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『エスペラント』(La Revuo Orienta) 第81巻(2013)2月号, pp.20-21. 掲載

de vorto al vorto (37) trudi

後藤 斉


『エス日』でtrudiの第1義の前半は「≪ion+al iu≫押しつける, 強いる」と説明してあります。訳語だけに注目すると誤解しかねないのですが、この動詞が具体的な目に見える物体を他の物体に物理的に押しつける動作を表して使われることはあまりありません。

この動詞が主に表すのは抽象的な押しつけで、そのことは例文から読み取れます。trudi al iu tedan laboron「<人に>退屈な仕事を押しつける」、Oni trudis al ŝi pezan ŝarĝon [respondecon] malgraŭ ŝia volo.「彼女はいやおうなく重荷[重責]を押しつけられた」、trudi al iu severan kondiĉon「<人に>厳しい条件を強いる」、trudi al iu sian opinion [manieron]「<人に>自分の考え[やり方]を押しつける」、La milito trudis al la lando ekonomian regreson.「戦争のため国の経済は後退を余儀なくされた」などです。

この動詞の意味からして、trudiの目的語になるのは、相手の人が望んでいないさまざまな状況です。上の『エス日』の例文では、teda laboro, peza ŝarĝo [respondeco], severa kondiĉoのように、目的語を修飾する形容詞によって、いかにも相手が嫌がりそうな状況がはっきりと表されています。sia opinio, manieroのsiaも動作主が一方的に押しつけている状況を示唆するものです。regresoのように、名詞自体が望ましくない事態を表すものであることもあります。

辞書の例文は文脈から切り離されているので、このように典型的な例文が並んでしまいます。しかし、実際の用例では、相手が望んでいないという性質が目的語そのものに現れているとは限りません。trudi reformon, planon, rapidan decidonなどのつながりでは、相手の意思に反していることは動詞そのものと文脈とが伝えることになります。なお、相手の意思に反することを強調したい場合には、malgraŭ ies volo「<人の>意思に反して,いやおうなく」やperforte「無理やり」のような副詞句をつけることもあります。

第1義の後半「≪al iu+ke -u≫無理じいして<人に>…させようとする」として使われることはそれほど多くありませんが、Li trudis al mi, ke mi faru tion.「彼は私にそれをするよう強いた」のような用例があります。『エス日』には挙げてありませんが、trudi al ni studi la anglan「私たちに英語を学ぶよう強いる」、La projekto trudis al ni labori kune.「その計画はいやおうなく私たちが共同で作業するようしむけた」、Li per kruda movo trudis ŝin sidiĝi.「彼は手荒に彼女を座らせた」などといった構文で使われている実例を見受けることもあります。

第2義「≪ion+en io/ion≫無理やり中に入れる」は第1義ほどよく使われてはいませんが、『エス日』の例文trudi escepton en regularon「規則の中に無理やり例外規定を盛り込む」からも分かるように、表すのは主に抽象的な事態です。もっとも、あまり目立ちませんが、trudi tranĉilon en ies gorĝonのような実例は散発的には見られます。

この第2義からつながっているのが、第4義です。自分自身を表す再帰代名詞が対格形sinとして目的語になっている場合で、「<人の前に>でしゃばる, しゃしゃりでる; 割り込む」の訳語が挙がっています。Li malĝentile trudis sin en nian konversacion.「彼は不作法にも私たちの会話に割り込んできた」が分かりやすいでしょう。

この用法では、自分の体を押し入れるという、即物的な状況を表して使っている実例もいくらか目立ちます。trudi sin en vicon「列に割り込む」などです。この例文ではŝovi sin en viconと言い換えることもできそうですが、ŝovi sin en ...は物としての自分の体を押し込むことにもっぱら焦点が当てられているのに対して、trudi sin en ...では他者の意思を無視する迷惑という面も同時に伝えられています。

ほかにLi volis trudi sin en la domon.「彼はその家に押し入ろうとした」、Iuj maljunuloj trudas sin al la junaj.「若者に対してでしゃばろうとする老人もいる」などの例もあります。

主語になるのは基本的には人ですが、抽象物を主語にして使う例も見られます。『エス日』の例文Ekonomio ĉiam sin trudas en nia vivteno.「うちでは生活の中にいつも節約が顔を出す[節約せざるをえない]」だけからは分かりにくいかもしれません。「自らを押しつける」というところから「いやおうなく迫ってくる、避けがたい」に転じているのです。La penso trudis sin en mian menson.「その思いはとどめようもなく私の脳裏に入りこんできた」、Sin trudas la neceso de internacia lingvo.「国際語の必要性は必然である」、Al mi trudas sin la demando...「私には…という疑問がいやおうなく迫ってくる」、Miskompreno preskaŭ trudas sin.「誤解はほとんど避けられない」のように使われることもあります。少し硬めの、凝った表現と言えるでしょう。

trudiに特徴的なこととして、語義を強めるために、前置詞を接頭辞的に添えることがよくあります。第1義ではalをつけてaltrudi sian volon al la aliajのように、第2義と第4義ではenをつけて、entrudi sian opinion en fremdajn aferojnのようになります。

もう一つ特徴的なのは、受動分詞trudita, trudataの形で使われることが多いことです。trudita unuiĝo, solvoやkontrakto brutale trudita de la venkinto「勝者に乱暴に押しつけられた協定」、ĉu libervole, ĉu trudite「自由意思にせよ、強いられてにせよ」、Demokratio ne povas esti trudata de ekstera forto.「民主主義は外からの力で押しつけられるものではない」などです。altrudiも同様にaltrudita reklamo「押しつけ広告」などと使われます。

形容詞truda、副詞trudeの形でも比較的よく使われています。『エス日』の用例でも十分なのですが、いくつか補足しておきましょう。Oni malkonsilis tro trudan elmontron de la verda stelo.「緑星章をおしつけがましく見せびらかすことを戒めた」、trude silentigi「無理やりだまらせる」、trude varbitaj junuloj「無理やり集められた若者たち」、trude postuli la neeblon「無理やり不可能を要求する」などです。

派生動詞trudiĝiは、Strangaj epizodoj foje trudiĝas en la rakonton.「奇妙なエピソードが時として物語に割り込んでくる」のように使われますが、むしろ「避けられないものとして迫ってくる」の語義での用例の方が目立ちます。Drastaj korektoj trudiĝas.「思い切った訂正が避けられない」などです。


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