「教育と社会に対する高校生の意識」第4次調査


第4次調査 調査の概要
正式名称 教育と社会に対する高校生の意識−第4次調査
実施 1999年11月から2000年1月
対象 層化三段抽出法により抽出した、仙台圏(利府町を含む)にある11の高校の2年生とその両親
実施方法 高校生は自記式集合調査、両親は自記式配票調査
回答者数 高校生 1259名(回収率89.4%)、父親 933名(回収率66.2%)、母親 1097名(回収率77.9%)
目的 第1次調査から第3次調査までの結果との比較を通し、高校生や両親の意識にどのような変化があったのかを明らかにする。また、現代の高校生の実態に即応した新たなテーマとして、学習意識・規範意識などを取り上げる。
報告書 片瀬一男(編). 2001. 『教育と社会に対する高校生の意識−第4次調査報告書』東北大学教育文化研究会.


第4次調査の調査方法

・調査対象者の抽出(層化三段抽出法)の方法

 母集団は、仙台圏のすべての高校の生徒とその両親である。
 はじめに仙台圏のすべての高校を公立・私立、共学・別学、普通高校・専門高校、新学科設置の有無などの基準から分類し、できるだけ全体の縮図を構成するよう、依頼する高校を選んだ。(当初は12校を予定していたが、1校はご都合により協力していただくことができなかった。)次に、各高校等の協力者と協議の上、調査対象となるクラスを選択した。第3次調査までと同様に2年生を対象とし、各校3クラスまたは4クラス選んだ。(原則として3クラス選ぶが、学科が分かれている高校は、その学校でのが学科構成に配慮しながら4クラスを抽出した。)
 調査対象校となったのは、次の11校である。

公立別学普通科 仙台第二高校、宮城第二女子高校
公立共学普通科 泉松陵高校、仙台向山高校、仙台高校
公立共学新学科 宮城野高校、利府高校
公立別学職業科 仙台女子商業高校
公立共学職業科 宮城県工業高校、
私立 東北高校、東北工業大学高校

・調査の実施方法

 高校生については、ホームルームなどの時間を利用して、担当の先生方から調査票を配布していただき、その場で生徒に記入してもらった。父親・母親については、生徒を通じて、調査の依頼状と調査票(父親用、母親用の2種類)を配布し、家庭に持ち帰って記入してもらった。記入済みの調査票は、生徒をつうじて後日回収した。
 なお、同一の対象番号をつけたひと組の調査票(高校生票、父親票、母親票)を高校生に渡すことによって、親子の対応を確保した。この際、匿名性は確保されている。

・調査結果の公表

 すべての回答者に調査結果の概要(速報)を配布した。また、宮城県内のすべての高校・高専と幾つかの公立図書館に、報告書を寄贈した。


報告書(残部僅少)

片瀬一男(編). 2001.『教育と社会に対する高校生の意識−第4次調査報告書』東北大学教育文化研究会.

第4次調査 報告書の目次
まえがき 片瀬一男
謝辞
【本報告書の概要】
序章:調査の企画と実施 片瀬一男・木村邦博
1章:高校生の進路志望−教育アスピレーションと職業アスピレーション− 木村邦博・元治恵子
2章:高校生の学習意識と教育アスピレーション 猪股歳之
3章:文化資本と教育達成 片瀬一男
4章:学校外教育投資がもたらすもの−学校外教育投資と教育達成、学習意識との関連について− 神林博史
5章:教育達成、コミュニケーションとパーソナリティ特性 村山詩帆
6章:メディア利用と親友・友人関係との関連性:長時間利用者の特性にも踏み込んだメディア利用悪影響論の再検討 潮村公弘
7章:高校生にとっての「学校」と「学校の外」−主観的重要性から見る高校生の生活と意識の一側面− 神林博史
8章:高校生の規範意識と親子関係 土場学・橋本摂子
9章:不公平感の時系列比較と親子間比較 海野道郎
10章:努力観・能力観と社会イメージの形成−社会のしくみをどう認知するか− 阿部晃士
11章:性別役割規範と価値意識 橋本摂子・土場学
12章:権威主義的態度の規定メカニズム−上下けじめ態度と伝統重視態度の違いについて− 村瀬洋一
13章:自由記述欄にみる社会観・教育観 眞田裕子
懇談会「教育と社会に対する高校生の意識」をめぐって(4)
あとがき 木村邦博
【付録】 1.第4次調査 資料
 調査依頼状、調査票(高校生票、父親票、母親票)、第1次報告書(速報)
2.単純集計表


