「教育と社会に対する高校生の意識」第6次調査


第6次調査 調査の概要
正式名称 教育と社会に対する高校生の意識−第6次調査
実施 2007年10月から2007年12月
対象 層化三段抽出法により抽出した、仙台圏(名取市、多賀城市を含む)にある12の高校の2年生とその保護者(父母)
実施方法 高校生は自記式集合調査(場合によっては自記式配票調査)、保護者(父母)は自記式配票調査
回答者数(公式データ) 高校生 1231名(回収率79.4%)、父親 934名(回収率60.2%)、母親 1157名(回収率74.6%)
目的 高校生を取り巻く学校内外の環境が、大きな変容を遂げている現在において、(1) 高校生や保護者が社会の現状をどのようにとらえているのか、(2) またその社会の中で高校生はどのような形で自己実現を図ろうとしているのか、(3) そのような高校生の社会意識やアスピレーションに対して学校や家庭(社会階層的背景や保護者の価値意識など)や友人関係などはどのような影響を与えているのか、(4) その影響関係に関して、過去と比べた場合に、変化が見られるのか否か、ということを明らかにすることを目的とする。
報告書 木村邦博(編). 2009. 『教育と社会に対する高校生の意識−第6次調査報告書』東北大学教育文化研究会.


第6次調査の調査方法

・調査対象者の抽出(層化三段抽出法)の方法

 母集団は、仙台圏のすべての高校の生徒とその両親である。
 われわれがこれまで実施した調査を踏襲し、仙台圏の全ての高校を、公立・私立、共学・別学、普通高校・専門高校などの基準によってグループ化して、できるだけ全体の縮図となるよう、グループごとに調査を依頼する高校を選んだ。同時に、過去の調査との比較がしやすいように、特に第5次調査と第1次調査でご協力いただいた高校が含まれるようにした。(第3次・第4次調査との比較可能性ということにも配慮した。)
以上の高校から、各校の協力者と協議の上、調査対象となるクラスを選択した。第1次から第5次調査までと同様に2年次生を対象とし、各校3クラスまたは4クラスを選んだ。(原則として3クラスを選ぶが、学科がわかれている高校は、その学校での学科構成に配慮しながら4クラスを抽出した。)
 調査対象校となったのは、次の12校である。

県立別学普通科 宮城県仙台第二高等学校、宮城県仙台第三高等学校、宮城県第二女子高等学校
県立共学普通科 宮城県仙台向山高等学校、宮城県名取北高等学校、宮城県多賀城高校
県立別学職業科 仙台商業高等学校、仙台女子商業高等学校
県立共学職業科 宮城県工業高等学校
私立 東北工業大学高校、東北生活文化大学高等学校、仙台白百合学園高校

・調査の実施方法

 高校生については、ホームルームなどの時間を利用して、担当の先生方から調査票を配布していただき、その場で生徒に記入してもらった。(ホームルームなどの時間が使えない場合には、家庭に持ち帰って記入してもらった。)父親・母親については、生徒を通じて、調査の依頼状と調査票(父親用、母親用の2種類)を配布し、家庭に持ち帰って記入してもらった。記入済みの調査票は、生徒をつうじて後日回収した。
 なお、同一の対象番号をつけたひと組の調査票(高校生票、父親票、母親票)を高校生に渡すことによって、親子の対応を確保した。この際、匿名性は確保されている。

・調査結果の公表

 すべての回答者に調査結果の概要(速報)を配布した。また、宮城県内のすべての高校・高専と幾つかの公立図書館に、報告書を寄贈した。


報告書(残部僅少)

木村邦博(編). 2009. 『教育と社会に対する高校生の意識−第6次調査報告書』 東北大学教育文化研究会.

