各教員紹介(その他のひとびと)

田辺元 [1885年-1962年]

 1885年2月3日、東京生まれ。田辺は京都学派の中心的人物として知られるが、1913年に東北帝国大学の前身である東北帝国大学理科大学へ招聘され、「科学概論」を担当していた。当時の理科大学では、各専門教育に進む以前に学生が共通して聴講できる随意科目が設定されており、そのなかに「科学概論」が含まれていた。田辺はその後、西田幾太郎の推輓により1919年には京都帝国大学へ転出するが、それまで6年にわたって科学哲学の研究に打ち込んだ。その成果は、1915年の『最近の自然科学』(岩波書店)、東北帝国大学での講義をもとにした1918年の『科学概論』(岩波書店)、また1916年のポアンカレ『科学の価値』(岩波書店)の翻訳というかたちで結実した。田辺が先鞭をつけた科学哲学研究の伝統は、改組を経たあと東北帝国大学理学部、また法文学部へ引き継がれ、小山鞆絵、高橋里美、三宅剛一らによってより豊かなものとなっていく。

代表的な著作

  • 『最近の自然科学』岩波書店、1915年。
  • 『科学概論』岩波書店、1918年。
  • (翻訳)ポアンカレ『科学の価値』岩波書店、1916年。

参考文献

  • 野家啓一「東北大学と科学哲学の伝統」『思索』53、東北大学哲学研究会、2020年。

武市健人 [1901-年-1986年]

武市健人

 1901年5 月1日、高知県長岡郡大篠村生まれ。1925年、東北帝国大学法文学部哲学科入学。37年、東北帝国大学附属医学専門部教授。武市は東北帝国大学在籍中に、高橋里美とヘーゲル『哲学概論』を、鈴木権三郎(東北帝国大学助教授)と同『大論理学』を翻訳した。この間、一貫してヘーゲル研究に携わっていたが、これは学生時代から晩年にまで至る経済学者宇野弘蔵(1897年〜1977年、東北帝国大学在籍は1924年から38年まで)との交流から影響を受けたものであった。武市は早い段階から宇野の演習に出席することで、ヘーゲルとマルクス『資本論』の関係について関心を抱くようになったらしい。38年に宇野が人民戦線事件に連座して検挙されたあとも、こうした関心に基づく検討は継続的に続けられ、戦後おおきく花開くことになる。1949年、神戸大学文理学部。1950年、「ヘーゲルの論理学」で文学博士(東北大学)。1986年死没。

代表的な著作

  • 武市健人『歴史的存在論の研究:実在的存在と体系的存在』桜井書店、1943年。
  • 『武市健人選集』福村出版、1971年。
  • ヘーゲル『哲学概論』高橋里美、武市健人訳、岩波書店、1932年。
  • ヘーゲル『哲学史』武市健人訳、岩波書店、1934年。

参考文献

  • 清水正徳「解説・『ヘーゲル論理学の体系』をめぐって」『ヘーゲル論理学の体系』こぶし書房、1995年。

三宅剛一 [1895年-1982年]

三宅剛一

 1895年1月1日、岡山県朝口市生まれ。1916年、京都帝国大学入学。卒業後、旧制新潟高等学校を経て、1924年に東北帝国大学理学部助教授。三宅は、田辺、小山、高橋と引き継がれた「科学概論」を担当した。理学部在職中の1933年、岩波講座『哲学』のために論文「哲学と数学との交渉」を執筆。その後も、38年に『文化』第五巻第十一号(東北帝国大学文学研究会)に掲載された論文「近代科学の思想系譜」、同年『哲学及び宗教と其歴史 : 波多野精一先生献呈論文集』所収の「存在と無限 無限の概念についての哲学史的考察」を執筆するなど、科学哲学に関する研究を精力的に進める。これは、田辺以来の東北帝国大学における科学哲学研究の流れを形作るものであった。一連の研究の成果は、1940年の名著『学の形成と自然的世界』に結実する。1946年、新制大学となった東北大学文学部哲学第三講座の教授職に就き、48年には第一講座に移る。この間、現象学研究に携わり多くの後進を育成したあと、54年に京都大学へ転出。58年から65年には学習院大学教授の職にあった。1982年10月8日、死没。

代表的な著作

  • 「哲学と数学との交渉」『岩波講座哲学』、岩波書店、1933年。
  • 『学の形成と自然的世界』弘文堂書房、1940年。
  • 『数理哲学思想史』弘文堂書房、1947年。
  • 『ハイデッガーの哲学』弘文堂、1950年。
  • 『十九世紀哲学史』弘文堂、1951年。

参考文献

  • 三宅剛一『論理学講義(新潟高校講義) 科学概論』中川明博(編)、学習院大学研究叢書、2008年。
  • 酒井潔「解説」『三宅剛一「人間存在論の哲学」』酒井潔(編)、燈影舎、2002年。
  • 野家啓一「東北大学と科学哲学の伝統」『思索』53、東北大学哲学研究会、2020年。

哲学会資料

東北大学の哲学倫理学合同研究室に残されていた歴史的資料、「哲学会記録」。 東北帝国大学(東北大学)における1931年2月18日から1963年にかけての哲学研究の実体が記されている。 東北帝国大学期に関しては、「哲学会例会」と称される研究会が一年に一度、「哲学会談話会」と称される研究会が定期的に開かれていたことが窺える。 また、教員・学生間の懇親のためのリクリエーションに関する記録(散歩会など)も残されている。 現在、本資料は東北大学史料館に収蔵。

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