4月月例会報告
・廬 奇香「幕末における福沢諭吉の西洋受容――『西洋事情』と「幕末外交文書訳稿」を中心に」
『学問のすすめ』『文明論之概略』とともに、福沢の文明論の3部作の一つとされる『西洋事情』は、幕末期に日本が到達すべき理想として
の西洋を紹介している。それと同時に啓蒙家としての福沢思想の原点とも言われている。当然、そこに描かれている西洋とは、理想的な目標としての西洋であ
る。ところが、幕府の翻訳方として外交文書に接することができた福沢にとって、理想と現実との西洋の姿にズレはなかったのか。そのような疑問をもって、
『西洋事情』と福沢が翻訳に携っていた「幕末外交文書翻稿」との比較研究を通して、彼が西洋をどう受け止めていたのかを考察してみたい。
・森川 多聞「戦後教育改革の土壌――田中耕太郎と南原繁を中心に」
太平洋戦争終了後、一九四八(昭和二三)年に施行された教育基本法を中心とした戦後教育改革は、現代教育の礎となっているといえる。本
発表では、戦後教育改革を主導した田中耕太郎と南原繁を考えたい。驚くほど経歴の重なる二人だが、それぞれの社会と個人に対する認識は、大きく異なったも
のである。社会と個人のどちらを重視するのか、その差異がいかなる論理によって構築されるのかをその宗教観から考察してゆく。二人の論理を見ることで現代
教育理念がいかなる思想的経緯を経たものなのか、その由来を知ることができるのではないだろうか。
日 時 :5月1日(土)午後1時より
場 所 :文学部 610演習室(6F)
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5月月例会報告
・有馬毅(東北大学大学院)「寛政期以降の林家―昌平黌との関わりに注目して」
初代林羅山が徳川幕府に登用されてより、幕府の教学政策に携わり続けた林家。だが十八世紀後半には、徂徠学等、他学の流行によって学問
界でのその地位は決して高いものではなくなっていた。そのような状況の中、松平定信により寛政異学の禁が行われ、朱子学が官学とされる。本発表では、林家
同様に朱子学派である柴野栗山ら、昌平黌教授陣との対立の様相から、異学の禁以降の林家が如何なる位置にあったのかを探っていきたい。
・鈴木三恵(東北大学大学院)「禁忌から正当化の過程についての一考察」
中世期、仏教と神道による罪悪観と触穢思想の浸透により、殺生肉食は罪悪視されるようになっていった。しかし、単純に中世=殺生肉食忌
避と位置づけることもまたできない。殺生肉食を罪と見なし、忌み嫌うする仏教・神道内においてさえ、それは許容の姿勢を少なからず見せていたからである。
中世における殺生肉食観を、今回は特に神仏習合論の展開を軸として考察していきたい、と考える。
日 時 :5月8日(土)午後1時より
場 所 :東北大学文学部 610演習室(6F)
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6月月例会報告
・渡辺毅郎(東北大学大学院)「天孫神話形成の背景」
日本において七世紀後半から八世紀にかけ、中国律令制を導入することにより中央集権的支配体制を目指し律令国家の建設が進められた。し
かし、中国律令制を導入し専制君主制を目指しながらも中国と日本では君主観に大きな違いが生じている。中国の天に支配を許された君主観に対し、日本では君
主たる天皇の地位は神代からの血統に基づくとし、それは神話の中に示されている皇祖神の神勅によるとするものである。今発表においては、『古事記』『日本
書紀』成立の背景を考察することにより、日本において天皇支配の正統性の根拠を皇祖神の血統に求めた理由を考えてみたい。
日 時 :6月12日(土)午後2時より
場 所 :東北大学文学部 610演習室(6F)
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7月月例会報告
・昆野伸幸(東北大学助手)「山路愛山の史論とその後」
山路愛山(元治元〜大正六〈一八六五〜一九一七〉)は、徳富蘇峰・竹越三叉と並び民友社史論を代表する史論家であり、また生涯「独立」
の立場から多くの評論を行ったジャーナリストである。彼の政治思想は、平民主義から国家社会主義、帝国主義へと変化していったが、かかる変化にも拘わら
ず、彼の史論自体はあたかも不変一貫しているかのように従来捉えられてきた。本報告では、ジャー
ナリストたる彼の鋭敏な感受性を重視し、彼の歴史認識・史論の形成を同時代の状況の中において考察し、論点の比重の変化を辿ることで、彼の問題意識の変化