第6次調査 報告書の目次
まえがき 木村邦博
謝辞
【本報告書の概要】
序章:調査の企画と実施 木村邦博
1章:職業希望の構造 元治恵子
2章:高校生のフリーター観とその規定要因 古賀正義・敦賀亮太
3章:高校生の進路志望と親からの教育期待の時系列的分析 阿部晃士・村山詩帆
4章:高校生の学習意識と学習行動 神林博史
5章:社会化価値の世代間関連 片瀬一男
6章:高校生の規範意識の現状―コールバーグの道徳性発達理論にもとづく検討― 木村邦博
7章:高校生の相談ネットワークの変容―友人関係・家族関係・対教師関係― 三輪哲
8章:父不在高校生の生活と意識 余田翔平
9章:生徒・父・母三者間の「教育」と「社会」に対する意見の差異―自由回答欄の分析― 山ア尚也・秋永雄一
懇談会「教育と社会に対する高校生の意識」をめぐって(6)
あとがき 木村邦博
【付録】 1.統計用語についての補足
2.調査資料
調査依頼状、調査票(高校生票、父親票、母親票)、第1次報告書(速報)
3.単純集計表


第6次調査 報告書の要旨

序章:調査の企画と実施

 今回の「教育と社会に対する高校生の意識」第6次調査は、東北大学教育文化研究会の研究プロジェクトの蓄積を踏まえつつ、21世紀初頭における日本社会の特徴を考慮し、主として以下の3つの目的をもって実施した。まず第1に、様々な意味で「変動期」にある現在の日本社会において、高校生およびその保護者の社会や生活に対する意識と進路志望・職業志望(アスピレーション)などがどのような特徴を示すのかを明らかにすることである。第2に、これらの意識の形成過程がどのようになっているのかを解明することある。第3に、約20年間の間に、これらの意識の形成過程がどのような変容を見せているのかを明らかにすることである。
 第6次調査は、2007年10月から12月にかけて、できるだけ仙台圏の高校生を代表するようなサンプルになるとともに、仙台圏における過去の調査との比較が可能なように(とりわけ1987年の第1次調査や直近の第5次調査との比較が可能なように)、仙台圏の高校12校を選び、2年生と保護者を対象として実施した。回収率(公式データ)は、高校生が79.4%、父親が60.2%、母親が74.6%である。

1章:職業希望の構造

 現代高校生の職業希望(職業アスピレーション)の実態を明らかにし、その構造を探った。分析の結果、男子では「未定」、女子では「専門職」を希望する者がもっとも多く、また、男子よりも女子の方が具体的な職業志望をもつ者が多かった。第3次調査からの変化についてみたところ、男女ともに、第5次調査で減少した「専門職」と「事務職」で若干の増加、「熟練労務・農林」で若干の減少がみられたものの、全体的な傾向に大きな変化はみられなかった。しかし、「専門職」志望について、職業内容の中分類レベルでみれば、変化もあり、全般的傾向として、低調な雇用環境の影響を受け、堅実な職業選択(職業志望レベルではあるが)をする安定志向の者が増加する傾向がみられた。また、「専門職」志望や「未定」を規定する要因について検討したところ、「専門職」では、男子であることが負の、進学校に通っていること、母親が専門職や管理職であることが正の影響を及ぼしていた。一方「未定」については、男子であることが正の、進学校に通っていること、仕事に生きることを重要と考えていることが負の影響を及ぼしていた。職業というものに対してどのような意識をもっているかも、職業志望を決定する重要な要因ではあるが、依然、出身階層(親の職業など)や本人の学業的達成の要因の影響が大きいことが明らかになった。そして、職業選択において、学校による選抜・配分機能が、いまだ重要な役割を果たしていることが示唆された。