第4次調査 報告書の要旨

序章:調査の企画と実施

 「教育と社会に対する高校生の意識」第4次調査は、これまでの調査をふまえて、第1次・第3次調査と同様、仙台圏の高校2年生とその保護者を対象として実施した。過去3回の調査の成果との比較を中心に分析を深めるとともに、現代の高校生の実態に即応した新しい研究テーマをいくつか設定し、分析することを目的に加えた。
 第4次調査で新たに取り上げたテーマは、主に次の2つである。まず第1は、近年の高校教育改革が生徒にどのように受け止められているか、またこのような改革によって生徒の学習意識・態度にどのような影響がもたらされているか、ということである。第2は、近年における社会の急激な変化、とりわけ若者をとりまく環境の急激な変化のなかで、従来と異なる高校生の意識が現われているならば、それを把握することである。特に、友人関係や規範意識の変化の兆しを捉えることを重視した。
1999年11月から2000年1月にかけて、11校の2年生と父母を対象として調査を実施した。回収率は、高校生が89.4%、父親が66.2%、母親が77.9%である。

1章:高校生の進路希望−教育アスピレーションと職業アスピレーション

 この章では、高等教育のますますの「大衆化」や短期大学の4年制大学への転換、長引く不況といった社会の動きの中で、高校生の進学志望(教育アスピレーション)や将来就きたいと希望する仕事(職業アスピレーション)がどのように変化したのかを、第3次調査(1994年度)との比較により明らかにする。さらに、高校生の教育アスピレーション・職業アスピレーションに対して両親の階層的地位や意識などがどのような影響を与えているのかを分析する。分析の結果、卒業後の進路に関して女子に「短大離れ」ともいえる傾向が見られたことは、短期大学側の4年制大学への転換の動きに呼応したものであると言える。また、学校教育を終えた後に「専門的な職業」に就くことを希望する生徒も多いものの、就きたい職業が「ない」と答えた生徒も多い。この背景には、大学・短大・専門学校等への進学率の高さや、高失業率、フリーターの増加などの社会経済的状況があると解釈できる。他方、高等教育進学希望率が依然として増加する傾向にある中で、両親の階層的地位が(通っている学校のタイプなどを媒介にして)高校生の教育アスピレーションや職業アスピレーションに強い影響を与えているという構図はほとんど変わっていない。近年の「教育改革」をめぐる議論やその実践の意義について、あるいは現代社会において高校が持つ意味について考える場合にも、階層間格差の存在を前提にした上での検討が必要だと言える。

2章:高校生の学習意識と教育アスピレーション

 この章では、高校生の学習意識の構造について考察した上で、学習意識が高校生の属性や努力の有効性に対する認知とどのような関係を有しているのか、また、学習意識のあり方によって、高校生の教育アスピレーションにいかなる違いがみられるのか検討している。
 学習意識の構造については、積極的学習動機、柔軟的学習方法、他者指向的学習動機、の3つの要素が見いだされた。なかでも積極的な学習動機については、普通科進学校で積極的学習動機を持つ者が相対的に多く、準進学校で少ないこと、将来の地位や目標の達成に努力が有効であると考えている者で積極的な学習動機を持つ者が多くなる、といった傾向が見られた。
 学習意識の3つの要素のうち、他者指向的学習動機に関してはそれほどはっきりとした傾向を示してはいなかったが、積極的学習動機と柔軟的学習方法については、それらに肯定的な回答をした生徒で大学進学希望率が高まる傾向が見られ、教育アスピレーションの形成に学習意識が一定の役割を果たしていることが示唆された。
 また、特に大学進学希望者は、高校の類型に関わらず、学習意識の3つの要素いずれについてもおおむね半数以上が肯定的に回答しており、高校類型間の差異も小さくなっていた。これは、高校の類型によってアスピレーションが強く方向付けられているとしても、学習意識の持ち方による影響を無視することはできないということを示唆するものであるとも考えられるが、それぞれの高校類型で多数派となる進路を選ぶ者の比率はかなり高く、その影響の及ぶ範囲についてはさらに慎重に検討する必要があろう。

