「教育と社会に対する高校生の意識」第2次調査


第2次調査 調査の概要
正式名称 教育と社会に対する高校生の意識−第2次調査
実施 1988年11月
対象 地域比較・学年比較・地域比較のために有意抽出した、白石市・古川市・気仙沼市にある10の高校と2つの高専の2年生とその両親(宮城高専については第1次調査の回答者を含む全学年)
実施方法 高校生は自記式集合調査、両親は自記式配票調査
回答者数 高校生 1355名(回収率95.0%)、父親 676名(回収率66.1%)、 母親 883名(回収率86.3%)
目的 第1次調査の結果を仙台圏以外の他都市と比較し、その異同を明らかにする。また、学年進行に伴う変化、地域社会の構造などを検討する。
報告書 海野道郎・片瀬一男(編). 1990.『教育と社会に対する高校生の意識調査−第2次調査報告書』東北大学文学部教育文化研究会.


報告書(残部なし)

海野道郎・片瀬一男(編). 1990.『教育と社会に対する高校生の意識調査−第2次調査報告書』東北大学文学部教育文化研究会.

第2次調査 報告書の目次
まえがき 海野道郎
謝辞
【本報告書の概要】
序章:調査の企画と実施 海野道郎・片瀬一男
1章:価値意識の世代間伝達−家族における社会化効果の規定因 片瀬一男・梅崎篤史
2章:社会的ジレンマにおける行動様式 長谷川計二
3章:高校生における職業志向と「生活価値」 土場 学・小松 洋
4章:職業アスピレーションの形成−専門職志向を中心に 片瀬一男
5章:高校生の社会意識における不公平感の位置 木村邦博
6章:階層意識としての不公平感 木村邦博
7章:高専生の集団倫理の形成過程 鈴木昭逸
8章:高校生の意識の地域比較 小松 洋・土場 学
資料:宮城高専生のパネル・データ基礎集計 片瀬一男
座談会「教育と社会に対する高校生の意識」をめぐって(2) 吉田秀三(司会)・中島諦・宮崎久・佐々木太・松山和夫・鈴木敏雄
あとがき 片瀬一男
【付録】 1.調査依頼状・調査票
2.第一次報告書(速報)
3.単純集計表


第2次調査 報告書の要旨

序章.調査の企画と実施

 社会的ジレンマを解決する条件・進路選択行動・価値意識や社会意識−以上3つを、親子の意識の対応関係や社会化、価値意識の形成に焦点をあわせつつ分析することを目的とした。本研究は、第1次調査(仙台圏、1987年初頭)の展開として企画されたが、主な着眼点は、地域比較・学年進行に伴う変化(宮城高専)・地域社会の構造(気仙沼地区)である。そのため調査対象者は、白石地区と古川地区の普通科進学校(男女各1校)、宮城高専、仙台電波高専、気仙沼地区の全高校、以上総計12校の2年生とその父母とした。宮城高専については2年生以外の学生も対象とした。調査時期は1988年11月から12月であり、全体的回収率は、高校生が95.0%、父親が66.1%、母親が86.3%であった。

1章.価値意識の世代間伝達−家族における社会化効果の規定因

 まず価値意識の世代間・男女間の比較によって、次の知見を得た。(1) 自己実現と同調志向が、世代・性別を問わず現代人の価値志向の基調をなしている。(2)世代を問わず、男性は高い地位・収入などに代表される階層上昇志向が強いのに対して、女性では周囲への同調志向が強い。(3) 父親は趣味よりも仕事を重視する。(4)高校生においては、私生活志向を持つ一方で、地位や収入を重視するなど階層志向性も併せ持つ。男子高校生・女子高校生・父親・母親の4群ごとに因子分析を行ない、4群に共通する因子として、@階層志向性(高い地位につく、高い収入を得る)、A充足志向性(打ち込めるものを、趣味を楽しむ)、以上2因子を得た。親から子へと価値意識が伝達される社会化のメカニズムについて分析した結果、次の知見を得た。(1)道具的役割に関した価値志向(今回の分析では階層志向性)については、子供の性別を問わず父親からの影響が強い。これに対して、父親の道具的役割に関連しない価値志向(今回の分析では充足志向性)については、子供は同性の親をモデルとして価値観の形成をおこなっていると考えられる。(2)長子ほど親の影響を強く受けるが、これは調子が親代りになって下の子を世話するためと考えられる。(3)夫婦の価値の一致度が高い方が、むしろ子どもへの影響が弱くなる、という従来の知見とは異なる結論を得た。

