2007年度日本思想史研究会月例会報告要旨(予告)



                   

開催日 報告者     題 目
4月7日 三浦 秀一 「皆川淇園『名疇』の「牧民」論とその射程」
4月28日 森 新之介 「九条兼実の神仏意識と「院」との関係について」
5月12日 芹澤 寛隆 「渋川春海の思想―垂加神道との関わりを中心に―」
高橋 恭寛 「藤樹学研究―『翁問答』まで―」
6月16日 小泉 礼子 「平安仏教思想研究―源信における念仏思想の諸相─」
手嶋 健博 「羽黒山の「近世」―大物忌神の再生を中心に─」
7月14日 林 正基 「大塩中斎における「太虚」について」
11月10日 大川 真 「頼山陽における政治なるもの」
12月8日 川井 博義 「種的思考とその限界―仏教隆盛の前提―」
1月12日 オリオン・クラウタウ 「諸宗同徳会盟の思想 −<近代と仏教>前史−」
2月9日・10日 修士・卒業論文発表会 リンク参照





4月特別例会報告
◎三浦 秀一「皆川淇園『名疇』の「牧民」論とその射程」

 十八世紀後半における京都の儒者皆川淇園は、その著書『名疇』に「凡性之論、非為勧学之 設、而為欲牧民者之設也」と記す。この発言は、徂徠が人間本性に関する議論を「無用の弁」だと断じたことへの批判を含むものであるが、では淇園は、性論を必須とする理論としての「牧民」論を如何に構築していたのか。本報告は、『名疇』に分析を加えつつかれの「牧民」論を再構成し、あわせて論を支える思想的基盤について考察するものである。

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4月例会報告
◎森 新之介「九条兼実の神仏意識と「院」との関係について」

 九条兼実(1149-1207)の生涯について語るとき、後白河院と、異母姉にして息良通の義母でもある皇嘉門院藤原聖子を欠かすことはできない。前者は当時の「治天の君」、後者は兼実の強力な庇護者であり、兼実の行動は神事仏事を含めてこの両者によって左右されることが少なくなかった。本報告では、兼実の事例を通して、法皇や女院といった存在は院政期貴族の神仏意識にどのような影響を及ぼしたのか、またその神仏意識は法皇や女院との関係にどのようにして反映されたのかを検討したい。

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5月例会報告
◎芹澤 寛隆「渋川春海の思想―垂加神道との関わりを中心に―」

 山崎闇斎の門弟であり、土御門神道を確立したとされる渋川春海(1639〜1715)は、同時に幕府の初代天文方であり、日本の近世天文学の祖と称される人物である。春海は貞享改暦によって、日本独自の暦を確立した。本報告では、これまで様々な学問分野で描かれてきた「渋川春海像」を整理することで、改暦という政治的な事業の成立までに、春海が学んできた学問や交流がどのような関わりを持っていたのかを明らかにしたい。

◎高橋 恭寛「藤樹学研究―『翁問答』まで―」

 日本陽明学の祖とも呼ばれている中江藤樹(1608〜1648)についての研究は、朱子学や陽明学とも異なる彼独自の「藤樹学」という視点からなされるのが主流である。彼の教説が朱子学や陽明学とどの様に異なって成立しているのか、を考察するよりも、一地方の「田舎教師」であったはずの藤樹がいかなる教説を唱えることで、多くの同志を惹きつけたのか、そして死後に「学派」をも形成しうる学説へと成長したのかを検討したい。

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6月例会報告
◎小泉 礼子「平安仏教思想研究―源信における念仏思想の諸相─」

 平安時代―とくに摂関体制形成期である10世紀後半―は、源信(942〜1017)の活躍等を契機に浄土信仰が貴族社会に浸透した、日本の仏教信仰史上注目すべき時期であるが、当時の個々の人物における思想的影響関係に関しては、いまだ考察すべき点が多く残されている。本報告では源信の『往生要集』執筆時の史料をもとに源信個人の念仏思想を抽出し、さらに同時期の浄土信仰者達における念仏思想とそれとの比較から、両者の間の差異を検討する。それにより源信念仏の特性と、それが摂関体制形成期の貴族社会へ及ぼした影響についての、再考を試みたいと考えている。

