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『エスペラント』(La Revuo Orienta) 第77巻(2009)6月号, pp.8-9. 掲載

de vorto al vorto (1) afabla

後藤 斉


今回から、個別の単語を取り上げて、その使い方を見ていくことにします。『エスペラント日本語辞典』(以下『エス日』と略称)を参照しつつも、辞書では扱いにくいものも含めて、エスペラントの単語の柔軟な使い方に広く目を向けてみようと思います。なお、見出しとして挙げるのは単語ですが、その語根から作られる派生語や合成語、意味的に関連する語などにも触れることになります。

今回取り上げるafabla は、『エス日』では、第1義として「〔人が〕愛想のよい, 気のおけない; ていねいな; 親切な」と、第2義として「〔行動・言葉などが〕ていねいな, 愛想のよい, もの柔らかな」といった訳語が挙がっています。この訳語から多くのことが伝わりますが、訳語だけでは分からない使い方にも気を配ってみましょう。

なお、afablaから作る副詞afableの形は見出し語としては挙がっていません。エスペラントの造語法からして、形容詞からは対応する副詞が自動的に作られるため、エスペラントの辞書の通例として記述の重複を避けているのです。多くの副詞を見出し語としてはわざわざ挙げずに、形容詞項目の中でいきなり例文で使っています。ただ、afableの頻度は十分に高いので、『エス日』では副詞でも挙げておくのがよかったかもしれません。

人の形容として使う第1義では、homo, sinjor(in)oなど人を表すさまざまな名詞とともに使うことができます。厳密に人でなくとも、人と同様の存在と捉えているのであれば、afabla hundoなどということも可能です。

さらに、海を指してafablaj akvojとした用例さえあります。船を翻弄する嵐の海に対して、穏やかな海を船に厚意を示していると擬人的に捉えての表現と考えられます。気軽に使える表現ではありませんが、時により性格を変える海の一面を描写するという状況では適切と言えるでしょう。

愛想のよさを見せる相手を指すには、前置詞kontraŭやkun, porなどを使った実例もあるようですが、一番普通で無難にはalを使います。『エス日』には例文Estu afabla al la klientoj. が挙がっています。

一方、人以外を形容する第2義では、いくつかのグループの名詞が特徴的に現れます。まず、人の心理を表すkoro, sincerecoなどがあり、第1義と直接つながっているとも言えます。顔の表情に関連したrideto, mieno, vizaĝoなどもそれに近いですが、心を表情に表す行為も含まれています。kun afabla ridetoという表現は使いでがありそうですし、rigardi per afablaj okuloj も気がきいています。人あたりのよさが言葉に表れれば、afabla(j) vorto(j)ですし、afabla voĉo, tonoで話すことになります。

もっとはっきりと行為を意味する名詞がafablaとつながることも多く、permeso, invito, akcepto, propono, salutoのほか、多くの行為名詞が現れます。これに対応して、副詞のafableはdiri, paroliなど多くの動詞を修飾することができますが、意味からしてkonsenti, inviti, prizorgiなど、それ自体で相手に対する厚意となっている行為を示す動詞と一緒に使いやすいでしょう。また、行為は単独の名詞や動詞で表されるばかりでなく、Estas afable ke vi pensas pri tio.のようにke節になることもあります。

afablaの特徴的な使い方として、相手や第三者の行為をていねいにいう、日本語の敬語に近い表現があります。afabla leteroは、内容において愛想を見せているものであるかもしれませんが、わざわざ書き送ってくれたという点で愛想がある場合もあるでしょう。この場合、afablaの本来的な意味にあまりこだわる必要はなく、「お手紙」くらいに理解して差し支えありません。この用法は、『エス日』の例文 Mi dankas vin pro via afabla ĉeesto.「ご出席いただき, ありがとうございました」のように、感謝表現で特に使いやすい言い方です。

同様に副詞afableの場合にも、単に「愛想よく、親切に」という副詞の対応語を考えるより、その行為が相手に厚意を示すことになっていることから、「〜してくれる」「〜してくださる」「〜していただく」などに当たると受け取っていい場合があります。Li afable malfermis la pordon por ni.「彼はドアを開けてくれた」などです。

afabla をもとに作った動詞 afabli の形を使うのはエスペラントらしい表現です。これは esti afabla とほぼ同義で使われます。もう一つの用法として、この動詞は別の動詞の不定形とともに Ŝi afablis regali nin.「彼女は親切にもわれわれにごちそうしてくれた」のように使うことができます。

afablaと意味が近い単語としては、ĝentilaがあり、ĝentila kaj afablaと重ねて使われることもあります。『エス日』では、「礼儀正しい, 礼節をわきまえた; ていねいな」といった訳語が挙がっています。ĝentilaは、人を指す名詞のほか、gesto, maniero, konduto, ridetoなどしぐさを指す名詞、またpeto, demando, alparoloなどの行為名詞とともによく使われます。afablaと似ているところもありますが、afablaが心と関係しているのに対して、ĝentilaはむしろ外面的な礼儀正しさを指しているようです。ĝentile rifuzi は十分に可能な表現ですが、それに比べてafable rifuziは、実例はあるものの、すわりが悪く感じられます。

このほかに、bonkora, bonvola, favora, helpema, komplezaなどの形容詞もafablaと意味的に重なる部分があります。さらに、zorgaも文脈によっては「ていねいな」と訳せることに注意しましょう。「細かいところまで配慮がゆきとどいている」という意味の場合で、zorga preparo, esploro, laboroなどとしてよく使われます。これはafablaなどと意味が離れていて、言い換えることはできません。

反対語malafabla「無愛想な」の用法はおおむね類推できるはずです。ただ、意味からして、murmuro, grumblo, silentoなどの行為名詞と一緒に使いやすいことは特徴的と言えるでしょう。また、上述の敬語用法はありません。

afablaから作られる合成語はあまり多くありませんが、mediafabla「環境に優しい」は現代的であって、使う機会もあることでしょう。なお、PIVは類義語としてmediindulgaも挙げており、ほかにmediamikaの実例もあります。


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