木村邦博 1996年度の授業のシラバス(抜粋)

    (注)東北大学では、セメスターに次のような番号をつけている。
                                 4-9月  10-3月
                      1年次      1        2
                      2年次      3        4
                      3年次      5        6
                      4年次      7        8

転換教育科目B「行動科学の基礎技術」 
(1年生向け;第1セメスター 木曜日 10:30-12:00)

 この「プレゼミ」の目的は、聴講学生諸君に行動科学に関する「知識」を伝える
ことではなく、行動科学の思考方法を身につけさせることである。特に、「モデル」
という道具を用いた思考方法をマスターしてもらうことを願っている。
 聴講学生の積極的な関与を期待する。事前に準備をしてこない人、出席しても黙
っているだけの人には、聴講しないでいただきたい。
【教科書】
  小林淳一・木村邦博(編著). 1991. 『考える社会学』 ミネルヴァ書房.
  レイブ&マーチ. 1975. 『社会科学のためのモデル入門』 ハーベスト社 1991.

行動科学基礎演習T
(2年生向け;第3セメスター 火曜日 16:20-17:50)

 統計的手法は、行動科学の重要な方法のひとつである。しかしながら、統計的手
法が誤った使われ方をすることも多い。それにはどのような場合があるか、英文テ
キストを読みながら考える。あわせて、新聞・雑誌の記事などから日本における例
を探す。
 このような作業を経験することによって身につけてほしいと期待しているのは、
次のような能力である。
  (1)「情報」を的確に理解・評価する能力
  (2)データを的確に分析し、その分析結果を的確に表現する能力
【教科書】
   Zeisel, Hans. 1985. Say it with Figures, 6th ed. New York:
     Harper & Row.
【参考書】
   Mauro, John. 1992. Statistical Deception at Work. Hillsdale, New
     Jersey: Lawrence Earlbaum Associates.
   Huff, Darrell. 1973[1954]. How to Lie with Statistics.
     Harmondsworth: Penguin Books.『統計でウソをつく法』 高木秀玄訳
     講談社(ブルーバックス) 1968.

行動科学実習AT
(3年生向け;第5セメスター 水曜日 14:40-17:50 )

 社会調査をを行った後の作業(データの作成から分析まで)を自力でできるよう
になってもらうことを目的にする。ここで身につけた力を、卒業論文の作成や卒業
後の仕事で発揮してもらえれば幸いである。
 計量分析の手法のうちでも、最も利用頻度の高い主要な多変量解析法の基本につ
いて、実際にデータ分析に適用しながら学ぶ。データ分析は、情報処理教育センタ
ーの端末から計量分析用のプログラムパッケージSPSSを用いて行う。(行動科
学実習AU、行動科学特殊講義AT・AUの履修を前提としている。)
 具体的な内容は、次の通り。
(1) 端末利用法:SPSSの使い方
 ボーンシュテット&ノーキ 1988 『社会統計学』(ハーベスト社 1990) の付録G・
Hにある、「24ヶ国データ」と「63都市データ」をサンプル・データとして利用し、
SPSSによるデータ分析を情報処理教育センターで行う。ファイルの作成と保存、
データの読み込み、欠損値処理、データ変容、基本統計(単純集計とクロス集計)
ができるようにする。
(2)多変量解析全般についての解説
 以下のことについて解説を聞く。
   多変量解析法をなぜ用いるのか
   多変量解析法にはどのような手法があるか(それぞれの目的は何か)
   それらの手法をどのように使い分けたらよいか
   どのように勉強したらよいか                 など
(3)多変量解析の基本的手法の説明とサンプル・データによる実習
 比較的利用頻度の高い手法の中から、分散分析・回帰分析・主成分分析を取り上
げる。解説を聞いた上で、「24カ国データ」と「63都市データ」をサンプル・デー
タとして、これらの手法を実際に適用してみる。その中で、これらの手法に対する
理解を深める。
(4)データ分析実習
 研究室で実施した調査のデータに対して、分散分析・回帰分析・主成分分析を適
用し、分析結果に考察を加える。(複数の調査の中から、各自が関心を持ったもの
を選んで用いる。)

行動科学各論C「社会階層とジェンダー」
(3・4年生向け;第6・8セメスター 金曜日 10:30-12:00)