3章:文化資本と教育達成

 本章では、文化的再生産の理論にもとづき、文化資本(芸術文化資本および読書文化資本)に階層差がみられるのか、またそれが家族内においてどのように伝達されるのかについて検討を行うとともに、伝達された文化資本が高校生の教育達成にどのような影響を与えているのか分析を行った。
 その結果、親世代においては、学歴が高いほど、また職業上の地位が高いほど、芸術文化資本も読書文化資本も多く保有する傾向がみられた。また文化資本の世代間伝達については、芸術文化資本が父母いずれからも女子(娘)に伝達されやすいのに対して、読書文化資本は子どもの性別に関わりなく、父親よりも母親から子ども(高校生)に伝達される傾向が明らかにされた。また、親の社会的地位を要因に追加して分析したところ、親の地位は、親自身の文化資本を媒介に子どもの文化資本に影響を及ぼしていることがわかった。そして、芸術文化資本・読書文化資本いずれの場合も、父親よりも母親の文化資本が子どもの文化資本を規定する度合いが大きいと言える。さらに子どもの教育達成(在籍する高校ランクや教育アスピレーション)の規定因を検討したところ、男子では本人の文化資本よりも父親の社会的地位の影響が大きかったのに対して、女子では、本人の文化資本の影響が最も大きかった。また、女子の場合、母親の文化資本が子どもの文化資本を規定する度合いも大きいので、母親の文化資本が子どもの文化資本を経由して、間接的に女子の教育達成に影響する傾向がみられた。

4章:学校外教育投資がもたらすもの−学校外教育投資と教育達成、学習意識との関連について−

 ここで言う「学校外教育投資」とは、学習塾、通信添削、家庭教師など、学校における正規の教育以外の教育活動に対して行われる家計からの投資を指す。本章では、(1)学校外教育投資がもたらすと推測される教育達成の不平等と社会階層の関係についての問題、(2)学校外教育の特性−「与えられた」学習環境や、正答であるか否かが優先されやすい環境−が、子供の自発的な学習意欲や論理的な思考能力を奪うのではないかという問題、の2点について検討する。
 社会階層に関わる問題については、以下のような知見が得られた。(1)調査時点までに学校外教育を受けたことのある生徒は約9割にのぼり、ほとんどの生徒が学校外教育を受けた経験がある。(2)学校外教育投資の量およびパターンには、顕著な階層差(父親属性による差)は見られない。(2')学校外教育投資を行うか否かは、主に母親の学歴および母親の子供への教育期待の影響を受ける。(3)学校外教育投資は教育達成にある程度の影響力を持つが、出身階層の影響力に比べると小さい。
 学習意識との関連については、学校外教育投資をより多く受けた生徒ほど、自発的な学習意欲が低く、解答プロセスを重視しない学習傾向があることが明らかになった。ただし、このような傾向は進学校の生徒にのみ見られる傾向であり、関連もそれほど強いものではない。逆にそれ以外の高校においては、積極的な学習意欲を持つ生徒ほど学校外教育を受ける傾向があることも明らかになった。

