リンクは自由!
『月刊言語』第28巻(1999)8月号, pp.106-107 掲載
このリレー連載の第2回(1998年2月号)で「人文科学全般」を 扱ってから、1年半が経過した。この期間は、現実世界の数倍のスピードで変化するとも 言われるネットワークの世界にとっては、決して短い期間ではない。そこで、今回は再び インターネットの人文系学術利用について、主として国内の事情を概観してみたい。
先に紹介した福島比呂子氏による「学術人文系メーリングリスト案内」 (http://orlando.jp.org/VWW/ML/mljpn.html) や筆者による「国内人文系研究機関WWWリスト」 (http://www.sal.tohoku.ac.jp/~gothit/zinbun.html)は 引き続き関係の情報をまとめたウェブサイトとして機能している。これをみれば、 人文系分野でのインターネット利用が拡大していることが分かる。しかし、インターネット全体の 拡大の方が一層急速に進んでいるために学術目的に有用な情報の比率はむしろ低下しているとも 考えられる。目的意識をもった利用のスタイルを確立する必要性はかえって高まっている と言えよう。
幸い、さまざまな学術サイトに散在する有用な情報を得るための手がかりとなるサイトが、 人文系に限定しないものも含めて、いくつも現れてきている。特徴をもつサイトを若干挙げれば、 岡本真氏による 「生成する目録」(http://www.ne.jp/asahi/coffee/house/BIBLIO/) と「データベース集成」 (http://www.ne.jp/asahi/coffee/house/DB/)、かみむらけいすけ氏による 「Online Resource Locator」(http://www.glocom.ac.jp/arc/orel/index.html) があり、それぞれウェブ上で閲覧・利用できる文献目録、データベース、学術論文の インデックスとなっている。東京大学附属図書館の 「インターネット学術情報インデックス」 (http://resource.lib.u-tokyo.ac.jp/iri/url_search.cgi) はまだ試行版でデータがそれほど多くないが、 本格的に運用されれば利用価値が高まるだろう。文献を系統的に探索する方法については、 多くの大学図書館が利用者向けにガイドとなるページを用意しているが、実践女子大学図書館の 「図書・雑誌探索」 (http://www.jissen.ac.jp/library/frame/index.htm)がもっとも 充実しているようであり、『インターネットで文献探索』という冊子も一般向けに配布してくれて いる。ここでは世界各国の事情も詳しく紹介されているが、残念ながら日本の文献の インターネットによる探索は現時点では諸外国ほど効果的には行えないことが確認できる。
検索サイトにも学術関連情報に力を入れる動きも見られ、例えば今年5月に模様替えした LYCOSの「芸術と人文科学」(http://www.lycos.co.jp/dir/art_and_humanities/)は、いくつかのジャンルに 関しては、工夫の跡が見られる。もっとも、検索サイトがもつ視点はそれぞれの分野の研究者の 視点とは異なるのが普通であり、その取り上げ方には一層の見識を期待したくなることも 頻繁にある。その評価を鵜呑みにすべきではない。
各大学の文学部やその他の人文系の研究機関も、現在では、自前のウェブサイトを持つのが 当たり前になってきている。中でももっとも意欲的かつ組織的に取り組んでいるのは 早稲田大学文学部(http://www.waseda.ac.jp/littera/)であろう。特に学術データベースを数多く公開している ことは特筆に値する。一方、数年を経てもなお実験的な運用にとどまっていたり、単に受験生向け 広報の役目しか負わされていなかったりするウェブサイトが数多いことも事実である。
インターネットが提供するのはインフラストラクチャに過ぎない。それが言語学や人文系の 学問一般に有益なものになるかどうかは、受信側・発信側双方の利用者の利用の姿勢に 依存することを、再び指摘しておきたい。
付記:永崎研宣氏による人文科学系サイトの全文検索エンジン 「Humanities-Search」 (http://alpha.fine.chiba-u.ac.jp:8080/~nagasaki/humanities-search/) も新たに登場した。
(ごとうひとし/言語学・ロマンス語学)
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