「教育と社会に対する高校生の意識」第3次調査


第3次調査 調査の概要
正式名称 教育と社会に対する高校生の意識−第3次調査
実施 1994年11月から1995年2月
対象 層化三段抽出法により抽出した、仙台圏(多賀城市、名取市を含む)にある16の高校・高専の2年生とその両親
実施方法 高校生は自記式集合調査、両親は自記式配票調査
回答者数 高校生 1542名(回収率90.1%)、父親 1203名(回収率70.3%)、母親 1351名(回収率79.0%)
目的 第1次調査から8年の間に高校生や両親の意識にどのような変化があったのかを明らかにする。また、最近の高校生に特有の諸傾向(女子の大学進学率の上昇など)の背景を検討する(性役割やメディア行動などについて)。
報告書 鈴木昭逸・海野道郎・片瀬一男(編). 1996.『教育と社会に対する高校生の意識−第3次調査報告書』東北大学教育文化研究会.
その他 第3次調査の調査方法に関する詳細、泉区調査について
・泉区調査
第3次調査では、1994年2月から3月にかけて仙台市泉区の3校の協力をえて、「泉区調査」もおこなった。当初は泉区調査の調査票に小修正を加えて仙台圏での調査を実施し、分析は併せておこなうことを企画していた。しかし泉区調査後の検討により調査票の改訂が大幅になったため、データを合併して分析することは不可能となった。


第3次調査の調査方法

・調査対象者の抽出(層化三段抽出法)の方法

 母集団は、仙台圏のすべての高校および高専の生徒とその両親である。
 はじめに仙台圏のすべての高校・高専を公立・私立、共学・別学、普通高校・職業高校の基準から分類し、できるだけ全体の縮図を構成するよう、依頼する高校を選んだ。次に、各高校等の協力者と協議の上、調査対象となるクラスを選択した。第1次、第2次調査と同様に2年生を対象とし、各校2クラス(科が分かれている場合にはそれに応じて追加)を選んだ。また、普通科以外は、科の性質を考慮し、その学校を代表するようなクラスとした。
 以上の結果、第3次調査の対象校は、以下の16校となった。

公立別学普通科 仙台第二高校、宮城第二女子高校
公立共学普通科 仙台向山高校、名取高校、宮城広瀬高校、多賀城高校、黒川高校(普通科)
公立別学職業科 仙台商業高校、仙台女子商業高校
公立共学職業科 宮城県工業高校、黒川高校(電子機械科)
私立別学普通科 東北学院高校、東北工業大学高校(普通科)、仙台白百合学園校、三島学園女子高校
私立共学普通科 仙台育英学園高校
私立別学職業科 東北工業大学高校(電子科)
高専 宮城工業高等専門学校

・調査の実施方法

 高校生については、ホームルームなどの時間を利用して、担当の先生方から調査票を配布していただき、その場で生徒に記入してもらった。父親・母親については、生徒を通じて、調査の依頼状と調査票(父親用、母親用の2種類)を配布し、家庭に持ち帰って記入してもらった。記入済みの調査票は、生徒をつうじて後日回収した。
 なお、同一の対象番号をつけたひと組の調査票(高校生票、父親票、母親票)を高校生に渡すことによって、親子の対応を確保した。この際、匿名性は確保されている。

・調査結果の公表

 すべての回答者に調査結果の概要(速報)を配布した。また、宮城県内のすべての高校・高専と幾つかの公立図書館に、報告書を寄贈した。


報告書(残部なし)

鈴木昭逸・海野道郎・片瀬一男(編). 1996.『教育と社会に対する高校生の意識−第3次調査報告書』東北大学教育文化研究会.

第3次調査 報告書の目次
まえがき 海野道郎
謝辞
【本報告書の概要】
序章:調査の企画と実施 海野道郎・片瀬一男・阿部晃士
1章:社会意識の変容 − 1986年度〜1994年度 片瀬一男
2章:高校生と両親の出世観−社会のしくみに関する認知・理念・不公平感 阿部晃士
3章:階層構造に関する認知のメカニズム 村瀬洋一
4章:ごみの持ち帰りに見る公共的行動の形成 − 社会的ジレンマと公衆道徳 海野道郎・長谷川計二
5章:教育的自己指令性と学習意識・知的柔軟性 木谷 忍
6章:職業アスピレーションの変化 − 「専門職」志向を中心に 新谷康浩
7章:女性にとっての学歴の意味 − 教育・職業と性別役割意識 木村邦博
8章:性別役割意識の一貫性と非一貫性 似内 寛
9章:高校生とその両親の家族観 − 家族関係に対する評価を中心に 猪股歳之
10章:高校生のメディア接触と友人関係の特質について 潮村公弘
懇談会「教育と社会に対する高校生の意識」をめぐって(3)
エッセイ:第3次調査報告書の刊行に寄せて
第3次調査に寄せて 吉田秀三
祝辞と謝辞 石川謙三
所感 西田春彦
研究者と教育者の「視点」 鈴木昭逸
本調査と教育現場 −「視点」の取り方− 尾上直也
あとがき 片瀬一男
【付録】 1.統計用語についての補足[木谷 忍]
2.仙台圏調査 資料
 調査依頼状、調査票(高校生票、父親票、 母親票)、第1次報告書(速報)
3.泉区調査 資料
 調査依頼状、調査票(高校生票、父親票、 母親票)、第1次報告書(速報)
4.単純集計表
 仙台圏調査 単純集計表 泉区調査 単純集計表