2章:高校生のフリーター観とその規定要因

 本章の目的は、高校生たちがフリーターに対してどのようなイメージを抱いているのか、また高校生のフリーターに関する認識や評価はいかなる要因によって変化するのかを明らかにすることである。具体的には、次の2点を課題として分析を試みる。@高校生は、フリーターに対してどのような認識や評価をしているのか、その特徴は何か。A高校生のフリーター観に影響を及ぼしているのはどのような要因なのか(特に、学校種別や成績などの要因はどのような影響をもたらしているのか)。
 フリーターに関する意識に関して、第5次調査と第6次調査で変化があるかどうか、意識に男女差があるのか、親子間で差があるのかなどを単純集計によって確認した。さらに、意識項目間の相互の関連を探るために、因子分析を行った。そして、抽出された因子の因子得点と性別や成績自己評価、学校種、進路希望などとの関連を見た。
 分析の結果、第5次調査と第6次調査との間で、フリーターやその生き方を容認する高校生の割合が大きく減ったことが明らかになった。また、高校生のフリーター観には、性差が見られないものの、学校種や進路希望で大きな差があることがわかった。特に、進路多様校・進路未定の生徒ほどフリーターを容認する傾向があった。さらに、進路希望が同じ生徒の間でも、成績自己評価や就職可能性認知の度合いによって、意識に違いがあることも明らかになった。高校生のフリーター観は、学校の社会的文脈や成績のような自己能力の理解に影響を受けやすいと言える。

3章:高校生の進路志望と親からの教育期待の時系列的分析

 本章では、高校生の進路志望と親の(子に対する)進路期待の変化に焦点を当て、1987年の第1次調査から2007年の第6次調査までの時系列比較をおこなった。
 分析の結果、以下の点が明らかになった。(1) 高校生女子で四年制大学への進学希望が増加する傾向にあり、男女の進路希望の分布が似通ってきている。(2) 子が女子である親の大学進学期待が高まる傾向にあり、高校生の進路希望と似通った分布になりつつある。(3) 第5次調査から第6次調査の間では、進路多様校女子における大学進学希望者の顕著な増加が見られる。(4) どの学校タイプに通っているかが高校生の進路志望や親の進路期待に依然として強い影響力をおよぼしている。また、子どもが女子である母親の場合、学校タイプがもたらす影響が強まってきている。(5) 大学・短大・高専卒の父親、母親が、男子への大学進学期待を弱めている。(6) 高校生の進路志望と親の進路期待の関連は高まる傾向にあるが、母親と女子の間の関連のみ、弱くなっている。
 これらの結果は、大別して2つの趨勢を示している。第1に、吉川(2006)が指摘するように、「高学歴化の終焉と高原期の継続」により、「学歴経験の世代間同質化」がもたらされる段階に入っている。第2に、学校タイプによる影響力の弛緩、出身階層による影響の低下といった従来の構図が維持され、そのなかで男女の競合関係がさらに高まり、進路に関する性差が希薄になってきている。

4章:高校生の学習意識と学習行動

 高等学校学習指導要領(平成11年版)には、「生きる力」や「自ら学び自ら考える力の育成」といった理念が謳われている。しかし、この理念のもとに導入された、いわゆる「ゆとり教育」は、その理念を十分に実現できたとは言い難く、厳しい批判にさらされてきた。高校生調査では、第4次調査(1999年)以降、高校生の学習に関する意識や学習行動を重要な項目として調査しており、学習指導要領の理念がどの程度浸透しているのかについて検討できる。本章では、高校生の学習意識と学習行動の変化に関する4つの分析を行った。分析の結果は、以下のように要約できる。
 (1)高校生の学習動機
 ここでは、高校生の「勉強する理由」に関する意識を「学習動機」と呼ぶ。学習意識は、内発的学習動機と外発的学習動機の2種類に分類できるが、これら2つの学習動機は、1999年以降、ともゆるやかな上昇傾向にあることがわかった。
 (2)高校生の学習方法
 ここでの「学習方法」とは、勉強の進め方に関する高校生の自己認知のことである。学習方法は、1999年から大きく変化しておらず、新学習指導要領が目指したプロセスや論理を重視する学習方法が浸透していないことが明らかになった。
 第5次調査(2003年)に比べると、高校生の学習時間はやや増加している。学習意識との関連を見ると、学習意識は内発的学習動機との関連が強く、内発的学習動機が高い生徒ほど学習時間も長い。一方、外発的学習動機と学習時間の関係は比較的弱い。
 (4)親の意識・出身家庭の影響
 学習意識の親子間比較、高校生の学習意識に対する親学歴の影響、学校外教育投資(塾や通信添削などの学校外学習活動)と親学歴の関係、の3点を主に分析し、次のような結果が得られた。@親子間の学習意識の関連は、それほど強くない。Aいわゆる「意欲格差」が存在が確認された。B学校外学習投資と出身家庭の関係は大きく変化していないが、親学歴による経験率の格差、および学校外教育投資の有無による教育達成の格差が拡大している可能性がある。

