「教育と社会に対する高校生の意識」第5次調査


第5次調査 調査の概要
正式名称 教育と社会に対する高校生の意識−第5次調査
実施 2003年10月から2003年12月
対象 層化三段抽出法により抽出した、仙台圏(名取市を含む)にある10の高校の2年生とその保護者(父母)
実施方法 高校生は自記式集合調査(場合によっては自記式配票調査)、保護者(父母)は自記式配票調査
回答者数(公式データ) 高校生 1113名(回収率87.0%)、父親 719名(回収率56.2%)、母親 877名(回収率68.5%)
目的 現代の高校生の実態に即応したテーマとして、学習意識・規範意識などを取り上げる。さらに、高校生の進路希望や価値意識(公平感、権威主義的態度など)がどのように変化してきているかなどを、第4次調査までの結果の蓄積と比較することによって明らかにし、約17年の間の日本社会の変化を探る手がかりとする。
報告書 片瀬一男・木村邦博・阿部晃士(編). 2005. 『教育と社会に対する高校生の意識−第5次調査報告書』東北大学教育文化研究会.


第5次調査の調査方法

・調査対象者の抽出(層化三段抽出法)の方法

 母集団は、仙台圏のすべての高校の生徒とその両親である。
 はじめに仙台圏のすべての高校を公立・私立、共学・別学、普通高校・専門高校、などの基準から分類し、できるだけ全体の縮図を構成するよう、依頼する高校を選んだ。次に、各高校等の協力者と協議の上、調査対象となるクラスを選択した。第4次調査までと同様に2年生を対象とし、各校3クラスまたは4クラス選んだ。(原則として3クラス選ぶが、学科が分かれている高校は、その学校でのが学科構成に配慮しながら4クラスを抽出した。なお、1校から全クラスの生徒に対する調査の希望があったため、その高校に関して7クラス中4クラス分だけを取り出したものを、「公式データ」とした。)
 調査対象校となったのは、次の10校である。

公立別学普通科 宮城県仙台第二高等学校、宮城県第二女子高等学校
公立共学普通科 宮城県仙台向山高等学校、仙台高等学校、宮城県名取北高等学校
公立別学職業科 仙台商業高等学校、仙台女子商業高等学校
公立共学職業科 宮城県工業高等学校
私立 東北工業大学高校、東北生活文化大学高等学校

・調査の実施方法

 高校生については、ホームルームなどの時間を利用して、担当の先生方から調査票を配布していただき、その場で生徒に記入してもらった。(ホームルームなどの時間が使えない場合には、家庭に持ち帰って記入してもらった。)父親・母親については、生徒を通じて、調査の依頼状と調査票(父親用、母親用の2種類)を配布し、家庭に持ち帰って記入してもらった。記入済みの調査票は、生徒をつうじて後日回収した。
 なお、同一の対象番号をつけたひと組の調査票(高校生票、父親票、母親票)を高校生に渡すことによって、親子の対応を確保した。この際、匿名性は確保されている。

・調査結果の公表

 すべての回答者に調査結果の概要(速報)を配布した。また、宮城県内のすべての高校・高専と幾つかの公立図書館に、報告書を寄贈した。


報告書(残部あり)

片瀬一男・木村邦博・阿部晃士(編). 2005. 『教育と社会に対する高校生の意識−第5次調査報告書』 東北大学教育文化研究会.

