木村邦博の研究課題(04/02/12)


1.社会意識・階層意識の計量的分析

性別役割分業意識(たとえば「男は仕事、女は家庭」という考え方への賛否)や不公平感などの社会意識が形成されるメカニズムについて、社会調査データの計量的分析をとおして考えています。

その際、特に、

ということに注目して考えていきたいと思っています。このような視点は、「認知社会学 cognitive sociology」とでも言えるのかもしれません。すでに Raymond Boudon, Aaron V. Cicourel, Eviatar Zerubavel といった社会学者が、それぞれ独自に「認知社会学」を提唱していますが、私の構想しているものは Raymond Boudon のものに近いと考えています。(この意味での「認知社会学」を発展させることによって、社会学と、既に「認知革命」を経験した、行動科学・社会科学の他領域との協同が促進されるであろう、とも考えています。)

また、これと並行して社会調査データの蒐集法や分析手法についても勉強していきたいと思っています。特に興味があるのは、カテゴリカル・データの分析手法、認知科学等の知見の応用による社会調査法の改善、unobtrusive method (人のじゃまや迷惑にならないような形でのデータ蒐集法)などです。

2.社会的意思決定の数理モデル

2.1 集合行為と集団規模

経済学者の Mancur Olson は、The Logic of Collective Action (邦訳:集合行為論) の中で、消費者運動や労働運動など、共通の利害を持つ潜在的受益者が多い場合にはその利害が実現されにくい、と論じました。彼の議論はその後、様々な社会運動にも適用されるようになりました。私はこれまで、Olson 自身の数理モデルの問題点を指摘し、それにかわるものとして古典的なゲーム理論にもとづくモデルを提唱してきました。その中で、共通の利害を実現しようとする集合行為の成否に対して集団規模の効果が見られるかどうかはその共通の利害の性質や費用負担の方式による、集団規模の効果にも2種類ある、という理論的予想を導き出しました。また、この予想をどのような形で実証的研究に結びつけていけばよいかについても考察してきました。

2002年5月、このテーマに関するこれまでの研究成果をまとめた単著『大集団のジレンマ−集合行為と集団規模の数理−』(ミネルヴァ書房)を上梓することができました。今後も、この本で指摘した理論的・実証的課題に取り組んで行きたいと思っています。

2.2 合理的選択理論の応用

上述のような集合行為と集団規模の問題以外にも、「社会的行為/社会的意思決定の意図せざる結果」といえる現象が広範にみられます。これらの問題に取り組む際、ゲーム理論をはじめとする合理的選択理論は、強力な道具になると期待しています。

合理的選択理論に関する議論は、好意的な論調のものであれ批判であれ、「メタ理論」のレベルに終始してしまいがちです。これに対して私は、具体的な社会現象・社会問題の分析をとおして議論をしていきたいと思っています(これまでもこういう立場から、いろいろな領域でゲリラ的に活動してきたつもりです)。

また、人間の「合理性」について考えていくと、「状況認知」のメカニズムについても考えていかねばならなくなります。この点については、「1.社会意識・階層意識の計量的分析」で述べた「認知社会学」の構想とも関連してくると思っています。

3.その他

以上が、当面の研究課題です。私は興味が拡散的になりがちで、これ以外にも関心を持っていることが多いのですが・・・・・。それを活かし「学際性」に富んだよい研究成果をあげることができるよう、努めたいと思います。


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