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『エスペラント』(La Revuo Orienta) 第77巻(2009)8月号, pp.6-7. 掲載

de vorto al vorto (3) varma

後藤 斉


日本語には、温度の高いさまを表す基本的な形容詞として、「あつい」と「あたたかい」の二つがあります。気温などについては「暑い」「暖かい」と書き、物体などの温度には「熱い」「温かい」と書き分ける習慣ですが、これは単に表記上のことでしょう。一方、温度の低さを表す形容詞は、気温についての「寒い」と物体などについての「冷たい」ですが、気温についてはもう一つ「涼しい」があります。

「あつい」と「あたたかい」および「寒い」と「涼しい」の違いは、単なる温度の程度差というより、「あたたかい」と「涼しい」では快適さが大きな要因として加わっているところにあります。これらの少数の形容詞も結構複雑な関係を成していると言えます。

エスペラントでこれに相当するような基本の形容詞は、varma(『エス日』では「暖かい, 熱い, 暑い」)と、接頭辞 mal- によるその反対語 malvarma(「冷たい; 寒い」)だけです。日本語を基準に考えると、varmaは「あつい」なのか「あたたかい」なのか、どちらかに決めてくれ、と思いたくなるかもしれません。しかし、そのような考えは筋違いです。エスペラントの語彙体系は日本語とは異なっており、単純に対応づけることはできません。エスペラントには、基本語としては、「あつい」と「あたたかい」を包含する varma しかないのです。

なお、英語の warm/hot, cool/cold (あるいは、他の言語での温度形容詞の使い分け)も、その言語の語彙体系において決まっていることです。この場合にも、それぞれの単語をエスペラントの一単語で単純に置き換えられる訳ではないのです。

エスペラントの語彙の特徴は、造語法を生産的に活用しているところにあります。varma からは、拡大接尾辞 -eg- と指小接尾辞 -et- をつけることで varmega と varmeta が派生され、また、反対語の接頭辞mal-を伴って malvarmega と malvarmeta が派生されます。

接尾辞 -eg-, -et- は、他の多くの接尾辞のように、意味や品詞の異なる、別の単語を作るというより、語幹の意味に含まれる性質や行為、規模の程度を強めたり弱めたりするものです。付随的に、親愛や軽侮など感情的な評価が加わることも間々あります。これらの接尾辞が付加されて、意味のずれた単語ができること(dento「歯」- dentego「牙」など)もありますが、そのような例は限られており、一般化すべきではありません。

このような成り立ちからして、varmaの方が意味的にもより基本的、包括的であって、広く使うことができます。varmega は二次的で、高温を強調するという特殊化が加わり、場合により、さらに不快感などの感情的な評価が加わったものです。当然、頻度は varma の方がずっと高いのです。

『エス日』でvarmegaに「〔異常に〕熱い, 暑い」という訳語を与えたあとで「日本語の「熱い・暑い」はたいていの場合 varma でよく, 必ずしも varmega と訳す必要はない」と注記してあるのは、このためです。このように、varma / varmega の関係は、「あたたかい / あつい」とも、英語の warm / hot とも、違っています。

varmetaの意味を表せる日本語の一単語はないようです。『エス日』では「ほんのり温かい, 生暖かい」が載っていますが、これは単に参考と考えてください。状況によっては別の訳語が適切になるでしょう。エスペラントの習得にとっては、varma に指小接尾辞がついて特殊化したものと、エスペラントの語構成のなかで理解しておく方がずっと重要です。

varma からは上に挙げたほかにも多くの派生語が作られます。名詞語尾をつけて名詞 (mal)varmo にしたり、接尾辞 -ig-, -iĝ- と動詞語尾をつけて動詞にしたりして、よく使われます。mezvarmaはあまり頻度は高くありませんが、ほどほどの温度であることを表せます。

基本語の範囲を離れると、varma からの派生語でない温度形容詞もあります。tepida「なまぬるい, 微温の」、frida「低温の, 冷たい」、friska「涼しい, ひんやりした」などです。もっとも、これらはうまく使える場面が限られるので、上級者以外には積極的に使うことをお勧めできません(ただし fridujo「冷蔵庫」)。このほか、frosto「凍りつく寒さ」からのfrosta「氷のように冷たい」、ardi「白熱している」からの arda「白熱の, 燃えるように熱い」などによって温度を表現することもできます。

varmaに本来の意味以外の転義があることはよく知られています。『エス日』の語義3の「〔心・態度の〕温かい, 思いやりのある」と語義4「熱心な, 熱烈な, 興奮した」です。この使い方をもう少し詳しく見てみましょう。なお、もちろん、副詞 varm(eg)e として動詞を修飾することもあります。

相手に対して親身な様子を表す語義3の使い方は数多く挙げられます:varma danko, koro, okulo(まなざし), rideto, saluto, sento, simpatio, sinteno, tono, voĉo; varme akcepti, bonvenigi, gratuli, inviti, konsili, rekomendi。forte rekomendiは普通に使える表現ですが、varme rekomendi ならば「相手のことを思って」の感じがよりよく出ます。また、varma etosoはお互いのことを思いやる、なごやかな雰囲気を表すでしょう。

一方、内的な激しさを表す語義4の典型的な例は、争いに関する場合(varma batalo, debato, diskuto)です。感情の激しさを表す表現(varma amo, deziro, entuziasmo, kredo, larmo, sango)もこれでしょう。

もっとも、この二つの転義ははっきりと分けられないのかもしれません。賛意を表す場合(varme aplaŭdi, aprobi, subteni)、相手に対する思いとも激しさとも考えられます。相手に対する強い感情を伴う動作(varme karesi, kisi)も同様です。

反対語 malvarma にも似た使い方「〔心・態度の〕冷たい, 冷淡な」があります。連語として malvarma etoso, koro, okulo, tono, voĉo など、varmaと共通する名詞も現れますが、indiferenteco, kolero, malamo, malestimo, skeptikismo など否定的な感情を表す名詞とともに使われることは特徴的です。「心のこもらない」(malvarma ĝentileco)、「冷徹な」(malvarma racio)などと捉えられる場合もあります。


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