5章:社会化価値の世代間関連

 本章ではまず1986年度と2007年度の調査結果を比較し、この20年間に親の社会化価値にどのような変動があったか検討したのち、親の社会化価値の規定要因に変化があったかについてもみた。そして、2007年度の調査では子ども自身の価値についても調べられているので、社会化価値の世代間伝達がどのようになされているのか、またそれを規定する要因は何か、考察を加えた。
 その結果、@「生きる力」「人間力」といった個人の自律性を強調する1990年代の教育言説や政策理念とは裏腹に、親の社会化価値においては、父母とも自律性(自己指令性)よりも同調性を重視する傾向が強まっていた。A父親・母親とも社会化価値には学歴・職業による差異がみられ、学歴が高いほど、また職業上の地位が高いほど、自律的な価値を子どもに期待することがあきらかになった。B親子間の自己指令性の相関をみたところ、父親−娘の間での相関が有意ではないものの、それ以外のペアでは相関係数が有意となっていた。C家族における価値伝達を規定する条件として、1) 家族内コミュニケーション頻度、2) 子どもの家族への準拠、3) 父母の社会化価値の一致度に着目して分析をおこなった。まず親子間コミュニケーション頻度に関しては、「家族との外出」の頻度が多いほど、父親−娘・母親−娘間で親子の価値が一致する傾向がみられた。また、「家族の助け合い」についても、その頻度が多いほど、親子の価値の相関が高くなっていた。さらに「家族との会話」においては、母親−息子、父親−娘および母親−娘間において親子の価値の関連が強くなっていた。

6章:高校生の規範意識の現状―コールバーグの道徳性発達理論にもとづく検討―

 世代論の観点から、現在の高校生は過去の時代の高校生と異なった規範意識を持っている、あるいは過去に比べて規範意識が低下している、と主張されることがある。これに対して本章では、むしろ発達論的観点から現代高校生の規範意識を分析し、規範意識・道徳意識にはいつの時代・いかなる社会にも共通する普遍的な発達段階があって、10代後半は現に存在する規範に対して懐疑的になるような段階にあたるのではないか、という問題提起をすることを目的とする。分析・考察の結果は次のように要約できる。(1) 単純集計結果を見る限り高校生の規範意識がそれほど低いとはいえない。(2) 学校生活に関する規範に対する逸脱を「悪い」と評価する人の割合が、社会全般に関わる規範に対する逸脱を「悪い」と評価する人の割合よりも低めだという傾向がある。(3) 第4次調査から第6次調査までで比較可能な項目に限ってみると、少なくともこの約8年の間に規範意識がそれほど低下したとはいえない。(4) 高校生の約6割は、他人に迷惑をかけなければ何をしてもよいという、「他者危害排除の原則」と呼ばれる自由主義の基本原理にもとづいて規範の重要性に序列をつけて評価していることが推察される。これは、コールバーグの道徳性発達理論にもとづけば、高校生の多くが「社会システムと良心」あるいは「法と秩序」という観点から、自律的で形式的な推論にもとづいて内省的な道徳判断を行っていることの傍証と考えることができる。

7章:高校生の相談ネットワークの変容―友人関係・家族関係・対教師関係―

 本章の目的は、高校生のおかれている相談ネットワークの構造とその変容とを検討することである。仙台圏の高校生に関する反復調査データを用いて、1999年から2007年までの趨勢を計量分析した。それにより発見された知見は、以下のように整理される。
 この10年ほどのあいだに、仙台圏の高校生の相談ネットワークは、大人への依存度を強める方向へと変わってきた。温情主義的な家族関係への移行を受けて、家族に対する相談は増加した。また、勉強を含め学校内の活動がより重視するようになり、それに伴い先生に対する相談も増加した。
 女子に限りみられた変化の特徴は、親友との関係のあり方の質的変化に基づいて、親友への相談が減少したことである。一方、男子の変化の特徴は、悩みを独力で解決する傾向が弱まったことである。ただし、この変化の意味の特定は、今後の課題として残る。
 相談ネットワークの時点間変化には学校差がみられないが、先生への相談の程度のみに学校によるばらつきがみられた。それにより先生への相談の多い学校と少ない学校を分かつのは学校または教師側の要因であると推測でき、教師や学校側の心がけや工夫により、良好な生徒-教師関係が豊かに存在する学校へと変えていける可能性が示唆された。