5章:教育達成、コミュニケーションとパーソナリティ特性

 ここでは、対人行動と密接な関連があると思われる質問項目から、「外向性」、「他人指向」パーソナリティ特性を抽出し、それら2つのパーソナリティ特性と、@家庭内、学校内の教育環境、A家族、教師、友人とのコミュニケーション環境との間にいかなる関連がみられるかを検討する。
 分析の結果、以下の知見が導き出される。[1]教育環境要因とパーソナリティ特性との間にほとんど関連はみられず、向-教育達成型の環境要因が高校生のパーソナリティ形成に負の影響をおよぼしているとは言えない。[2]家族との親密性の高さは「外向性」にむすびつき、子どもの主体性を重視しない(と高校生が考えている)環境は「他人指向」にむすびつく。[3]重要な他者(親しい友人・仲間集団)をもつ高校生は「外向性」が強く、重要な他者をもたない高校生の場合、「他人指向」が強化される。[4]ただし、「他人指向」の強い高校生についても、半数以上が満足感を形成しており、ある程度環境への適応に成功している。むしろ、環境への適応に最も失敗しがちなのは、「外向性」の弱い高校生である。

6章:メディア利用と親友・友人関係との関連性:長時間利用者の特性にも踏み込んだメディア利用悪影響論の再検討

 メディア利用の悪影響論は必ずしも実証データによって支持されてきたものではない。
 電話、TV、テレビゲームの3つのメディアを中心として、各メディアの利用時間利用頻度と、親友との関係および友人関係上の特性との関連性について検討した。そのさい、長時間にわたって利用する者に特有の関連性があるかどうかについても検討した。
 その結果、「電話」利用が長いことは、親友と呼べる存在が多く、親友との関係性が深いことと結びついていた。また、友人関係一般の特性においても、「電話」利用が長いほど、「友人への積極的なかかわり」を有し、「友人関係への希求」が高く、「表層的フレンドシップ」ではないことが示された。さらに、長時間利用者については否定的な関連性が示されるか否かについて検討したところ、そのような関連性は示されなかった。すなわち「電話」利用については、親友・友人関係に関する限りでは、肯定的な関連性を否定することは困難であることが示された。一方、「TV」と「テレビゲーム」利用する時間が長いことは、親友・友人関係上の否定的な特性と結びついていることが見出された。
 今後の課題として、1)メディア利用の質的側面についての検討、2)親友・友人関係以外の社会意識・社会属性変数との関連性、中でも学業成績、学校種別・学校文化、家庭環境等との関連性の検討が提起された。

7章:高校生にとっての「学校」と「学校の外」−主観的重要性から見る高校生の生活と意識の一側面−

 高校生が日常生活を送る世界は、大まかに言えば、家庭・学校・それ以外の場の3つに分類することができる。本章では、このうち「学校」とそれ以外の場(以下「学校外」と呼ぶ)について、高校生がそれらに対してどのようにコミットし、どのような意味付けを行っているかを中心に検討する。
 分析の結果、以下のようなことが明らかになった。(1)今回の調査対象となった高校生のほとんどは、何らかの形で自分の生活の中に「重要なもの」を見出している。(2)高校生が日常生活の中で重要視する領域については、「学校内および家庭」志向と「学校外」志向に大別できる。(3)学校に通うことに何らかの意義を見出している高校生は、学校内および家庭志向が強い。逆に、学校に意義を見出していない高校生は、学校外志向が強い傾向がある。(4)高校生の学校外の社会経験(アルバイト、ボランティア等)の量が多いほど、学校外活動を重視度する傾向がある。(5)高校生の学校外活動は、規範意識や学校の規則に対する意識と関連がある。ただし、その効果は学校外活動の種類によって異なる。アルバイト経験が多い高校生は規範意識を相対化する傾向があるのに対し、社会活動・ボランティア活動が多い高校生は、既存の規範を肯定する傾向がある。

8章:高校生の規範意識と親子関係

 本章では、高校生の規範意識が高校生自身ならびにその父親・母親の様々な意識、態度、価値観とどのように関係しているか、ということについて、特に高校生の「校則に対する意識」に焦点を当てて分析・考察した。その結果、「校則に対する意識」として、校則を尊重しそれを遵守しようとする「校則に対する遵守意識」と、校則の妥当性を懐疑し、それを自ら定立し直そうとする「校則に対する自律意識」という二つの志向が析出され、前者に対しては親子の間の親密なコミュニケーションが、後者に対しては子供の自律性を促す親の態度がそれぞれ大きな影響を与えていることがわかった。

