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『エスペラント』(La Revuo Orienta) 第78巻(2010)4月号, pp.12-13. 掲載

de vorto al vorto (10) peni

後藤 斉


動詞peniは、『エス日』で基本義として、「目的達成のために肉体的ないし精神的に力を尽くす」とした上で、代表的な訳語として「努力する, 努める」を挙げています。他の表現を当てることもできて、例えば「一生懸命〜してみる」が当てはまる場合も多いでしょう。

達成すべき目的に当たるのが自分で行うべきことがらであれば、動詞不定形 -iで表すのが普通です。Mi penis rememori ŝian vizaĝon. 「私は彼女の顔を思い出そうとした」などです。なお、「〜しないよう努力する」は、Mi penis ne perdi la vojon. 「道に迷わないよう苦労した」のように、peni ne -iとなります。

目的に当たるのが自分の行うべきことでなければ、peni, ke mondpaco efektiviĝu 「世界平和が実現するように努力する」のように、ke節で表します。ke節の中の動詞は意志法 -uとなるので、『エス日』の動詞型の表示≪-i, ke≫は ≪-i, ke -u≫とすべきでした。

また、例は少ないのですが、peni por paco, peni en lernado, peni super krucvortojといった使い方も見受けられます。ここでの前置詞は、名詞の意味に応じていくつかの可能性がありますが、このような場合にsuperがさらりと出てくるようになりたいものです。

peniを強めるには、副詞multeが一番使いやすいようです。ほかにtre, forte, sincereも使えますし、状況によってobstine, daŭre, serioze, senlace, diligenteなどもよいでしょう。per ĉiuj fortoj, per ĉiuj rimedoj, per sia tuta kapabloなどとすると、非常に強い努力のさまを描写することができます。

名詞にすればpenoです。これは「努力」でもよいのですが、むしろ「骨折り、苦労」と考えた方がわかりやすい場合も多いようです。「さまざまな苦労」の含みでmultaj penojと複数でいうこともありますが、全体をまとめてpenoと言ってもいいでしょう。接尾辞-ad-をつけてpenadoとすると「努力」であることがはっきりします(『エス日』で「長年の努力」とあるのは限定しすぎでした)。

「〜する努力,苦労」は、peno atingi interkomprenonのように、動詞不定形を直接続けますが、「〜するための」と考えてpeno por -iとすることもできます。

伝えたい内容に応じていろいろな表現で使うことができるのはもちろんですが、この単語の使い方にはいくつか目立つパターンがあります。一番目立つのはkun peno「苦労して、懸命に」です。Kun peno mi trovis liberan lokon.は「やっとのことで空いている場所をみつけた」でしょう。強調するなら、kun granda peno, kun multe da penoなどです。なお、前置詞としてkunを伴うのが最も普通ですが、perも可能です。また、postを使ってpost longaj penojならば、「ずっと苦労した後に(ようやく)」の感じが表されます。

少し弱めたければkun iom da peno「いくぶん苦労して」でしょうし、もっと弱めたければsen peno「苦労せずに」、sen granda peno「大した苦労なしに」、sen aparta peno「これといった苦労なしに」などと応用することななります。さらに、ne sen peno「苦労なしというわけでなく」、kun ne malmulta peno「少なからず苦労して」といったバリエーションも広がります。

もう一つよく見られるパターンは、valori[indi] la penon「苦労に値する、手間をかけるだけのことがある」です。Valoras la penon pripensi la temon.「そのテーマを考慮してみるだけのことはある」のように動詞不定形を主語にすることがよくあります。また、Tio ne valoras la penon.のように否定でも使いやすいようです。

また、fari (al si) penon「手間をかける」という組み合わせもあります。fariのかわりにdoniを使うこともあるようです。これだけで使うこともできますが、動詞不定形が続くこともあって、その場合は「わざわざ〜する」にあたるでしょう。Li faris al si la penon skribi en la angla.「わざわざ英語で書く手間をかけた」などです。状況からpenoが特定化されていると感じられるのであれば、penoに冠詞をつけておきましょう。その反対に「手間をかけないですませる」は、ŝpari (al si) penonです。

形容詞penaも「努力を伴う」ですが、「骨の折れる、つらい」と受け取って構いません。penigaも同義です。pen(ig)a laboroという表現でよく見かけますが、ほかにtasko, tago, vivoなどの名詞と一緒に意味的に結びつきやすいようです。。

pen(ig)aがpeniやpenoとつながっているという造語法上の関係は、laciga「疲れさせる、つらい」、peza「重い;耐え難い、つらい、厳しい」、ŝvitiga「発汗性の;〔仕事などが〕苦労の多い、つらい」、dolora「痛い、苦しい、つらい」、severa「厳格な;〔状況が〕耐え難い、つらい」などの類義語とのニュアンスの違いを理解する上で重要です。pena [laciga/peza/ŝvitiga] laboroがありふれた表現であるのに比べると、dolora [severa] laboroは熟した表現とは言えないのです。

動詞klopodi「尽力する, 骨を折る」やstrebi「全力を尽くす, まい進する」はpeniと意味的にかなり重なる部分があって、どれを使って表してもよい場面もあるかもしれません。しかし、klopodiは「目的の達成のために様々な手段を講じる」ところに、strebiでは「目的達成のために一心不乱に突き進む」ところに意味の力点があるようです。

おそらくこのようなことを反映して、klopod(ad)oやstreb(ad)oという行為名詞はよく使われますが、その一方でklopodaやstrebaという形容詞での使い方はあまり目立ちません。

『エス日』の動詞型表示や例文からは漏れてしまいましたが、Mi klopodis (por) konvinki lin.「彼を説得するよう手を尽くした」のようにもよく使われます。strebiもLi strebis atingi la celon.と使えますが、strebi al pacoのように前置詞alで目標を表すこともよくあります。

peniは基本的な日常語で、個人のありふれた行為にはぴったりですが、組織体を主語としては少し使いにくく感じられます。klopodiにはこのような偏りはみられないようです。一方、strebiは、ザメンホフ訳『アンデルセン童話』にも使われていて個人の行為を表すこともできるものの、どちらかというと硬く、論説文や報道文などの文脈で組織などを主語にして使いやすいようです。


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