2章.社会的ジレンマにおける行動様式

 社会的ジレンマも一つとして「行楽地でのゴミのポイ捨て」問題を取り上げ、社会的ジレンマ状況での行動をもたらす要因について、親の社会的地位に注目して検討した。高校生(男、女)・父親・母親のすべてにおいて、他者がゴミを持ち帰ると認知するほど、また、ゴミを持ち帰ることが面倒でないと思うほど、ゴミを持ち帰る傾向がある。他者認知と面倒さを説明変数とした時に了解可能な行動を「合理的」とし、行動と認知の組合せから3つのパターンを構成した。T(合理的かつ持ち帰る)、U(非合理的かつ持ち帰る)、V(合理的かつその場に捨てる)である。高校生とその両親の行動パターンの間には関連が見られた。高校生の行動パターンは、親の学歴や職業によって変動し、さらに、学歴や職業によって親自身の社会化価値(子供の教育にあたり重視したこと。礼儀、正直、判断、協調、責任、配慮など)が異なることが見いだされた。たとえば、パターンTの高校生は、ゴミ捨て場面では「自然破壊につながるか」、「美観を損なうか」「他人の迷惑になるか」といった側面を重視し、ゴミ問題への対処法としては「家庭や学校などで公衆道徳に反することを教える」のがよいとしている。彼らの父親には大学卒の専門・管理的職業の者が多く、この種の父親は「配慮」を重視する傾向があり、また、「能力や長所を生かす」、「世の中の役に立つ」ことを自分の子に期待していることが見いだされた。

3章.高校生における職業志向と「生活価値」

 職業に対する高校生の志向を、その形成過程と社会化メカニズムとの関連に着目しつつ分析し、次の知見を得た。高校生の職業志向(就きたい職業)と親の職業期待(就いてほしい職業)は非常に似ている。いずれもノンマニュアル特に専門職への志向や期待が高い。しかし、男子は管理、労務、農業などを志向し、女子は事務や販売を志向する傾向がある。息子に対して親が期待する職業は、男子高校生が志向する職業と似ている。同様に、娘に対して親が期待する職業は、女子が志向する職業と似ている。父親および母親の学歴が高いほど専門や管理などへの高校生の志向が高くなる。また、父親の職業カテゴリーのいかんを問わずノンマニュアル職(特に専門職)への志向や期待が強い。それと同時に、父親が自分と同じ職業に就いて欲しいという傾向(同職期待)や高校生が父親と同じ職業に就きたいという傾向(同職志向)が見られる。この傾向が特に強いのは農業だが、父の同職期待が高校生の同職志向を大きく上回っている。これに対して専門職の場合には、父の同職期待は特に大きいわけではないが、高校生の同職志向は一番強い。高校生が最も重視している生活価値は、全般的にみて「打ち込めるものをもつ」ことだが、親が高学歴の高校生は「打ち込めるものをもつ」ことや「趣味を楽しむ」ことを重視し「人並に暮らす」ことを軽視する傾向がある。同じく威信の高い職業でも、管理職と専門職とはそれを支える生活価値が異なることが見いだされた。

4章.職業アスピレーションの形成−専門職志向を中心に−

 高校生における専門職へのアスピレーションを、それの規定要因としての能力の自己評価に注目して分析し、次の知見を得た。(1)専門的職業は今日の高校生にとって最も魅力のある職業であるり、特に志望者の多いのは技術者(理科系)と教員(文科系)である。しかし、実現可能性については、困難と考えるものが少なくない。(2)アスピレーションの強さには、学業成績だけではなく自己の能力評価が一定の影響力を持っており、また、能力評価のあり方も学業成績と共に、集団参加経験によって規定される。学業成績はものごとを達成する能力の自己評価に影響し、集団参加経験は対人的能力の評価に影響する。(3)能力評価が専門職アスピレーションに及ぼす影響は、学科・進路・性別によって異なっている。たとえば普通科の文科系男子では、学業成績よりも対人的能力のあることが専門職への志向を強める。これに対して普通科の理科系男子や高専男子においては、学業成績の規定力がきわめて大きく、逆に能力評価では非認知的能力(体力や根気など)のみが関連している。こうした規定因の違いは、念頭においている専門職の違いを反映しているものと思われる。能力評価が専門職アスピレーションに影響力を持つ傾向は、男女とも大学の文科系学部を経て専門職に就こうとする生徒に最も顕著に見いだされる。