を明らかにしたい。また彼の歴史認識・史論が後世いかなる影響力を有したかも視野に入れたい。
日 時 :6月10日(土)午後2時より
場 所 :東北大学文学部 610演習室(6F)
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11月月例会報告
・今高義也(宮城学院中学・高等学校)「内村鑑三と水戸学の詩歌―藤田東湖『正気歌』を中心に―」
内村鑑三(1861-1930)は、「『日本国のため』にある自我と『イエスのため』にある自我との間のするどい緊張」(丸山眞男)を
はらむ自己の信仰を、イエス(Jesus)と日本(Japan)という「二つの中心をもつ楕円」と表現したことで知られている(「二つのJ」)。しかしこ
の内村における「ナショナリズム」形成の具体的・実証的な分析は、研究史上いまだ十分になされているとはいいがたい。本発表では、これまでほとんど注目さ
れてこなかった内村における水戸学―とくに藤田東湖の「正気歌」をはじめとする詩歌―への言及・引用の検討を通して、そのキリスト教的「ナショナリズム」
の背景にあるものの分析を試みたい。
日 時 :11月13日(土)午後2時より
場 所 :東北大学文学部 610演習室(6F)
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12月月例会報告
・桐原健真(東北大学)「幽囚期吉田松陰の思想形成」
幕末志士の中でもとくにその発言の激しさによって知られる吉田松陰(1830〈天保1〉〜1859〈安政6〉)は、その一方で、米ペ
リー艦隊密航(1854年〈安政1〉)の罪による投獄以後の後半生を幽囚の裏に送った人物でもある。本発表は、この幽囚期松陰の尊攘主義における思想転回
を、彼の読書傾向や著作などを通して論ずることを目的とする。発表者はすでに幽囚期以前の遊学期における松陰の思想形成について論じており(*)、本発表
はこれに継ぐものである。
(*)拙稿「幕末維新期における自他認識の転回――吉田松陰を中心に」(日本思想史研究会『年報日本思想史』創刊号2002年)
日 時 :12月11日(土)午後2時より
場 所 :東北大学文学部 610演習室(6F)
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1月月例会報告
・楊 小江(東北大学大学院)「思想と文学の一接点――二つの古文辞学の比較を通じて」
荻生徂徠(1666〈寛文6〉〜1728〈享保13〉年)に大きな影響を与えた中国明代の王世貞・李攀竜らの古文辞学は、あくまで詩文
の方法として、一世を風靡した後、不評の対象になった。「王李後、明風屡変」といったように、徂徠はその文学の変遷を知らないわけではないが、あえて古文
辞学を経学に応用した結果、「海内喁然郷風」の局面が迎えた。難解の擬古漢文としての古文辞学はどうして当時の社会の中に大きく反響を起こせたのか。本発
表において、その背景にあるものを考察してみたい。
日 時 :1月8日(土)午後2時より
場 所 :東北大学文学部 610演習室(6F)
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2004年度修士論文発表会
日 時 :2月12日(土)午前11時より
場 所 :文学部 610演習室(6F)
発表者 題目
盧 奇香 幕末における福沢諭吉の西洋受容
森川多聞 田中耕太郎の思想−改宗を契機とする社会認識の展開−
鈴木三恵 諏訪信仰研究−諏訪をめぐる狩猟信仰の思想変遷−
有馬 毅 寛政期以降の林家−林述斎の教学政策を中心に−
渡辺毅郎 律令国家における天皇正統化の論理
2004年度卒業論文発表会
日 時
:2月13日(日)午前10時より
場 所
:文学部 610演習室(6F)
発表者 題目
井上明久 深沢七郎の思想
斎藤 超 柳田國男における祖霊信仰観の変遷
琢磨修一 『難波鉦』の色道論
菅野嘉信 オイゲン・ヘリゲルにおける日本の弓文化の受容
崎山隆則 漱石の個人主義
佐藤まどか 山路愛山の思想
田鎖寛子 「生類憐みの令」の研究
橋本祥子 元田永孚の教育思想
宮坂一生 貝原益軒の思想
山本知里 院政期の死後救済の思想−浄土教と地蔵信仰の関わりを中心に−
吉田 航 付喪神絵巻にみる非情成仏義の思想
永井千里 田辺元の思想−「種の論理」の検討−
佐藤勇介 平賀源内の思想 |
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