9章:不公平感の時系列比較と親子間比較

 本章は、不公平感に着目し、時系列比較(第2次調査を除く)や親子間比較などを通して、以下の知見を得た。(1)すべての属性において、不公平感は1999年度(第4次調査)が一番高く、1994年度(第3次調査)が一番低い。1986年度は、その間にある。すなわち、単調に増加しているのでもなく、減少しているのでもない。最高値と最低値の差は、父親では約14%だが、その他の属性では約9%である。(2)高校生(男子、女子)と母親の不公平感はほぼ同程度であり、これに比較して、父親の不公平感は低い。本稿は、後者の知見に着目し、その事実を説明するメカニズムとして、「生活満足感仮説(父親は母親や高校生に比べて、生活に満足する傾向がある。そのため、結果的に、社会に対する不公平感を抱かない傾向にある)」と「コミットメント仮説(社会に強くコミットしている人ほど、その社会に対する不公平感を抱かない傾向がある。父親は一般に、母親や高校生よりも社会に対してコミットしているので、不公平感を抱きにくい)」という二つの仮説を提唱した。第4次調査における満足感や階層帰属意識、職種、従業上の地位などとの関係を分析した結果、生活満足感仮説は否定され、コミントメント仮説に適合的な結果が得られた。さらに、高校生男子、高校生女子、父親、母親それぞれのデータセットに対して、階層観・能力観、価値意識、権威主義的態度に関する25項目と全般的不公平感に対して探索的因子分析を適用した結果、全般的不公平感は、何よりもまず、(1)社会における格差を認識することによって増大するが、(2)社会における機会の閉鎖性を認識することによっても増大し、また、(3)階層志向性が強いと増大する、ということを明らかにした。

10章:努力観・能力観と社会イメージの形成−社会のしくみをどう認知するか−

 社会イメージとして学歴認知(学歴が高くないと社会に出て成功できないか)と努力認知(高い地位につけるかは努力次第か)、さらにその基盤となるであろう努力観・能力観を取り上げ、こうした意識の形成メカニズムと変数相互の関連について分析 した。
 まず社会イメージや努力観・能力観に関して、父親、母親、高校生のそれぞれについて地位や学校種別による差異を検討した。父親の場合、学歴認知については本人の職業や学歴による差異は見られなかったが、努力認知や努力観・能力観については差異が見られ、自己の地位を正当化する等のメカニズムが働いていることが推測された。母親の場合、本人の職業も夫の職業・学歴も認知や努力観・努力観との関連が見られず、父親とは異なるメカニズムでこうした意識が形成されることがうかがえた。高校生については、進学校の生徒は学歴の必要性を強く認知し、専門高校の生徒は努力の有効性を強く認知するなど、学校類型による明確な違いがみられた。社会イメージと努力観・能力観の変数相互の関連の仕方については、親世代と高校生で共通する面と異なる面があるが、共通する傾向として、能力平等観と努力認知の間に正の相関関係がみられた。これは、人の能力が平等だと考えると、結果として生じる格差は努力の差として解釈できる、といった意識のメカニズムが存在する可能性を示唆している。

