第一句集『緑雨』(りょくう)から
        (1997ー2005)
 自選30句 全365句LinkIconあとがきLinkIcon

    長谷川 冬虹(とうこう)


花さんしゆゆ父のかたちの骨拾ふ


春日射しレクイエムめく原生林

  みづえ先生より句集『忘』頂く
枇杷食みて「終身の喪」とつぶやけり


うからみな蔵王青嶺の子どもたり

  温暖化防止京都会議
会議場出でて比叡の雪催


豆打てば遠き闇より父の声


万愚節翌朝からの大雪来


月山の乳房のごとく春田かな


チェルノブイリ忌の朝細やかに春の雨

  ナイアガラ
光芒に霧たちのぼる大瀑布

ミネソタの客人来たり漱石忌


冬萌ゆる青き生命の宿り初む


終りても根の美しきヒヤシンス


緑雨して山刀伐(なたぎり)峠山毛欅峠


浦上の爆心地(ばくしん)今宵大白雨









秋天の野の木街の樹一樹たれ


ファウストを繰る千年の年の内

  東海村臨界事故住民調査
調査票の憤怒の文字繰る冬落暉


新涼の積み木に残る歯形かな


  温暖化防止国際会議
霙ふるハーグの街の国連旗


はじめての稲妻吾子よしかと見よ


  JCO事故三周年集会で講演す
怒る眼も肯へる眼も曼珠沙華


東京の初雪淡雪漱石忌


さみだるる「雲泣いている」と子の見上ぐ  


蕪汁行平鍋を形見とす

ミネソタの旅人として初時雨


年明けの朝の空港ジャズ流る


漱石の郵便ポストよ花菫

星形の街星形に春の霜


花便り帰国告げたき父在(いま)さず

2015年5月2日