第5次調査 報告書の目次
まえがき 片瀬一男
謝辞
【本報告書の概要】
序章:調査の企画と実施 片瀬一男・木村邦博・阿部晃士
1章:大学進学希望層の変化 −教育アスピレーションの時系列比較− 遠藤圭一・阿部晃士
2章:高校生の描く将来像 −学歴や職業に対する意識との関連 元治恵子
3章:高校生のアノミー型アスピレーション −専門職アスピレーションをめぐって− 片瀬一男
4章:「女性にとっての学歴の意味」再考 −教育、就業と性別役割意識の関連の時系列的比較− 木村邦博
5章:学歴社会イメージは変わったか −17年間の質的変化を探る− 阿部晃士・海野道郎
6章:現代の高校生にとって、学歴不公平感とは何か 海野道郎・阿部晃士
7章:階層内婚による階層の再生産の趨勢 −教育期待・教育投資とアスピレーションへの影響− 片瀬一男・竹内亮太
8章:性別役割意識の規定要因 −ジェンダーの社会化をめぐる家族と学校− 片瀬一男・金澤 瞳
9章:現代高校生の規範意識の諸相 土場 学
10章:友だちづきあいと社会・自己 長谷川計二
11章:進路多様校の成立過程 −仙台の公立高校の変容− 片瀬一男
12章:仙台の女子高校の17年−2つの女子高校の比較− 多賀 努・片瀬一男
懇談会「教育と社会に対する高校生の意識」をめぐって(5)
あとがき 木村邦博
【付録】 1.統計用語についての補足
2.調査資料
調査依頼状、調査票(高校生票、父親票、母親票)、第1次報告書(速報)
3.単純集計表


第5次調査 報告書の要旨

序章:調査の企画と実施

 「教育と社会に対する高校生の意識」第5次調査は、これまでの調査をふまえて、第1次・第3次・第4次調査と同様、仙台圏の高校2年生とその保護者を対象として実施した。過去4回の調査の成果との比較を中心に分析を深めるとともに、現代の高校生の実態に即応した新しい研究テーマをいくつか設定し、分析することを目的に加えた。
 第1に、近年の高校教育改革が生徒にどのように受け止められ、生徒の学習意識・態度にどのような影響がもたらされたかを、社会学的見地から実証的に分析したいと考えた。第2に、近年における社会の急激な変化、とりわけ若者をとりまく環境の急激な変化に着目し、従来と異なる高校生の意識の現われに注目したいと考えた。第3に、高校生の意識がどのように変化してきているか、また高校生の意識に対する家族や学校などの影響がどのように変わってきているのかを、第4次調査までの結果の蓄積と比較することによって明らかにし、約17年の間の日本社会の変化を探る手がかりとしたいと考えた。
 2003年11月から12月にかけて、10校の2年生と保護者を対象として調査を実施した。回収率(公式データ)は、高校生が87.0%、父親が56.2%、母親が68.5%である。

1章:大学進学希望層の変化−教育アスピレーションの時系列比較−

 本章では、高校生の教育アスピレーションの変化、特に大学進学希望に焦点を当て、1987年の第1次調査から2003年の第5次調査までの時系列比較をおこなった。
 明らかになったのは、以下の点である。(1)進路希望では、大きな流れとして、男子で「専門学校希望者の増加と就職希望者の減少」、女子で「四年制大学・専門学校希望者の増加と短大・就職希望者の減少」という傾向が見られる。(2)第1次調査と第5次調査の比較によれば、男子の進路希望に関する高校によるトラッキングの効果は弱まっており、女子ではどの学校タイプでも大学希望者が増加している。(3)第1次調査でも第5次調査でも、高校生の所属する高校は出身階層によって規定されている。また、出身階層は男子の進路希望に対しては学校タイプを介して間接的に影響しているのに対して、女子の進路希望に関しては間接的な効果のほかに直接影響している部分がある。(4)進路希望の変化の背景には女子の進路選択において男子と同様に成績の重要性が増したことがあり、成績上位にある女子が大学進学を希望することによって、進路多様校における男子が進学を希望しなくなった可能性がある。
 これらの結果は、1981年と1997年の兵庫県でのデータを分析した尾嶋史章らの分析と(一部を除き)ほぼ同じものである。われわれの調査は1987年から2003年に実施したものであり、対象地も異なるが、1980年代から2000年代初めにかけての、日本の(都市部の)高校生の進路希望状況には、こうした共通の変化があったことが確認できたといえる。

