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『エスペラント』(La Revuo Orienta) 第76巻(2008)7月号, pp.6-7 掲載

『エスペラント日本語辞典』の使い方(7) 相互参照

後藤 斉


どの言語でもそうですが、単語はネットワークを成しています。一つ一つ ばらばらなのではなく、お互いにいろいろな関係を結んでいます。それらの関係の うち、エスペラントの語彙を最も強く特徴づけているのは、この連載で何度も 強調したように、語根を共有する単語同士の関係です。このため、この辞書では 語根のアルファベット順に配列して、その関係を捉えやすいようにしています。

単語同士の間にはそれ以外の関係もあり、意味の関連による結びつきも重要な ものです。もちろん語根を共有する単語は意味的にも関連していますが、同じ 語根から派生される単語同士は、辞書の中では一つの主見出し語の下の 副見出し語として近くに並んでいますから、意識することは容易でしょう。

一方、語根が違う単語同士の場合には、いくら意味的な関連が強くとも、辞書の 中では離れ離れに記載されることになります。これは、アルファベット順に配列する 辞書の宿命であって、避けようがありません。(なお、意味分類に基づいて単語を 配列するような辞書もありえますが、それは別のジャンルの辞書であって、話が 違います。)残念ながら、一般的な辞書では、単語の間にみられる意味的な関連を 十分に示すことが難しいのです。

それを補うために、辞書の中である項目の記述から他の項目を参照させるしくみ、 つまり相互参照があります。「別の項目も見よ」という指示のことです。 『エスペラント日本語辞典』は高度な学習辞典としての性質から、相互参照を積極的に 記述しています。意味の関連としては、同義関係、類義関係、反義関係が代表的な ものです。そのほかに、同じ分野に属するなど、もう少しゆるやかな関係も あります。

同義関係は「=」の記号で示していますが、最も分かりやすいものとして、 「Aĥilo アキレウス = Akilo」などのむしろ「別形」と言えるような場合、 「as-tempo 現在時 =prezenco」などのエスペラント内での造語とヨーロッパ語からの 借用語との競合の場合などがあります。ほか、「ĉi-matene 今朝 =en tiu ĉi mateno」の言い換えの関係、「manĝo 食事 = manĝado」の接尾辞などによる 明確化の有無なども、同じように扱われます。それほど数は多くありませんが、 「direktilo 操縦装置 =stirilo; teamo 班,作業グループ =skipo」など、 まったく別の語根から作られる語がほとんど意味の違いなく使われている場合も あります。

なお、語義によって同義関係が違う場合、同義の指示は、原則として、語義 単位でついていますので注意してください。また、Aの項には「=B」とあるのに、 Bの項には「=A」と記していないこともあります。Bの方がより一般的な言い方である 場合などにそうで、「suomo スオミ人,フィン人 = finno」がそれにあたります。

言語の学習で特に重要なのは類義の関係です。日本語のある単語と似た意味の 単語が二つ以上あって、その使い分けが問題にな事例です。ただ、きちんと使い分け ないと誤解を生じるような類義語もあれば、どちらでもほとんど同じこともあり、 それぞれの類義語の対ごとに事情が違います。「知っている」のkoniとsciiについては どちらを使っても同じことが伝わるという場面はあまりありませんが、「委員会」の komisionoは多くの場合にkomitatoで言い換えられそうです。

この辞書では、類義語を{類}の後に参照先として示していますが、それだけで なく、必要に応じて、語義の注記などで解説を加えています。さらに、学習の上で 特に理解しておいてほしい類義語同士は、「類語比較コラム」を設けて、対照的な 例文を挙げるなどして詳しく説明しています。挙げられている単語のリストが凡例の 直後にありますので、参考にしてください。

エスペラントでは、反義語はもちろん接頭辞 mal- によって生産的に作り出され ます。これは、エスペラントの基本事項ですから、この辞書ではlonga「長い」の項に わざわざ反義語として mallonga 「短い」を挙げて参照させるようなことはしません。 副見出し語として近くに記述されていますから、確認するのに手間はあまり かからないはずです。

しかし、意味的に対立する語が接頭辞 mal- 以外の手段によって作られることも あります。danĝera 「危険な、危ない」とsekura「無事な、安全な」はそのような 例であり、意味の関係から単語の形を予測することができません。このような単語は {反}の後に挙げることになります。実は、少し分かりづらい場合もあります。 vera の項では反義語参照として falsa が挙がっていますが、別にmal- のついた malvera もあって、副見出しとして載っています。このような場合は、意識的に 確認する必要があります。

そのほかに、語義や用法の上で関連する語も{参}記号の後に挙げています。 この項目に挙げる単語の範囲は特定しにくいのですが、同じ意味分野に属する単語を 挙げていることが多いのです。例えば、kuiri「料理する」の副見出しkuirilo 「調理器具」の項には poto, kaserolo, pato, rostokrado, plado, bovlo, vazo, marmitoが挙がっていて、さまざまな種類の調理器具の名前が一覧できます。

また、「関連語コラム」として、特定の分野に属する一群の単語をまとめて挙げる 記事もあります。例えば、kuiriのコラムには「調理法」の関連語として、kuiri自身の ほか、baki, boligi, brezi, brogi, bukani, dekokti, frikasi, friti, friteti, fumaĵi, kradrosti, rosti, stufi といった、調理法を表す動詞が多数挙げられて います。ここには簡潔な訳語がついていますが、これは目安であって、語義の正確な 理解のためには当該の単語を引きなおしていただくことになります。

このような相互参照を活用して、辞書を引くときには、単に個々の単語の意味や 用法を調べるだけでなく、単語の間にみられる意味の関連に基づくネットワークにも 注意してほしいのです。それによって、表現力は格段に向上するはずです。

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