第3次調査 報告書の要旨

序章:調査の企画と実施

 第3次調査の目的は、第一に、時系列比較である。第1次調査の実施から8年の年月が経っている。高校生や父母の意識や行動にどのような変化が生じたのだろうか。そこで、第1次調査と同じく仙台圏で調査を実施し、この間の変化を明らかにしたいと考えた。第二に、最近の高校生に特有の諸傾向(高校中退の増加、女子の大学進学率の上昇など)の背景にはどのような要因があるのか、ということを検討の対象とした。性役割やメディア行動などについての考察が、これには含まれている。
 仙台圏での調査に先立ち、第1次、第2次調査では対象となっていなかった泉区の3校の2年生とその父母を対象に、1994年2月から3月にかけて「泉区調査」をおこなった。回収率は高校生が91.3%、父親が65.7%、母親が72.1%であった。この結果の検討を踏まえて調査票を改訂したのち、1994年11月から1995年2月にかけて「仙台圏調査」を実施した。調査対象は仙台圏の16の高校・高専の2年生と父母であり、回収率は高校生が90.1%、父親が70.3%、母親が79.0%である。

1章:社会意識の変容

 この章では、第1次調査(1986年度)と第3次調査(1994年度)の結果を比較することで、高校生の社会意識の変化をみるとともに、親子の意識の違いをさぐった。
 まず、高校生の社会意識においては、それぞれの意識項目ごとに特徴的な変化がみられた。すなわち、公平感については、性別を問わず、今の社会を「公平」と評価する高校生が増えている(なお、この傾向は父親にもみられる)。また、自分の生活についても「満足」と答える者が増えている。しかし、その半面、社会に対しては「不満」という高校生が、性別にかかわりなく増加する傾向がみられた。
 また、親子の意識を比較してみると、親子の間には公平感や満足感をめぐって、かなりの差異のあることがわかった。高校生では、公平感や生活満足感が増大したとはいえ、まだ父母に比べると低い水準にある。これに対して、親(とりわけ父親)は、社会に対して肯定的な評価をしている。また、親子の意識の関連を調べると、おおむね正の相関がみられた。すなわち、親が社会を肯定的に(公平/満足)と評価するほど、子どもも肯定的な評価をすることがわかった。

2章:高校生と両親の出世観

 「出世はどのような基準で決まっているか」(配分原理の認知)、また「どのような基準で決まるべきか」(配分原理の理念)に関する質問を用い、こうした、社会のしくみについての意識にみられる社会的地位による差異を記述するとともに、その背後にあるメカニズムを探った。
 分析の結果、親世代(特に父親)の配分原理の認知には、ある程度、回答者が置かれている実際の状況が反映しており、自己の良いイメージを保つような認知バイアスが存在するものと解釈できた。一方、配分原理の理念は、必ずしも、自己の利益を反映しているとはいえなかった。高校生については、配分原理の認知や理念に学校種別ごとの差異もある程度みられるのだが、親子間の相関関係には明確なパターンはみられず、高校生の認知や理念が形成されるメカニズムの分析は今後の課題となった。このほか、学歴が有利と認知する親は、子に、より高学歴を期待する傾向にあり、配分原理の認知が人々の他の意識や行動にも影響する可能性のあることが確認された。また、不公平感との関連をみると、「努力が出世に有利にはたらいていない」との認知が、相対的に、規定力が大きかった。

