長谷川 公一

 はせがわ・こういち 選考委員長・東北大学文学部教授LinkIcon
 1954年山形県上山市生まれ。社会学者。最近は地球温暖化問題などの環境問題の発生・深刻化の社会的メカニズムや市民レベルでの対応策などを主に研究している。山形東高校に学び、東京大学文学部卒業、同大学大学院博士課程単位取得退学。東京大学文学部助手、東北大学教養部助教授などを経て、1997年から東北大学文学部教授。主著に『環境運動と新しい公共圏』(有斐閣、2003年)、『脱原子力社会へ』(岩波新書、2011年)など。阿部次郎文化賞受賞(2008年)。趣味は俳句LinkIcon

~高校時代の思い出~

 高校時代は、作家志望で文芸部に所属し、小説のストーリーを夢中で考えていました。スイカの名産地尾花沢から、片道約2時間近い列車通学でした。車窓の月山を望み、春の桜桃の花・林檎の花に始まって、収穫の秋、やがて雪景色。沿線の四季の移り変わりをぜいたくに楽しんだ高校時代でした。

~高校生へのメッセージ~

 石川啄木や宮沢賢治にとっての岩手山、太宰治にとっての岩木山のように、作家や詩人の心を育んだ名山があります。酒田市にある阿部次郎の生家(現在・阿部記念館)をたずねると、道路の北側正面に鳥海山が、南側背面には月山が見えます。つまり鳥海山と月山を結んだ線上に、次郎の生家はあるのです【リンク・北の旅人 阿部次郎】LinkIcon。幼少年期の次郎は、そして長じて帰省するごとに、彼は、生家から鳥海山を仰ぎ、振り返っては月山を見たことでしょう。「まさに海に入らうとする最上河とその周囲に発達せる平野は、鳥海山と月山の中央山脈の山塊を盟友として、幼い私の魂をその懐の中に育ててくれたのである」と次郎自身が記しているように(「最上河」)、阿部の人格主義や多くの弟子たちに慕われた高潔な精神は、最上川や庄内平野とともに、鳥海山や月山によって育まれたものです。
 大震災のあった2011年から5年目です。本年の課題作品の部の課題は、ライバルです。君にとってのライバルはどういう存在ですか。いいライバルを見つけ、お互いに競い合い、本当の友情を育む。ライバルを見つけることは高校生だけの特権ではありませんが、高校時代だからこそ可能な、高校生に特有のライバルとの出会いがあるのではないでしょうか。
 ライバルを見つけ、競い合うことそのものが人生の旅の妙味ともいえるでしょう。

 これまで以上に、みずみずしく意欲的な力作を期待しています。

小池 光
 こいけ ひかる 歌人・仙台文学館館長LinkIcon
第9回ゲスト選考委員これまでのゲスト選考委員LinkIcon

 1947年宮城県柴田町生まれ。仙台一高・東北大学理学部卒業および同大学院理学研究科修士課程修了。長く高校の物理教師を務めた。第一歌集『バルサの翼』で現代歌人協会賞受賞、『日々の思い出』、『滴滴集』(齋藤茂吉短歌文学賞受賞)、『時のめぐりに』(迢空賞)ほかの歌集がある。『うたの動物記』で日本エッセイスト・クラブ賞受賞。エッセー集にほかに『うたの人物記——短歌に詠まれた人びと』(角川書店)がある。読売新聞歌壇選者などを務める。仙台文学館で毎月小池光短歌講座LinkIconを開催している。

~高校時代の思い出~

 バンカラの気風残る、自由きわまわりない校風の男子校で、新聞部に所属して、毎日がお祭りのような雰囲気があり、それはそれは楽しかった。人生において大事なことの原型はみな高校時代に学んだようにおもう。

~高校生へのメッセージ~

 たくさん本を読んで、じぶんで文章も書き、「ことば」によって新しい世界が開けることを体験してほしい。背伸びして、分厚い世界文学の名作を読む。分かっても分からなくても読み通す。一生忘れない経験となるはず。

太田 巌

 おおた・いわお 河北新報社常務取締役論説・編集・デジタル担当
 1953年宮城県生まれ。仙台一高、東北大学文学部卒業。1976年河北新報社入社。気仙沼支局長、生活文化部長、報道部長、編集局長などを経て2015年4月から現職。再審無罪事件、漁業企画、ゼネコン汚職事件などの取材にかかわった。東日本大震災発生時は編集局長、その後も新聞編集に携わる。

~高校時代の思い出~

 3年の夏までサッカーに明け暮れていました。全国大会を目指しましたが、あと一歩及ばず、残りの日々は、どう生きるかを考え続けていたような気がします。

~高校生へのメッセージ~

 考え、書くことを通して、より確かな自分、自分らしさを、形にできると思います。それがバネとなり、より高みへと行くように。そんな作品を期待しています。

佐藤 弘夫

 さとう・ひろお 東北大学文学部長・阿部次郎記念館長
 1953年宮城県丸森町生まれ。専門は日本思想史で、鎌倉仏教、神仏習合、死生観などを研究テーマにしている。仙台一高から東北大学文学部に入り、大学院博士前期課程を修了。盛岡大学助教授などを経て、現在、東北大学大学院文学研究科教授。著書に、『偽書の精神史』(講談社選書メチエ、2002年)、『神国日本』(ちくま新書、2006年)、『死者のゆくえ』(岩田書院、2008年)、『鎌倉仏教』(ちくま学芸文庫、2014年)など。