8章:父不在高校生の生活と意識

 日本の離婚率は、1960年代中ごろから上昇の一途を辿っている。日本では、離別後の子どもの親権は母親が単独で担うケースが大半を占め、離婚家庭の子どもたちの多くは「父不在」を経験することになる。しかしながら、これまで家族研究や階層研究の領域では、「父不在」が子どもにもたらす影響については、ほとんど焦点が当てられてこなかった。
 本章の目的は、「父親がいない」高校生(父不在高校生)に関して、以下の2点を明らかにすることである。ひとつは、社会と自分がどのように関わっているかについて、彼/彼女らが抱いている意識である。具体的には進路希望・性別役割意識・就業キャリア希望に着目する。もう一点は、父不在高校生の学校内/外活動、家庭内役割、家族関係である。
分析結果から、父不在高校生の大学進学希望率の低さ、学校外での友人関係の希薄さなど、必ずしも明るいとはいえない側面も確認された。その一方で、父不在高校生女子は、相対的に不利な状況に置かれながらも読書経験は豊富であり、彼女らが積極的に活動している様子も浮かび上がってきた。「父不在」という言葉には、「暗い」・「生活が厳しい」といったステレオタイプ的なイメージが付きまとう。しかしながら、そういったイメージだけでは捉えきれない父不在高校生の生活側面も確かに存在することが示唆された。
 これまで、父不在高校生は少数派と考えられ、十分な関心が向けられてこなかった。しかしながら、彼/彼女らは今や仙台圏の高校生の7.9%を占める(第6次調査)。この数字はかなり低く見積もったものと判断するべきであろう。もはや決して少数派とは言えない父不在高校生をステレオタイプ的なイメージで捉えるのではなく、今後は彼/彼女らの意識や生活実態をより詳細に明らかにしていく必要がある。

9章:生徒・父・母三者間の「教育」と「社会」に対する意見の差異―自由回答欄の分析―

 本章では、調査票の末尾におかれている自由回答欄に書かれた記述を対象にして分析を行った。その結果、生徒・父・母三者間で自由回答の内容に違いが見られた。生徒が多く言及していたのは学校や教師、日本社会に対する意見であるが、トピックの幅は比較的限定されていた。逆に母親はトピックの幅が大変広く、特に子どもと家庭に対する意見が多かった。父親は母親ほどではないが、生徒よりは広いトピックに言及していた。母親自由回答の内容の幅広さには、母親の高い子育てへの関心が要因として考えられるのではないかと推察された。
 次に、8年前に実施された第4次調査と比較して、自由回答の内容に変化が見られるのか分析したところ、自由回答欄に書かれる言葉には、時代を反映する語の影響があることがわかった。例えば、「格差社会」という流行語が2時点間に人々に広まったことによって、公平感・平等感について述べる自由回答が増加したことがあげられる。また、自由回答欄は経済状況や雇用情勢にも影響を受けており、2時点間で経済や就職への言及が減少した背景には、景気の回復と就職状況の改善があった。
 本章では自由回答を総合的に分析したが、今後はより具体的な分析視角を持って、自由回答に挑んでいく必要がある。自由回答の内容と選択式質問項目を組み合わせて分析するなど、自由回答から得られる興味深い知見を今後の調査・研究に活かしていくべきである。

懇談会:「教育と社会に対する高校生の意識」をめぐって(6)

 本報告書に収められた論文の草稿を素材に、調査の実施にあたってお世話になった先生方や、この研究にご関心をお持ちの先生方にお集まりいただき、草稿に関するご感想や、最近の高校生や保護者の実態、今後の研究課題などについてお話をうかがった。


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