2章:高校生の描く夢−学歴や職業に対する意識との関連−

 人々をめぐる雇用環境は厳しい状況が続いている。とくに、新規学卒者をめぐる労働状況は、若干の回復の兆しが見られる(平成17年度の新規大卒採用増の企業の増加など)ものの依然厳しい状況にある。平成14年3月末卒業者の就職率が86.3%でと過去最低を記録した。以後、回復傾向にあるものの、平成16年3月末高校卒業者の就職率は、89.0%と9割に満たない状況が続いている。また、総務省統計局の『労働力調査』によると、バブル崩壊後の平成3年以降、完全失業者数は増加傾向にある。完全失業者数は、平成15年に、350万人(前年比9万人減)と13年ぶりに減少したものの、完全失業率は、平成13年に初の5%台になって以降3年連続で5%台となっている。とくに、若年層における失業率は、他の年齢層と比べて依然高い状況にある。パートタイム労働者として入職する新規学卒者は、高卒女子38,6%、高卒男子28.3%(『雇用動向調査』厚生労働省(平成14 年))と急増している。そして、209万人(男性94万人、女性115万人)(「平成15年(2003年)版労働経済白書」)とも417万人(2002年平均:「平成15年版国民生活白書」)とも言われているフリーターの増加やニートなどの若年層を中心とした問題に対し、さまざまな議論がなされている。このような状況を背景に、現代の高校生は、自分の将来像をどのように描いているのだろうか。高校生の職業アスピレーション(職業希望)の実態を把握し、その背景にある構造を探っていく。
 本章では、まず、職業アスピレーションの実態を検討した。分析の結果、職業アスピレーションについては、専門職を希望する生徒が多く、女子の方が男子よりも具体的な職業アスピレーションを持つ割合が高いこと、「未定」の生徒も多く存在することなどが明らかになった。これらは、他の研究における知見と同様であり、本稿の分析対象となった生徒に特有の傾向は見られなかった。
 また、進路希望との関連が見られたことから、進路希望と職業アスピレーションをもつか否かの2つを分析軸として、調査対象者を4つのタイプに分類し、職業アスピレーションと教育や職業に対する意識との関連を記述的に検討した。ここでは、教育に関連する「学歴」をめぐる3つの意識の分布、「職業」をめぐる2つの意識の分布を総合的に見ることにより考察を進め、まとめとしたい。

3章:高校生のアノミー型アスピレーション−専門職アスピレーションをめぐって−

 ここでは「有名人(ミュージシャンやプロスポーツ選手など)になりたい」という「アノミー型アスピレーション」にみられるような「非現実的な」夢を追う傾向を扱う。こうした傾向は、男子高校生に多く見られる。そして、この「アノミー型アスピレーション」をもつ者は、比較的恵まれた出身背景(たとえば、父親は学歴が高く、専門職・管理職に就いている)をもちながらも、学校の成績が振るわないため、制度的に奨励される文化的目標(専門職に就く)を非制度的手段(個人的努力)によって達成しようとするという「アノミー状況」にあるとみることができる。彼らはまた、学校文化へのコミットメントが低く、脱学校文化に参与する「パートタイム生徒」であると同時に、「夢追い型」フリーターと類似した社会意識をもつ。しかし、「夢追い型」フリーターと同様、追い求める「夢」に到達できる者はわずかであり、多くの者は「夢」を断念し、結果的に別の進路を選ばざるを得ない。しかも、彼ら・彼女らの多くは「著名人アスピレーション」の実現可能性の認識や、それを実現するためのスッテップについての現実的な判断が十分ではない。加えて、中・長期的見通しに立って、「夢」が実現しなかった場合の進路転換の準備ができていない。彼ら・彼女らは、「夢」を断念した後、困難な条件で進路選択の再構築に直面することになる。その意味では、彼らが卒業後、フリーターになる可能性が高い。