11章 性別役割規範と価値意識

 「男性は外で働き、女性は家庭を守る」という言葉に代表される性別役割分業は、女性の社会進出など、社会的公正の実現を妨げる規範であるという認識が一般社会に広まっている。本稿ではこうした性別役割分業を人々の意識から支える性別役割規範が、高校生にとってどのような規範として認識されているのかについて調べるために、性別役割規範と親近性の高い価値意識を探索していく。
 分析結果から明らかになったことを、以下の2点に整理する。第一に、高校生の性別役割規範は、伝統主義・権威主義的価値意識と親近性が高い。特に男子ではすべての項目で伝統主義的な価値意識との間に関連が見られ、性別役割規範は伝統的な規範として受容されていることが示唆される。第二に、男子の性別役割規範には階層志向、つまり社会的地位や収入の上昇を重視する価値意識との間に親近性が見られるが、女子にそうした傾向はない。このことは、男子にとっての「上層」イメージには専業主婦などに代表される性別役割分業が密接に関わっていること、そして女子は男子の抱くそのようなイメージを共有していないという可能性を示している。
 性別役割規範は多面性を持つ規範であり、その受容のされ方は立場によって全く異なる。意識が鮮明にあらわれる時点はおそらく就職や結婚・出産等の岐路であり、高校生の段階ではまだ未分化な状態と言えるが、高校生においても性別によって既に大きな差違があらわれている。

第12章 権威主義的態度の規定メカニズム−上下けじめ態度と伝統重視態度の違いについて−

 日本社会は、先進諸国の中でも急激な産業化が起こった。現在では、日本人の半数以上が第3次産業に従事し、日本は脱産業社会となっている。しかし50年前の日本は、人口の約半数が農民だった。現在でも、日本には農村的な価値観や人間関係が、強く残っていると考えられる。本研究の目的は、権威主義的態度の質問項目と、上下けじめ重視態度の比較を行うことである。2つの質問項目をとりあげ、これらの規定メカニズムについて、データ分析を行った。
 分析の結果、2つの間には、その規定メカニズムの間に、大きな違いがあった。上下重視のような価値観については、独特な性質があることが分かった。
 また進学校ほど、上下のけじめや伝統を重視せず、反権威主義的な傾向があった。社会的地位が高く指導者層に近いと考えられる進学校の生徒ほど、より自己指令的であり、自由な雰囲気がある。ところが、親の社会的地位との関連を見ると、親階層が高いほど権威主義的であった。社会的地位が高い者ほど保守的なのである。子供の態度の形成には、親と学校が重要な影響を及ぼすのだろうが、両者はまったく逆の効果を持つことが明らかになった。
 上下けじめ重視に関しては世代間の態度の差がとくに大きかった。今後の日本では、より産業が高度化して単純労働者への需要は減少し、創造性や自発性のある人材が、さらに求められるだろう。

第13章 自由記述欄に見る社会観・教育観

 高校生・両親の社会や教育に対する見方、特に調査項目の枠にはまらない意識を、調査票の最後のページにある自由記述欄の回答の分析により探る。回答のコーディングにあたってはAUTOCODEというプログラムを用い、どのようなトピックがどのくらいの人に記述されているか、トピック間にどの程度の類似性があるかを検討する。
 分析の結果、次のようなことが明らかになった。高校生の意識の特徴として、社会に対する関心はあるものの具体的なイメージがない、教育については日常生活上の経験としてとらえているがそれを抽象化してとらえることがあまりない、(両親にくらべて)ネガティブな表現が多い、ということが挙げられる。父親と母親には、社会に対して幅広く触れており、不安や心配を表す表現が多い、などの共通点がある。父親には特に、教育を社会問題として多面的に考えている傾向がある。他方、母親には、教育の問題を考える際に子ども世代のことを考慮し、学校と家庭とを関連づけて考える傾向がある。高校生と父母の回答の違いを別のデータから検討することが今後の課題である。親の世代が高校生であった頃の文章を発掘して分析したり、現在の高校生が大人になったときに調査をすることが必要である。このような研究は、若者の問題とされることが「現代の」問題なのか、それもいつの時代にも同様の傾向があるものなのかを明らかにする鍵となるだろう。

懇談会:「教育と社会に対する高校生の意識」をめぐって(4)

 本報告書に収められた論文の草稿を素材に、調査の実施にあたってお世話になった先生方や、この研究にご関心をお持ちの先生方にお集まりいただき、草稿に関するご感想や、最近の高校生や親の実態、今後の研究課題などについてお話をうかがった。


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