◎手嶋 健博「羽黒山の「近世」―大物忌神の再生を中心に─」

 中世の羽黒山縁起では、羽黒山の神を「伯禽州姫」と規定する。この神は記紀にはじまる正史には見出すことのできない羽黒山独自の神であった。一方、近世の縁起では、この「伯禽州姫」と『日本三代実録』などにおいて辺境鎮座の神として描かれる「大物忌神」とを同一視するなど、自らの神体系のなかに古代の神々を取り込もうとするのである。本発表では、なぜこのような神体系の再編成が近世の羽黒山において行われたのか、また、古代の神々のなかでも特に「大物忌神」が重視されたのはなぜか、という点を考察してみたい。

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7月例会報告 ―日韓共同シンポジウムプレ発表会―
◎林 正基「大塩中斎における「太虚」について」

 本発表では、大塩中斎(1793〜1837年)の「帰太虚」の思想における「帰」の概念に注目して、中斎における「太虚」と「帰太虚」の思想的内実を明らかにしたいと考える。中斎の主張の背後には老仏批判があり、老仏的対立を超えて儒教的統一を目指す中斎の考え方は、そのまま「帰太虚」という考え方に直結している。この考え方は、対立を超える意味の「帰」と、統一的状態を表す「虚」の発見によるものである。この新しい発見によって「帰太虚」思想は中斎の思想の中核となった。こうした点につき、中国思想との対比等を念頭に置きつつ検討したい。

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11月例会報告
◎大川 真「頼山陽における政治なるもの」

 厳格な父との確執。江戸遊学期での放蕩生活。突然の出奔と幽閉。女弟子への恋…。頼山陽という人物は文学的ロマンをかき立てるエピソードに事欠かないが、彼を思想家として正当に立ち位置を与えようとするのは容易な作業ではない。本発表で注目するのは、以下のような彼の思考である。「足利氏の能く天下を得る所以は、その多くは土壌を割き、諸将に与へて吝まざるに由る。而して天下を治むる能はざる所以も、亦たこれに由る。」(『日本政記』)

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12月例会報告
◎川井 博義「種的思考とその限界―仏教隆盛の前提―」

 なぜ仏教が隆盛したのか。本発表は、現存する最古の和歌集である『萬葉集』から見いだせる「存在」に対する思念を明らかにし、仏教隆盛に至る思想的展開の必然性を示すことを目的とする。『萬葉集』の中には、「種的思考」と言うべき思念を看取可能な歌がある。そこでまず、「種的思考」の内実を明証し、次にその思考の限界が「類的」論理への展開を導引することを示すことで、仏教隆盛の前提とその論理的な必然性を解き明かす。

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1月例会報告
◎オリオン クラウタウ「諸宗同徳会盟の思想 −<近代と仏教>前史−」

 1868年、近世的な形での〈宗門〉に、強い嵐が吹く。およそ250年間の政治的・経済的安定を経験した〈宗門〉は、神仏分離政策、またそれに伴った廃仏毀釈により、その土台が揺るがされる。明治初期の不確かな宗教政策により提示された危機を乗り越えるため、そして新たな形での国家の枠に自らの居場所を確保するため、〈宗門〉は新たな形での回答も必要であると感じる。本発表において、その回答のひとつである、諸宗同徳会盟という〈近代〉日本における最初の〈仏教〉同盟に焦点を当てて、その歴史的意義を考えたい。

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2月例会報告
◎2007年度修士論文・卒業論文発表会

2月9日(土) 修士論文発表会…各1時間(発表40分、質疑20分)

10:00- 11:00    小泉礼子    平安仏教思想史研究―『往生要集』における源信の往生思想と慶滋保胤の往生思想について―
11:10- 12:10    谷村ふみ子   中世における草木成仏思想の展開
13:00- 14:00    芹澤寛隆    渋川春海の思想―貞享改暦動機を中心に―
14:10- 15:10    手嶋健博    「出羽三山」の宗教世界
15:20- 16:20    森新之介    九条兼実の思想


2月10日(日) 卒業論文発表会…各30分(発表20分、質疑10分)

11:00- 11:30    小嶋 翔    犬養毅の政治思想―「立憲」主義の検討―
11:30- 12:00    谷村 翔太   平田篤胤におけるムスビの思想
13:00- 13:30    井上 夏水   世阿弥の思想
13:30- 14:00    女屋 朝美   森有礼の教育思想
14:00- 14:30    小山 恵美   巌谷小波の子ども観
14:45- 15:15    佐藤久美子   澁澤龍彦の思想
15:15- 15:45    水林 翔    新井白石の政治と思想


 日 時 :2月9日(土)10時より・10日(日)11時より
 場 所 :文学部大講義室


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