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『エスペラント』(La Revuo Orienta) 第81巻(2013)1月号, pp.20-21. 掲載

de vorto al vorto (36) ŝovi

後藤 斉


『エス日』ではŝoviの第1義を「押し動かす, 押しやる, 押しずらす」としています。類語として挙がっているpuŝiは「向こう側に移動させる意図を持って, 対象に力を加える」ことで、対象物が移動するとは限りません。実際に移動させているという点で、moviに近いところもあります。

なお、puŝiの項の「類語比較」では、ŝoviについて「物を水平方向に押しやること」とありますが、これは必ずしも適切ではありません。ŝoviの意味のポイントは「対象物をある物の表面に沿ってずらすように動かす」というところにあるようです。

この意味は少し複雑であって、単純に対応させられる日本語の単語は見当たらないようです。そのため、ŝoviはpuŝiやmoviに比べると少し使いにくく感じられるでしょうか。確かに他の動詞を使って言い換えられる場合も少なくありません。しかし、ŝoviはエスペラントの単語としては比較的重要度の高いランクBの単語であり、使いこなしてエスペラントらしい表現に近づきたいものです。

この単語の意味を最も具体的に思い浮かべやすいのは、例文ŝovi sofon en angulon「ソファーを隅に押しやる」の例でしょう。ソファーを持ち上げたりせずに、床の上を押して動かす場面です。いくぶん抵抗を受けながら、それを上回る力を加える様子がこの動詞を使うことで表現されています。

ŝovi ĉapon malsupren「帽子を深くかぶる」、ŝovi ringon sur sian fingron「指輪を<自分の>指にはめる」では水平の動きではありませんが、頭や指の表面に沿うように、多少とも力を込めて帽子や指輪を動かす動作を表しています。

ほかに、ŝovi ŝlosilon en la seruron「鍵を錠前に差し込む」、ŝovi ponardon en ies koron「短剣を<人の>心臓に突き刺す」、ŝovi la okulvitrojn supren sur la frunton「眼鏡を額にずり上げる」、ŝovi libron sub la kapkusenon「枕の下に本を差し入れる」などの動作も、ŝoviを使って表すことが適切です。

ŝovi al iu monon en la manon「<人に> 金を握らせる」では、受け取る側の意思とは無関係にお金を渡している(あるいは、さらに、意思に反して押し付けている)ような様子が表されます。

上の例のように、ŝoviの目的語となる対象物が、多くの場合に、人の手で動かせるような物体であることは、その意味からして当然でしょう。体の一部を表す名詞もよく目的語になります。ŝovi manon en la poŝon「ポケットに手を突っ込む」、ŝovi la piedojn en sandalojn「足をサンダルに突っ込む」、ŝovi la kapon tra fenestro「頭を窓からさし出す」などです。

対象物は人でもありえます。ŝovi iun flanken「<人を>押しのける、どかせる」などです。例文Oni ŝovis ŝin antaŭen.「彼女は前に押し出された」のように人称代名詞で現れることもよくあります。

さらに、再帰代名詞を使ってŝovi sinとする表現も可能です。ŝovi sin inter branĉojn de arbustoj「灌木の枝の中に分け入る」などです。もちろん主語が3人称以外であれば形としては一般の人称代名詞と同じです。Mi sukcesis ŝovi min en la vagonon.「なんとか自分の体を車内にねじ込むことができた」は、ラッシュの電車に無理やり乗り込むような場面で使えそうです。修飾語句をつける場合にはsia korpoとする方がいいでしょう。ŝovi sian dikan korpon al giĉeto「自分の太った体を窓口に向かって差し入れる」も窓口の前が混雑している状況が想定されます。

ŝoviの目的語がより抽象的なものになることもあります。例えば、ŝovi citaĵojn en paroladon「スピーチに引用句をはさみ込む」、ŝovi alineon al la fino de teksto「段落を文章の末尾に持っていく」などです。ŝovi la eventon al la apuda dimanĉo「行事を近くの日曜日にずらす」、ŝovi la decidon al fora estonteco「決定を遠い将来に先送りする」のような、日どりに関係している場面もあります。また、ŝovi respondecon al alia persono「責任を他人に押し付ける」、ŝovi la kulpon al ekstera faktoro「外的な要因のせいにする」など責任について語る場合もそうです。

『エス日』で第2義としている語義も、転義で抽象的に使われている場合です: Ne ŝovu vin inter edzo kaj edzino.「夫婦のことに口出しをするな」。Ne ŝovu la nazon en fremdan vazon.「他人のことに鼻を突っ込むな」はザメンホフ訳『ことわざ集』に載っている定型的な表現でした。

動詞ŝoviと移動の方向を示す副詞句だけでも十分に意味を伝えられそうですが、ŝoviに前置詞や副詞を接頭辞的につけることで動かす方向などをより明確に伝えることもよくあります。例えば、前置詞alをつけることで、近づける方向での動きが表せます。alŝovi al si mikrofonon「マイクを自分の方に引き寄せる」、alŝovi sian seĝon pli proksimen「自分の椅子を引き寄せる」などです。

ほかに、deŝovi ŝtonojn「石をどかす」、deŝovi kurtenon「カーテンを引き開ける」、disŝovi kurtenojn「カーテンを両側に引き開ける」、elŝovi la langon「舌を突き出す」、elŝovi tirkeston el tablo「机の引き出しを開ける」、elŝovi sin el fenestro「窓から身を乗り出す」、Enŝovu la balotilon en la malgrandan koverton.「投票用紙は小封筒に入れること」、enŝovi interesajn epizodojn en rakonton「話におもしろいエピソードを挿入する」、forŝovi neĝon「除雪する」、forŝovi riskojn「リスクを取り除く」、forŝovi proponojn al la venonta kunsido「提案を次回の会合に先送りする」などがあります。

また、subŝovi, traŝovi, interŝovi, kunŝoviなどの派生語が使われることもあります。

ŝoviĝi「ずれる; じりじりと進む」は頻度がそれほど高くはありませんが、ŝoviの使い方に対応して、多様な使われ方をしています。Li ŝoviĝis al la pordo.「ドアの方ににじり寄った」、El la okcidento ŝoviĝas nuboj alportantaj pluvon.「西から雨をもたらす雲がじりじりと進んできている」、Neĝamaso ŝoviĝis malsupren de la arbo.「雪の塊が木からすべり落ちた」、La limdato ŝoviĝis al la fino de marto.「〆切は3月末にずれ込んだ」などです。

さらに、elŝoviĝi, enŝoviĝiなどの派生語が使われることもあります。Ni elŝoviĝis el fenestro.「窓から抜け出た」、Dum transkopiado enŝoviĝis eraroj.「転写している間に誤りがもぐりこんだ」などです。

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