~高校時代の思い出~

 中学時代は陸上競技をやっていましたが、高校では弓道部に所属。試合前になるとお弁当を二つ持って行って、夜の8時・9時まで練習し、その後部室でゲームをしたり駄弁ったりの素敵な毎日でした。勉強はしなかったけれど、本はたくさん読みましたね。

~高校生へのメッセージ~

 人には、一生のうちのその時にしか書けない文章があります。我が身を振り返っても、文の技巧は昔に比べて上手くなったと思いますが、若いときにもっていた感性や言葉のパワーはもはや手の届かないものになってしまいました。今回応募されるエッセーでは、私たちが生きるこの世界を、ぜひいまの皆さんにしかできない仕方で切り取ってみせてください。個性あふれる作品を期待しています。

野家 啓一

 のえ・けいいち 東北大学総長特命教授
 1949年宮城県仙台市生まれ。哲学者。専門は科学哲学・現代哲学。仙台一高から東北大学理学部入学。同大卒業後、東京大学大学院理学系研究科で科学史・科学基礎論を学び、同博士課程中退。南山大学講師、プリンストン大学客員研究員を経て、1981年東北大学文学部助教授、同教授となる(2013年3月末まで)。主著に『物語の哲学』(岩波現代文庫、2005年)、『パラダイムとは何か』(講談社学術文庫、2008年)、『科学哲学への招待』(ちくま学芸文庫、2015年)など。2005年10月より2014年9月まで日本学術会議会員、同哲学委員会委員長。趣味は登山・俳句。

~高校時代の思い出~

 高校時代は蛮カラな校風で知られる男子校で過ごし、通学は高下駄に腰手拭といった出で立ちでした。出版部(新聞部)に所属して校内新聞の編集に携わりましたが、一年上に小池光さん(歌人、仙台文学館長)、同期に岩渕徹さん(徳間書店会長)らがおられ、彼らと薄暗い部室で夜遅くまで議論を闘わせたことが、現在の自分の基盤になっている気がします。

~高校生へのメッセージ~

 皆さんは阿部次郎の『三太郎の日記』という本をご存じですか。おそらく読んだ方は少ないでしょうが、昔は高校生や大学生の必読書でした。少し難しいのですが、青田三太郎という人物を主人公に、青年期の苦悩や憂愁を率直に書き綴ったエッセー集です。もちろん、現代の高校生には現代なりのさまざまな悩みや愁い、それにもまして喜びや感激があることでしょう。ぜひ21世紀にふさわしいフレッシュな『三太郎の日記』を読みたいと思います。これまでに引き続き、本年も力作が寄せられることを期待しています。

岩田 美喜

 いわた・みき 東北大学文学部准教授
 1973年北海道札幌市生まれ。英文学者。宮城県第一女子高校に学び、東北大学文学部卒業。2001年東北大学大学院修了・博士(文学)取得の後、日本学術振興会特別研究員を経て、2003年より東北大学大学院で教鞭を執る。専門は英国・アイルランド演劇全般だが、最近は近代の英語演劇におけるアイルランド人表象の文化を主に研究している。主著は『ライオンとハムレット—W.B.イェイツ演劇作品の研究』(松柏社、2002年)、『ポストコロニアル批評の諸相』(共著、東北大学出版会、2008年)など。趣味は旅行と油絵を描くこと。

~高校時代の思い出~

 快晴だったというだけの理由で通学途中に一人でハイキングに行ったこと、授業中にこっそり読んでいた小説に泣き出したこと、運動部のかけ声を遠くに聞きながら、テレピン油の臭いが籠もった美術室で黙々と絵筆を走らせたことなど、高校時代の思い出は五感に訴えるものばかりです。

~高校生へのメッセージ~

 かつて、アイルランドの詩人W.B.イェイツは、パリで知り合った同国人のJ.M.シングに故国の離島での生活を薦めて、「これまで語られることのなかった生活を語りなさい」(express a life that has never found expression)と述べたそうです。皆さんも、自分の経験や思考としっかり向き合い、自分の中にある「これまで表現されてこなかったもの」を私たちに表現してください。そして、私たちを驚かせてください。なお、私のように堕落して、イェイツの言葉を借りたりしては、いけませんよ。

山田 仁史

 やまだ・ひとし 東北大学文学部准教授
 1972年宮城県仙台市生まれ。専門は宗教民族学・神話学。仙台二高卒。東北大学文学部で日本史を、京都大学大学院人間・環境学研究科で文化人類学を学び、ドイツ連邦共和国ミュンヘン大学にてドクター・デア・フィロゾフィー(Dr. phil.)取得。2005年から現職。著書に『首狩の宗教民族学』(筑摩書房、2015年)など。最近は趣味として(?)古アイルランド語を勉強している。

〜高校時代の思い出〜

 硬式テニス部に属していましたが下手くそで、詩(読んだり書いたり。これも下手でしたが)の世界に逃避していました。ことばの持つリズムやイメージを楽しみつつも、心の中は悩み多き日々でした。

〜高校生へのメッセージ〜

 背伸びをして天下国家を論じるのも悪くありませんが、足もとを見つめなおすことから、人の心を揺さぶる文章が生まれてくるようにも思います。高校生は人生経験が少ない分、鋭い動物的直観を失っていないとも言えるでしょう。私はそこに期待を抱いています。