テクスト」を現実言及的テクストから区別するものは何か、そもそもそうした「区別」が存在するというのはどのような事態なのか、(b)文学的テクストを「書くこと」(ないし「語ること」)および「読むこと」(ないし「聞くこと」)とはどういう行為か、(c)なぜ、ヒトは「文学的なもの」のような存在者に関わるのか、などの相互に関係する一連の問いを問うことがここでの課題です。
 (a)については、特に虚構性や詩的効果について論じるために、言語哲学や言語学(意味論・語用論)、更に存在論の視点からの検討を試みています。 II5,7,8,9,11,14,19,  III-9,11
 (b)は、カフカ研究とも重要な接点を持つ論点ですが、従来の文学論が殆どの場合「書かれたもの=読まれたもの」としての言語、あるいはその意味内容から出発する議論であるのに対して、「書くこと」および「読むこと」という行為それ自体が持つ文学的経験としての固有性を見定めようとするものです。これは「文学的なもの」への問いの核心に位置します。 I5,  II4,12,13,15,  IV-10
 (c)は、人文学的には美学や芸術論のテーマですが、今日的にはむしろ、虚構・物語性・想像力・情動といった「文学的なもの」に関係する契機が、ヒトの心のはたらきの中でどういう役割を担っているのかを、認知科学や人間行動進化学などの議論も参照しながら考えてゆく必要があります。 「ミメーシス」という古来の概念を捉え直すことが、この文脈で重要となります。 II3,6,13,14,  IV-9

(2)隠喩とコミュニケーション――言語哲学研究

 隠喩や虚構は文学に限られる現象ではありませんが、詩的効果を論じる際に避けて通れないテーマです。これらは、言語によって何かを「意味する」ことと、何かを「伝える」こととが一致しない事例であり、その意味で、言語を使うということがどういう出来事なのかを考える格好の手がかりにもなります。デリダの隠喩論、デイヴィッドソンの言語哲学、スペルベルとウィルソンによる「関連性理論」など、コミュニケーションの本質を言い当てようとする諸理論を参照しながら、「文学的なもの」をも包摂しうる言語理論の可能性を考えています。 II7,8,10,11,14,19,  III2,3,4,5,6,7,9,10,11,12,  IV-2,7,8,12

(3)文学的経験の比較ジャンル論的考察

 (1)(2)の研究をふまえつつ、近年、「文学的なもの」とりわけ「虚構の物語」を受容するわれわれの経験とはどのようなものなのか(それをどのように論じればいいのか)を考察しています。その際、文学・コミック(マンガ)・アニメ・映画・劇など様々なジャンルを比較することで、表現メディアがもたらす差異を浮き彫りにしようと試みています。サブカルに顕著なように、物語表現は、新しいメディアを貪欲に吸収しながら変化・拡大してゆきますが、他方そこに通底する「文学的経験」の普遍的要素を摘出することで、「何でもあり」ではない作品評価の軸も見いだせるはずです。また研究上の関心としては、(1)-(b)に接続しつつ、「行為」としての物語享受の様態を明らかにすること(そのための分析装置を洗練させること)を目指しています。 II8,11,14,16,17,18,20

(4)カフカとハイデガー

 カフカとハイデガーへの関心から、私は「ドイツ語」に関わることをよぎなくされました。カフカは、「書くこと」という行為の痕跡を、最も純粋に「書かれたもの」の上に残すことができた作家のひとりです。そのために彼が残した「書かれたもの」を、文学以外の何らかの(政治的・歴史的・認識論的等々の)表象秩序にそくして解釈し尽くそうとしても、うまくゆかないのです。「真なる」理解という学知的発想が「文学的なもの」の経験とどのように齟齬するかを教えてくれる典型的な事例であると言えます。 I1,2,3,5,  IV1,5,12
 ハイデガーは、その思想のあらゆる面が肯定されうるような哲学者ではありません。しかし、現象学者としての彼が行った人間存在(現存在)の分析や、身体や感情と芸術の関係についての哲学的議論の中には、深くてセンスのいい洞察がちりばめられています。そこから「文学的なもの」の考察にとって有益な示唆をくみ取ることもできます。 III7,8,13,14,  IV-2