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『エスペラント』(La Revuo Orienta) 第79巻(2011)3月号, pp.11-12. 掲載

de vorto al vorto (19) kosti

後藤 斉


『エス日』では、kostiの第1義を「【自・線】≪iel≫<ある金額だけ>値段がする」と、第2義を「【他・線】≪ion≫<出費・損失を>要求する」としています。辞書ではいくつかの典型的な使い方を取り上げることになるので、このように分けることになりますが、実際の使い方はそれほどはっきり区別できるものではありません。

第1義は、例文La libro kostas dek mil enojn.「その本は1万円する」のように、具体的な物の値段の表現に使う場合は思い浮かべやすく、実際に使う機会も多いでしょう。この文は、La prezo de la libro estas dek mil enoj.とprezoを使って言うこともできます。しかし、kostiとprezoがいつでもこのように対応する訳ではありません。

日常語のレベルでは、prezoは「値段, 価格」で、たいていの場合、具体的な物品に関して使われますが、la prezoj de manĝaĵojのように不特定多数の物の値段についてももちろん使えます。一部のサービスについても使われることもあります。la prezo de la tranoktado「宿泊の値段」などです。la prezo de laborfortoj「労働力の価格」となると、むしろ専門用語としての使い方でしょう。

これに対して、kostiは、具体的な物やサービスの値段に関してだけでなく、関係する費用を合わせて捉えている場合にも使えます。Aliĝo/Eniro/Partopreno kostas ....「加入/入場/参加には〜かかる」、La kuracado kostas multe.「治療には多額の費用がかかる」、La studoj por fariĝi kuracisto kostas ....「医者になるための勉学には〜かかる」などです。

補足語としてdek mil enojnのような具体的な金額が伴うのが普通ですが、それ以外にも(mal)multe, iom, kiom, (mal)pli, duobleなどの副詞、monon, grandan sumonなどの「お金、金額」の意味の名詞の対格形が伴うこともあります。それほど多くはありませんが、kosti nur poŝtmarkon「切手一枚分の値段しかしない」、kosti la jarsalajron「年収分だけかかる」のように、金額の目安になるような表現を続けることも可能です。

La nova licenco kostas ....と言っても、免許に値段が付いていて、その金額を出しさえすれば売ってくれるものでもないでしょう。「新しい免許を取得するには〜かかる」あたりでしょう。La filo kostis monon.「息子にはお金がかかった」は、普通には、「息子の養育に」でしょう。「関係する費用」の範囲は状況によって異なるのです。

そのため、前後関係が不十分だとあいまいになる可能性があります。Tiu servo kostas monon.「そのサービスにはお金がかかる」は、利用者側から見た利用料のことか、運営者側から見た運営経費のことか、二つの解釈が可能です。Komputilo kostas monon.は、買う時の値段のことかもしれないし、ランニングコストのことかもしれません。

費用がかかる先を明示するためには、前置詞alを使うことができます。La vojaĝo kostis al mi neniom.「その旅行は私には全然費用がかからなかった」、Tiu projekto jam kostis al ni konsiderindan sumon.「その計画は私たちにもうかなりの出費になっている」。

「費用」は本来的にはお金の問題ですが、「何かを得るために必要な負担」のようにより広く捉えれば、努力や時間なども含むことになります。La ellernado de fremda lingvo kostas multan tempon kaj laboron.「外国語習得には多くの時間と労力がかかる」などです。さらに、何かを埋め合わせるための負担にも転化します。kosti la vivon「命取りになる」、Ĉi tiu eraro kostis al mi multe.「その間違いは私には高くついた」、skandalo, kiu povus kosti la postenon「地位を失いかねないスキャンダル」などです。 このような表現では負担が大きいことを印象づけられますが、これが『エス日』の第2義に当たります。訳語だけを取り出すと見えにくいのですが、第1義と第2義はこのようにつながっているのです。

名詞kostoは、具体的な物の値段について使うことはあまりなく、たいていは「経費、負担する費用」の意味で使われます。la kosto de vojaĝo「旅行費用」、la kosto de eldonado「出版費」、administra kosato「事務経費」などです。ここから、sendokosto「送料」、produktokosto「生産費」などの合成語も多く作られます。

la kosto de la multlingveco「多言語使用のコスト」などでは、お金に換算できない負担を含むこともあるでしょう。

その意味からしてkostoがpagi, ŝpari, reduktiなどの他動詞の目的語としてよく使われることは分かりやすいでしょう。kovriとも相性がいいことは気づきにくいかもしれません。La prezidanto kovros la kostojn por la gasto.「会長がゲストの費用を引き受ける」やLa kotizoj ne kovras ĉiujn kostojn.「会費では全ての費用をまかなえない」といった使い方があります。

je ies kostoはよく使われる結びつきです。vojaĝi je la kosto de la firmao「会社の経費で旅行する」、je la kosto de la sendinto「送り主の費用負担で」のように元の意味が残っていることもありますが、reformo je kosto de la salajruloj「給与生活者にしわよせがくるような改革」、je kosto de efikeco「効率を犠牲にして」のように、お金以外の負担を含めて使うこともよくあります。なお、この場合、kostoに冠詞を付けるかどうかは微妙ですが、koste de ...とすれば悩まなくともよくなります。

je [per] ĉiu(j) kosto(j), je [per] ajna kostoになると、お金の意味から離れて使うことが普通でしょう。「どんな犠牲を払っても」に当たります。

形容詞kostaは、「費用のかかる」の意味で使われます。Tiu libro estas kosta.「その本は高い」のように、具体的な物の値段に関して使うこともありますが、費用や経費をもっと広く捉えて言うことが普通です。kosta projekto「経費のかかる企画」、kosta lando「お金がかかる国」、kosta solvo「コストを伴う解決」など。なお、実際の例では、(mal)pli, (mal)plej, ege, tre, troといった副詞が付いていることがよくあります。

この語根から作られる合成語でよく使われるものには、(mal)multekosta, senkostaなどもあります。proprakoste「自費で」も挙げておきましょう。出版や旅行の文脈で使われています。


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