3章:階層構造に関する認知のメカニズム

 社会の階層構造を、人々は、主観的にはどのように認知しているのだろうか。例えば、社会の貧富の差は今後は拡大するととらえているだろうか。また、社会のとらえ方は、所属階層によって異なり、高階層の人ほど現在の社会を肯定的・楽観的にとらえる、等の傾向はあるのだろうか。
 本論では、格差の趨勢の認知、階層構造の開放性の認知、生活の安定性の認知という、3つの階層構造に関する認知について分析を行った。分析の結果、高階層、高学歴ほど、階層構造を楽観的に認知していることが分かった。また、重回帰分析の結果を見ると、「社会の貧富の差は拡大」では、社会への不公平感や社会満足感など、社会の評価に関する変数の規定力が大きかった。「親の地位は必要」は、母親以外では政治的有効性感覚の規定力が大きく、母親は権威主義意識と階層帰属意識に強く規定されていた。「努力なく豊か」は、親世代では学歴、高校生は社会満足感の規定力が大きい。社会への不公平感や有効性感覚は規定力が大きく、生活満足感の規定力は小さいという結果を見る限りは、問題認識仮説(低階層→社会の中で問題を感じた経験が多い→社会を悲観的に認知)がもっとも適合的と言える。

4章:ごみの持ち帰りに見る公共的行動の形成

 行楽地からのごみの持ち帰り行動を通して、公共的行動形成のメカニズムについて探索的分析をおこない、次の知見を得た。高校生男子よりも高校生女子の方が、親の行動の影響を大きく受ける。また、男女ともに、異性の親よりも同性の親から影響を受ける。ごみの持ち帰り行動に影響を及ぼす要因としては、持ち帰りコスト(面倒度)がもっとも大きい。また、意思決定の際に、自然破壊や美観喪失、他者への迷惑などの「内的規制」要因を考えることは、持ち帰り行動を促進するが、その力はコスト意識よりもやや弱い。他者の行動を気にしたり、他者からの非難を懸念したり、他者がやってくれるのではないか、など「外的規制」を考えることは、持ち帰り行動を阻害するが、その力はかなり小さい。社会意識の影響は複雑である。また、行楽地のごみ対策としては、「家庭でしつける」「法律や条例で罰する」などが高い比率で支持された。「家庭でしつける」は子世代よりも親世代に、男よりは女に支持されるのに対して、「法律や条例で罰する」は親世代よりも子世代に、女よりは男に支持される傾向がある。また、持ち帰り行動をとる人は「家庭でしつける」「学校で教える」などを好み、捨てる行動をとる人は「税金で掃除する」「看板で良心に訴える」「入場料を取り清掃する」などを挙げる傾向がある。

5章:教育的自己指令性と学習意識・知的柔軟性

 本研究では、生徒の日常の行動、教育環境の認知、複雑な課題に対する活動などから生徒の知的柔軟性に影響を及ぼすとされる教育的自己指令性(ESD)の因子を抽出し、それらと生徒の学習意識との関係、および知的柔軟性との関係を調べることによって現在の高校教育での教育環境改善のための一つの指針を与えることを目的としている。得られた知見として、ESDと学習意識について「監視性は強制的学習意識と関係が深く、複雑性は自発的学習意識と関係が深い」こと、ESDと知的柔軟性について「問題の所在を把握するような能力が試行錯誤的な活動を伴う複雑性から影響を受け、うまく定義された問題を解くという学業達成は監視性のある状況での複雑性に影響する」という微妙な違いがある可能性が示唆された。
 結論として、現代の高校生が問題意識をもって自発的にそれらに取り組むことによって、豊かな社会を構築できるような知的柔軟性を身につけるためには、監視性を押さえ、複雑性を高めるような教育環境が必要となろう。

6章:職業アスピレーションの変化

 高校生の職業アスピレーションの2時点間の変化に着目して分析し、以下の結果を得た。高校生の職業希望の中で変化が大きかったのは「専門職」と「事務職」であった。この両者は男女によって変化のパターンに差異があった。「事務職」は男女ともに希望する割合が減少しているが、「専門職」は男子で希望が減少する一方で女子で希望が増加している。男子の「専門職」希望の減少傾向は、短大、専門学校希望者というあまり「専門職」につくものがいない進路を希望する者に顕著にみられた。また女子の「専門職」希望の増加傾向は、卒業後の進路にかかわらずみられた。また「事務職」の減少傾向は、男子では進学校で顕著に見られたのに対し、女子では全ての学校タイプでその傾向が見られた。また「専門職」希望の変化を詳細にみると、女子が「専門職」希望を高めたのはこれまで男子がおもに希望していた職業を希望するようになった結果であり、男子がそれを低下させたのは技術者希望の減少の結果であることが明らかになった。

7章:女性にとっての学歴の意味

 女性にとって学歴がどのような意味をもっているのかについて、主に高校生女子の教育アスピレーションと性別役割意識との関連、高校生の母親の学歴・就業形態と性別役割意識との関連をみながら考察する。教育経済学的な理論では、教育を職業的地位達成のための手段とみなしている。しかし、このような理論によっては、高学歴層において専業主婦になる者が多いという日本の女性の傾向を説明できない。そこで考えられるのが、「結婚市場」において優位な立場に立つことを目指して女性が高学歴を志向するという仮説や、子育てに必要な教養を身につけることを期待して親が女の子を大学・短大に進学させようとしているという仮説である。教育経済学的な仮説でも、女性にとっての学歴の意味が結婚市場での優位性や子育てに必要な教養の獲得にあるとする仮説でも、調査結果の分析によって得られた知見を統一的に説明することができないことを示す。