4章:「女性にとっての学歴の意味」再考−教育、就業と性別役割意識の関連の時系列的比較−

 「女性の高学歴化とともに女性の社会進出が進んだ」とよく言われるが事実はそう単純でない。この章では、高校生の母親の学歴・就業形態・性別役割意識の間の関連や、高校生女子の進路希望・就業キャリア希望・性別役割意識の間の関連を、第5次調査データで見るとともに、その傾向を、第3次・第4次調査データなどの分析結果と比較する。それにより、約20年の間に有配偶女性や高校生女子にとっての教育(特に高等教育)と就業の意味は変容したのか、また彼女たちを取り巻く社会環境は変化したのかを検討する。第3次調査から第5次調査までのデータを比較してみると、いずれの時点でも、母親票回答者では、(1)教育年数が長い者ほど専業主婦の割合が大きい、(2)教育年数が長い者ほど性別役割分業に批判的な意見を持つ人の割合が大きい、(3)有職者の方が専業主婦よりも性別役割分業に批判的な意見を持つ人の割合が大きい、という傾向がある。同様に高校生女子では、(4)性別役割分業に否定的な人が大学進学を希望するのに対し肯定的な人が就職を希望する、(5)性別役割分業に否定的な人の方が肯定的な人よりも「就業継続型」の就業キャリアを希望する、(6)「就業継続」希望者に大学進学希望率が高い、という傾向がある。女性にとって「学歴」が持つ意味がライフ・ステージによって異なるという状態が持続してきたのが、1980年代から現在に至るまでの日本社会の実情だったと考えられる。

5章:学歴社会イメージは変わったか−17年間の質的変化を探る−

 近年の高校生に「学歴社会イメージの希薄化」が進んだのではないかという仮説を検討した。具体的には、希薄化した学歴社会イメージは「進路希望との関連が弱くなる」「学歴による不公平感との関連が小さくなる」との予測をたて、第1次調査(1987)年から第5次調査(2003年)までのデータを用いて分析を進めた。
 その結果、(1)第1次調査では、女子で学歴社会イメージと進路希望の関連がみられたのに対して、第5次では、男女とも学歴社会イメージと進路希望の関連が弱いこと(4節)、(2)学歴社会イメージと学歴による不公平感の関連は、第1次調査に比べると第5次調査の方が明確なこと(5節)を示した。また、(3)第1次調査に比べて、第5次調査では、成績の低い層ほど学歴社会イメージをもつ傾向があった(3節)。
 こうした結果の整合的な解釈として、学歴社会イメージが希薄化したというよりは、学歴が「すでに定まったもの」へと質的に変化したとのではないか、との仮説を提示した。進路希望においては学歴社会のイメージが動機づけにつながりにくくなっているが、学歴社会イメージと学歴による不公平感との関連は弱まっておらず、「定まったもの」としての学歴が「有利にはたらいていない」とイメージすることが、不公平感の低下につながっているのではないだろうか。

6章:現代の高校生にとって、学歴不公平感とは何か

 種々の不公平感(領域別不公平感)の中で「学歴による不公平」感は、第1次・第5次いずれの調査時点でも指摘率が最大だが、この間の減少が最大である。しかし、不公平感の全体構造には、大きな変化は見られない。その理由を探る一歩として、学歴不公平感の性質を第5次調査の分析によって検討した。得られた知見は、以下の通りである。(1) 学歴不公平感指摘率は、進学校がもっとも低く、専門学校、進路多様校の順に高くなる。社会的成功条件として「学歴が有利になるべきでない」と考える生徒の割合も、同じ順序である。(2) 学歴不公平感を抱く高校生は(抱かない高校生に比べて)以下の傾向がある。(a) 学校の正統的文化や規範に馴染まない。(b) 私的な関係である友人関係や家族関係には満足しているが、公的な関係である学校や社会全般に対する不満を抱いている。(c) 競争の少ない保障社会を選好し、将来の日本社会で貧富の差が拡大すると予想する。(d) 高学歴が社会的成功の条件であるべきでないと思うと同時に現実の社会では高学歴が社会的成功の条件だと思っている。(しかし、高学歴が社会的成功の条件であるべきだと思うと同時に現実の社会では高学歴が社会的成功にとって有利な条件ではないと認識している人は、理想と現実との乖離にも関らず、学歴不公平感が低い。)