 近年、社会階層による不平等とジェンダーによる不平等との関連をめぐって、実
証的な研究が行われている。そこで取り上げられているテーマは、ジェンダーによ
る労働市場の分断、学歴の持つ意味の性差、職場内の権限に関する性差別、性別役
割分業意識、などである。この講義では、これらのテーマに関する研究動向を紹介
する。あわせて、これらのテーマに取り組むにあたって必要とされる社会学的・経
済学的・社会心理学的な考え方や、この分野で用いられている分析手法について解
説する。
【主要参考文献】
   荒井一博. 1995. 『教育の経済学−大学進学行動の分析−』 有斐閣.
   Brinton, Mary C. 1993. Women and the Economic Miracle: Gender
     and Work in Post-war Japan.  Berkeley, California: University
     of California Press.
   原 純輔・肥和野佳子. 1990. 「性別役割意識と主婦の地位評価」 岡本英
     雄・直井道子編 『現代日本の階層構造 4 女性と社会階層』 東京大
     学出版会 1990 165-186頁.
   稲葉昭英. 1995. 「有配偶女性の心理的ディストレス」 『総合都市研究』
     56:93-111.
   木村邦博. 1996. 「女性にとっての学歴の意味−教育・職業と性別役割意識−」
     鈴木昭逸・海野道郎・片瀬一男編 『教育と社会に対する高校生の意識−
     第3次調査報告書−』 東北大学教育文化研究会 1996 121-138 頁.
   中井美樹. 1991. 「社会階層と親の価値期待」『現代社会学研究』4:34-57.
   直井道子. 1990. 「階層意識−女性の地位借用モデルは有効か−」 岡本英
     雄・直井道子編 『現代日本の階層構造 4 女性と社会階層』 東京大
     学出版会 1990 147-164頁.
   Oakley, Ann. 1974. The Sociology of Housework. London: Martin
     Robertson. 『家事の社会学』 佐藤和枝・渡辺潤訳 松籟社 1980.
   盛山和夫. 1994. 「階層研究における『女性問題』」 『理論と方法』
     9(2):111-126.
   牛島千尋. 1995. 『ジェンダーと社会階級』 恒星社厚生閣.
   脇坂 明. 1990. 『会社型女性−昇進のネックとライフコース−』 同文舘.

計量行動科学研究演習U「不平等の測定と理論」
(大学院博士前期課程向け 第2学期 金曜日 14:40-16:10)

 社会的不平等の問題は、社会科学・行動科学の基本問題のひとつである。この演
習では、不平等の測定をめぐる方法論的な問題について考察するとともに、不平等
の生成過程に関する行動科学的・社会科学的研究を検討する。参加者には、次の3
つのことを期待したい。
(1)不平等度を表現するために開発された様々な指数がどのような考え方にもと
づくものであるかを理解し、その指数の持つ問題点を明らかにする。(2)不平等
がどのように生成され再生産されるのかに関して、社会学・経済学・社会心理学の
視点からアプローチした研究をとりあげ、何が明らかになり何が解明されないまま
なのかを把握する。(3)以上の作業をふまえ、方法論的革新や理論的展開をもた
らすような、オリジナルな成果をあげる。
【教科書など】
   Cowell, Frank. A. 1995. Measuring Inequality, 2nd ed. London:
     Prentice-Hall/Harvester Westsheaf.
   Ainger, Dennis J. 1977. "Statistical Theories of Discrimination
     in Labor Markets." Industrial and Labor Relations Review.
     175-187.
   Granovetter, Mark. 1981. "Toward a Sociological Theory of Income
     Differences." Pp.11-47 in Sociological Perspective on Labor
     Markets,  edited by Ivar Berg. New York: Academic Press.
   Kelly, Jonathan, and D. R. Evans. 1993. "The Legitimation of
     Inequality: Occupational Earning in Nine Nations." American
     Journal of Sociology.  99(1):75-125.
   Tolbert, Charles, Patrick M. Horan, and E. M. Beck. 1980. "The
     Structure of Economic Segmentation: A Dual Economy Approach."
      American Journal of Sociology. 85(5):1095-1116.
【参考書】
   Coulter, Philip. B. 1989. Measuring Inequality: A Methodological
     Handbook.  Boulder: Westview Press.
   Sen, Amartya. 1973. On Economic Inequality. London: Clarendon
     Press. 『不平等の経済理論』 杉山武彦訳 岩波書店 1977.
   高山憲之. 1980. 『不平等の経済分析』 東洋経済新報社.
   Thurow, Lester C. 1975. Generating Inequality: Mechanisms of
     Distribution in the U.S. Economy.  New York: Basic Books.
     『不平等を生み出すもの』 小池和男・脇坂明訳 同文舘 1984.

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