東北大学文学部創立八十周年記念式典(2002年10月26日)祝辞

文学部八十周年を祝して

東北大学総長  阿部 博之
阿部総長の写真

東北大学は、1907年(明治40年)の創立ですが、文系の学部である法文学部が 設立されたのは、1922年(大正11年)、創立後15年を経てであります。理学部、 医学部、工学部に継いで4番目の学部でありました。もっとも途中で北海道大学 として分離独立した農学部を数えれば、5番目の学部といえます。なお1919年 (大正8年)までは理科大学、医科大学のように学部という名称は用いられて おりませんでした。

いずれにしても、東京、京都に継いで、仙台の地に文系学部が誕生したので あり、帝国大学としては3番目でありました。第2次大戦以前の帝国大学は、 国立総合大学という意味でありましたが、文系学部を擁していた帝国大学は、東京、 京都、東北に九州大学を含めて4つだけであり、残りは理系の総合大学であり、 それらの理系総合大学は戦後になって文系学部が整備されたことを述べておきます。

それではどうして法文学部のように統合された名前の学部になった のでしょうか。東北大学の場合も、当初は法科大学(法学部)、文科大学(文学部) として構想が議論されていましたが、最終的に法文学部としての統合になりました。 財政難もあったかと思われますが、法学部の方にむしろ理由があり、法律しか 知らない法学士では困るという当時の貴族院の強い主張の結果であったようです。 なおこの議論は、今日の法科大学院の設計にまで及んでいるのではないでしょうか。

文学部が単独の学部として独立するのは、敗戦直後、学制改革で新制度に 移行する直前、旧制大学としての幕引き直前においてでありました。

さて東北大学の文科大学(文学部)の構想ですが、初代沢柳政太郎総長の 時代まで遡ります。1912年(明治45年)東北大学は、狩野文庫となるおびただしい 書籍を購入しました。そしてそのほとんどが文学に関わるものでした。明らかに 文学部設立の準備でありました。このことは、教授陣として日本中から優れた 文学者を招聘する際に、東北大学の大きい魅力になったと伝えられています。

東北大学法文学部文科の初代の教授陣はまさに錚々たるものでありました。 どのような方々が初代教授であったかを、改めて復習してみたいと思います。

文学科においては、山田孝雄教授(国語学)、岡崎義恵教授(国文学)、 土居光知教授(英文学)、小宮豊隆教授(ドイツ文学)、青木正児教授(中国文学) であります。

哲学科においては、小山鞆絵教授(西洋哲学)、石原謙教授(同上)、 高橋里美教授(同上)、錦田義富教授(倫理学)、千葉胤成教授(心理学)、 阿部次郎教授(美学)、鈴木宗忠教授(宗教学)、宇井伯寿教授(印度学)、 武内義雄教授(中国哲学)、新明正道教授(社会学)であります。

また史学科においては、中村善太郎教授(西洋史)、大類伸教授(同上)、 岡崎文夫教授(東洋史)、古田良一教授(国史)、村岡典嗣教授(日本思想史)、 福井利吉郎教授(東洋美術史)であります。

これらの中には、はじめ助教授として着任し、まもなく教授になられた方も 一部含まれています。

この他、開設時代の助教授としては、小林淳男、河野与一、大脇義一、 児島喜久雄、金倉円照、などの先生方が居られました。

以上を概観しただけでも、まさに日本の人文科学の代表的一大拠点であり、 当時の東北大学の「研究第一主義」の気迫がひしひしと感ぜられます。この中から またその教え子や後継者も含めて、後年多くの学士院賞、文化勲章受章者、 文化功労者等が生まれたことも特筆に値します。加えて3年前の1919年 (大正8年)に設立された工学部に比較して、法文学部文科の上記教授陣の 規模は、勝るとも劣るものではなかったということができます。

第2次大戦後の日本は、さらに画一化が進み、東京一極集中化が 加速されました。いわゆるキャッチアップ型国家においてはこの方が効率的で あったからです。またこの流れの人文科学への影響にも、極めて大きいものが ありました。

東北大学においては、初代の教授陣がまだ残っておられた昭和30年代を過ぎた頃から、またほぼ時期を同じくして各大学の特色も大幅に薄れてしまいました。

このことは人文科学に限ることではありません。人文科学を例にとれば、 その質が低下したためではないように思います。しいていえば、大衆化した知性に 比較して、高品質であり、専門性の高い知性への評価がより一般的でなくなって きたことによるように考えますが、如何でしょうか。

さてわが国はいま真に先進国の一員になることが求められております。 このことは、いわゆるキャッチアップ型国家からの脱皮でもあります。また 地球環境問題のように、20世紀において顕在化したさまざまな課題を人類は 21世紀に持ち越しました。このような新しい時代においては、大学の役割と責任が 明らかに増大します。画一的な大学ではもはや対応ができなくなるのは明白です。

これからの先進国の基本的要件の一つは、これからの人類・社会の指針となる 学問をどう創出していくかであり、とりわけ人文科学への期待は必至であります。 と同時に、高品質であり、専門性の高い知性が、大学や学界の外に浸透し、 少なくとも知識層の高い関心事にならなければなりません。

わが国が誇りとする東北大学文学部の80年の伝統と、学問の極めて高い ポテンシャルを思うとき、21世紀の人類・社会を先導する役割と、先輩である 東京大学文学部とも京都大学文学部とも異なるわかり易い特色を強く期待し、 改めて研究第一主義の学風を人文科学に育成した初代の教授陣ならびに連綿と 輝いてきた先人、後継者などの足跡に敬意を表し、80周年の祝辞とします。

平成14年10月26日
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2003-09-01T14:48:15+09:00
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