7章:階層内婚による階層の再生産の趨勢−教育期待・教育投資とアスピレーションへの影響−

 4時点にわたる「教育と社会に対する高校生の意識調査」のデータから、夫婦(高校生の父母)の学歴階層内婚をとりあげ、それが階層の再生産につながっているか検討した。その結果、@まず、1980年代後半から2000年代前半にかけて、夫婦間の学歴の結びつきが弱まり、夫婦の学歴構成が多様化したために、内婚化の進行はみられなくなっている。Aまた、学歴内婚による教育期待の格差もおおむね縮小してきているとみることができる。たしかに、2003年になっても、高学歴内婚と低学歴内婚の間には依然として教育期待の格差は存在するが、こうした階層間の格差は、学校外教育投資の差異を生み出してはいない。Bさらに、階層内婚と教育達成との関連については、男女で異なる趨勢がみられ、男子ではかつて大きかった結婚類型による差異は縮小傾向にあったのに対して、女子では以前は男子ほど格差が大きくなかったが、2000年代に入って妻高学歴婚において進学校在籍率が増大したために、他の結婚類型との格差を拡大させた。C階層内婚と教育・職業アスピレーションついてみれば、教育アスピレーションにおいては、男女とも結婚類型による格差は縮小傾向がみられた。これに対して、職業アスピレーションにおいては、男女で異なる動きがみられ、男子では2000年代に入って格差は縮小する傾向がみられたが、女子では逆に拡大する傾向が現れていた。

8章:性別役割意識の規定要因 −ジェンダーの社会化をめぐる家族と学校−

 4時点にわたる「教育と社会に対する高校生の意識調査」のデータから、性別分業意識をとりあげ、この意識が1990年代をつうじて世代・性別をこえて弱まり、少なくとも意識の上では性別役割の平等化に向かいつつあること、またこの価値志向の伝達が近代家族の性別役割分業に沿ったかたちで行われなくなってきたことを明らかにした。また、第4次および第5次調査のデータから、家族における性別分業意識の伝達を規定する要因を検討したところ、@家族内コミュニケーションの頻度、A準拠集団としての家族の相対的重要性、B両親の性別分業意識の一致度、といった家族特性が価値伝達に及ぼす影響は、高校生女子(娘)には見いだされたが、高校生男子(息子)には明確には見いだされなかった。このことから、青年期前期においては、現代家族は女子にとっては有効な社会化のエージェントになっているが、男子にとっては必ずしもそうでないことが示唆された。

9章:現代高校生の規範意識の諸相

 本章では、第4次調査(土場・橋本「高校生の規範意識と親子関係」『教育と社会に対する高校生の意識:第4次調査報告書』)に引き続いて高校生の規範意識(校則意識)について分析した。そのさい、前回は高校生の規範意識と親子関係との関連に焦点を当てて分析したが、今回は高校生のさまざまな意識や態度との関連を分析することで、高校生の規範意識の内実をより掘り下げて明らかにした。まず、前回の分析と同様、今回の分析でも、高校生の校則に対する規範意識については、「校則に対する遵守意識」と「校則に対する自律意識」という独立した二つの要因が含まれていることが明らかになった。そのさい、校則に対する遵守意識は、家庭、学校、社会に対する肯定感と満足感と関連している一方で、権威主義的態度や出世志向と結びついており、また遵守意識の高い高校生は友人関係が表層的である。他方、自律意識は規範的判断に関する自己決定意欲の高まりを表すものと解釈できるが、必ずしも規範に対する明確な判断や自らの生活や将来に対する確固とした見通しに結びついているわけではなく、むしろ親や学校や社会に対する反発や不満、およびフリーター志向や私生活志向と結びついている。このことから、高校生の自己決定意欲を適切に社会化されないまま、むしろ社会から離反して私生活に引きこもる契機になってしまっている可能性を示唆しているのではないかと考えられる。

10章:友だちづきあいと社会・自己

 この章では、高校生の友人関係のあり方を積極志向と維持志向という2つの志向性からとらえ、それらの志向性が高校生の社会認識や生き方、将来の仕事への構えとどのように関連するかを見た。積極志向の友人関係では、友だちを積極的にリードしいろいろな相談も受け、また誰とでも気軽に友だちになる。これに対して維持志向の友人関係は、友だちをしらけさせないように気をつかい意見が違っても表に出さない。積極志向の高い高校生は、生き方として自己実現を志向し、平穏な生活を忌避する。また、年齢といった変更不能な制約条件による不公平を感じている。「ぜひつきたい仕事」のイメージは比較的明確だが、その実現可能性について心もとないところがある。他方、維持志向の高い高校生は、社会的資源の配分原理として親の社会的地位やコネ、学歴といった既得地位が有利にはたらいていると考え、生き方においても階層志向性が比較的強い。
 しかし、ここで見出された傾向はいずれも弱いものでしかなかった。親友がいる高校生は8割を超えるが、親友関係においてさえかならずしも「自分のすべてをさらけ出す」わけではない。親友関係で見られるこうした傾向が普通の友人関係において一般的であるならば、友人関係が高校生の社会認識や自己の生き方、仕事への構えなどに対して与える影響が弱いとしても、それはむしろ当然のことなのであろう。