5章.高校生の社会意識における不公平感の位置

 不公平感と満足感に関するこれまでの研究をすすめ、社会に対する感情・評価・志向の間の関係を考察し、次の知見を得た。(1)高校生にとって「不公平」は、今の日本を表わす言葉として選択されやすいばかりでなく、社会に対する否定的イメージを強く反映した言葉である。(2)「不公平」が位置づけられる社会イメージの構造は、高校生の場合、第1次調査と第2次調査では性別によって異なっている。この違いは、第1次調査では見られなかったものである。(3)不公平感と社会不満、生活不満、変革志向性との間の因果連鎖は、実質的には次の3つのいずれかである可能性が高いと考えられる。@生活不満→社会不満→非変革志向→不公平感という因果連鎖が付け加わっている。A生活不満→社会不満→不公平感という連鎖に、非変革志向→社会不満、および非変革志向→不公平感という連鎖が絡んでいる。B不公平感→社会不満→生活不満という因果関係に、不公平感→非変革志向という連鎖が加わっている。

6章.階層意識としての不公平感−世代・性別によるその形成過程の差異−

 (全般的)不公平感の形成過程を、領域別不公平感・出世条件の認知・両親の地位に着目して分析した。まず、親と高校生の不公平感を比較すると、親(特に父親)の方が日本社会を公平だと思っている。また、親世代では女よりも男の方が公平だと思っているのに対して、高校生では逆に女の方が公平だと思っている。領域別不公平感をみると、次の傾向が次の傾向が見いだされた。@高校生・両親とも、学歴による不公平の指摘率が1位である。A人種・民族による不公平、貧富による不公平、家柄による不公平は、親世代よりも高校生の方が指摘率が高い。B高校生でも親世代でも、性別による不公平は女の方が指摘率が高い。C高校生でも親世代でも、思想・信条による不公平は男の方が指摘率が若干高い。D父親では、年齢による不公平の指摘率が若干低い。さらに、不公平感の形成過程に関しては、次のような知見が得られた。@全般的不公平感のうち領域別不公平感によって説明できる部分はそれほど大きくない。A全般的不公平感に対する領域別不公平感の寄与の仕方は、性別や世代(あるいは年齢)により異なっており、父親の場合には地位達成という産業社会の基本構造の枠内で社会を評価しているのに対して、母親や高校生はそうでない。B全般的にみると、高校生においても親世代においても、地位変数と全般的不公平感の関連はあまり大きくない。C学歴が出世の条件だと思う高校生は日本社会を相対的に公平だと感じているのに対して、父親は逆に不公平だと感じている。母親の不公平感は、出世条件の認知との関連がない。この傾向は、地位達成過程の主経路と調査対象者との位置関係によって説明できよう。

7章.高専生の集団倫理の形成過程

 第1次調査で見いだされた高専生の特徴がいかにして形成されるかを、宮城高専生の1〜5年生を対象に多数の価値意識や社会意識を分析・総合し、次のような各学年の傾向性をまとめた。

8章.高校生の意識の地域比較

 仙台、白石、古川、気仙沼の4地区から県立普通科進学校(男女各1校)を選び、第1次調査・第2次調査に共通の項目について、意識や態度を比較・検討した。その結果、意識に関わる多くの項目で評定の程度に若干の地域差が見られた。また、領域別不公平感の一部の項目(学歴、貧富、家柄)や進路希望では、顕著な地域差が見られた。しかし、その地域差のパターンは質問項目によって異なっている。この事実から、各地域の伝統や文化と質問に対する回答との間には、さまざまな異なるメカニズムが潜んでいるもの推察できる。

資料.宮城高専学生のパネル・データ基礎集計結果

 第1次調査の2年生の意識が2年後の第2次調査でどのように変化したかを、生活意識と自己像の変化、および社会観について示した。

座談会.「教育と文化に対する高校生の意識」をめぐって(その2)

 1章から8章までの論文の原案を素材に、高校教育の実情に詳しい校長経験者や調査地区における教職経験を持つ現職教員が率直に意見を交換した。論文に記されたことが具体的観察によって肉づけされ、解釈が与えられた。この結果、調査データの分析だけでは捉えきれない高校生の姿が浮き彫りにされた。 (文責:海野道郎)


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