8章:性別役割意識の一貫性と非一貫性

 性別役割に対する意識は一人の人間の中でも一貫しないケースがある。本稿ではこの一貫性について五つの異なる性別役割への態度から、高校生とその両親の傾向を記述する。五つの性別役割に対する高校生の意識の一貫性と母親の就業形態、本人の性別経験の関連を見ると、女子にのみ関連が見られた。また性別役割意識に一貫性の見られないグループにおける、五つの性別役割意識の間の関係を、因子分析により分析した。その結果、高校生では、就業キャリア志望や仕事と関連する因子、伝統的な男女の育て方に関する因子、日常的な性別役割に関する因子の三つが抽出され、父親では日常的役割分担に関する因子、伝統的な男女の育て方に関する因子、男は仕事で女は家庭という伝統的性役割に関する因子が抽出され、母親では日常的役割分担に関する因子、男は仕事、女は家庭という伝統的性別役割観と関係した因子、そして子育てに関する因子が抽出された。高校生の性別役割意識の三つの因子と「就業キャリア志望」との関連は、男女とも第1因子のみで大きな関連が見られた。「家事手伝い」との関連では、女子の第2因子のみで若干の関連が見られた。

9章:高校生とその両親の家族観

 本章では、高校生とその両親の家族関係についての満足度が、家庭内の様子に対する評価とどのような関連を持っているのか、さらには、その家庭内の様子に対する評価が、高校生の実際の行動とどのような関連を持っているのかを探った。
 その結果、家族関係の満足度と家庭内の様子に対する評価との関連については、「親子で互いに話をする機会が多い」と「いつもみんなで助け合おうとする」に対する評価が、家族関係の満足度と強い正の相関関係を有していた。この傾向は、高校生男子、高校生女子、父親、母親のすべての層でみられ、世代や性別に関わりなく、「親子間の会話が多い」ことや「家族みんなで助け合おうとする」ことなどが、満足度の高い家族関係を維持していくうえで重要なものとなっているように思われる。
 また、高校生の家庭内の様子に対する評価と、悩みごとを父母に相談するかという実際の行動との関連については、家族関係の満足度と同様に、「親子間の会話が多い」ことや「家族みんなで助け合おうとする」ということに対する肯定的な評価が、悩みごとを父母に相談するという行動と関連している傾向がみられた。

10章:高校生のメディア接触と友人関係の特質について

 本章の目的は、高校生のメディア接触量と友人関係の特質との関連について検討することであった。242名の被調査者(男子156名、同じく女子86名)は、電話、テレビ、テレビゲームの平均利用時間と、友人関係の特質(相談相手、友人の範囲、仲の良い友人との話題、友人づきあいの性質)を測定する項目について回答した。一般的な社会通念としては、これらのメディアを利用することに対してネガティブな意味づけがなされることが多い。しかし、実証的研究の知見では、メディア接触と友人関係の特質との関係性について、一貫性のある結果が報告されてきたとは言えない。むしろポジティブな友人関係との関連を示す研究も多く、問題を整合的にとらえることが必要となっている。本章では、友人関係の特質を特定の少数次元で測定することを避け、多岐にわたる諸側面を取り上げた。分析の結果、電話利用は、ポジティブな対人行動やネットワークとの関連を示した。また、テレビ視聴については、外界への受動的な接触傾向との弱い関連性が見いだされ、テレビゲーム利用は、消極的な対人行動傾向との結びつきが示された(ただし、本報告での分析は、特別に長時間に及ぶメディアへの接触傾向をもつ高校生の特質について検討を加えたものではない)。なお、本研究結果の考察において、友人関係にかかわる諸側面との関連性を探求する方法の有効性が提起された。
(本章は、泉区調査のデータを分析した、対人行動学研究会機関誌『対人行動学研究』掲載論文の転載である。転載にあたっては対人行動学研究会の許可を得た。)

懇談会:「教育と社会に対する高校生の意識」をめぐって(3)

 本報告書に収められた論文の草稿を素材に、調査の実施にあたってお世話になった先生方や、この研究にご関心をお持ちの先生方にお集まりいただいたき、草稿に関するご感想や、最近の高校生や親の実態、今後の研究課題などについてお話をうかがった。

エッセイ:第3次調査報告書の刊行に寄せて

 本調査と関わりの深かい先生方に、第3次調査報告書の刊行にあたって、エッセイをお寄せいただいた。


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