11章:進路多様高の成立過程−仙台の公立高校の変容−

 仙台圏の公立高校の進路状況の分析から、普通科下位校および専門高校では、進路の多様化がすすんでいることを明らかにする。また、どの高校に在籍するかによっても、学校から職業世界への移行形態や進路指導の在り方が異なっている。すなわち、普通科下位校(進路多様校)では、とりわけ男子において学校紹介によらない非正規雇用への参入が増えている。ここにおいては、高校は従来のように日本特有の雇用慣行によって制度的に委託された職業紹介の機能を果たすことはできない。これに対して、専門高校においては、男女を問わず、従来通り、学校の職業斡旋を通じた標準的な職業移行が大半を占めている。しかし、高校生の高学歴志向と大学入学の難易度の低下、さらには各種・専門学校の増設によって、専門高校における高校生の進路希望も多様化しており、従来からの進路指導が十分に機能しなくなった可能性があることを指摘する。また、こうした進路多様高の成立の背後には、高校格差構造の変容に加えて、1980年代にはじまった一連の教育改革がある。欧米のレーガン・サッチャリズムに由来する新自由主義を背景として、日本の教育行政においても「ゆとり教育」「個性化・多様化」「生きる力」などをキーワードに、個性の発揮や自己実現といった目標が学校教育に持ち込まれた。とりわけ1984年の臨時教育審議会の答申は、学校カリキュラムの弾力化を柱とし、飛び級などの教育制度の「自由化」を可能にした。それは、日本の教育目標のパラダイムを組み替えるものであった。ここでは、進路多様高の成立過程を、近年の教育政策との関連で検討する。

第12章:仙台における女子高校の17年−2つの女子高校の比較−

 A高校およびB高校という2つの女子高校の生徒の社会と教育に対する意識が,この17年の間にどのように変化したかを,高校生を取り巻く環境の変化を参照しながら記述し,社会性の低下など社会問題となっている変化が調査データによって裏付けられるか検討した。
 父母の職業や従業上の地位については「専業主婦が少ない」など学校固有の特徴が残っており,学歴については父親の高学歴化が著しく進んだものの,父母の学歴や階層帰属意識が生徒に直接影響を与えているようには見えなかった。
 調査を実施した1987年から2003年までの間に,「団塊ジュニアの入学・卒業」から,「ゆとりと学力低下」をめぐる教育政策論争まで,生徒を取り巻く状況は大きく変化した。
 この変化を念頭において,生徒の社会意識,とくに「満足感」と「友人関係」の変化を調査データにもとづいて検討した。「家族の満足度」や「生活全般の満足度」は変化しにくいが,「教師満足度」は生徒指導に関連して変化しやすい。また,「友人関係が希薄化している」という問題意識でデータを検討した。「規範意識」や「逸脱行動」と関連付けると,積極的な対人行動が見られる背後に,社会性の低下をうかがわせる要素があると考えるに至った。
 最後に,現場の実感を根拠に,フリーター評価に関連付けて,「学習意識」や「生活価値意識」の変化を見たところ,近代的アスピレーションに肯定的な生徒と否定的な生徒の二極分化傾向が見られた。

懇談会:「教育と社会に対する高校生の意識」をめぐって(5)

 本報告書に収められた論文の草稿を素材に、調査の実施にあたってお世話になった先生方や、この研究にご関心をお持ちの先生方にお集まりいただき、草稿に関するご感想や、最近の高校生や親の実態、今後の研究課題などについてお話をうかがった。


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